• 2025/05/22 掲載

AIも半導体も出遅れ? 経産省が迫られる「選定」と「切り捨て」とは

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「選択と集中」が日本の産業政策の鍵とされる今、経産省が描く“集中投資”の戦略が注目を浴びている。だが、その裏には“切り捨て”という避けがたい現実がある。米中が巨額投資で狙いを定める中、日本はどう動くべきか。研究開発の柔軟性、人材の再配置、そして規制の壁…。成長分野に注がれる光の陰で、見過ごされがちな課題に迫る。
執筆:小達 紀治   編集:ジャーナリスト 川辺 和将

ジャーナリスト 川辺 和将

元毎日新聞記者。長野支局で政治、司法、遊軍を担当、東京本社で政治部総理官邸番を担当。金融専門誌の当局取材担当を経て独立。株式会社ブルーベル代表。東京大院(比較文学比較文化研究室)修了。自称「霞が関文学評論家」

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国家標準戦略素案で重点分野が絞られつつある
(出典:経産省「イノベーション拠点としての 国際競争力強化に向けて 」資料より)

世界で進む重点分野への集中投資

 国際社会で競争力のある稼ぎ柱となるような産業を育てるため、日本全体として「選択と集中」を進めるべきだ、という声が高まりつつあります。

 3月に政府が開いた有識者会議(経済産業省産業構造審議会イノベーション・環境分科会イノベーション小委員会)では、他の主要国と比べて日本が「選択と集中」の波に乗り遅れている現状を問題視する声が上がりました。会合での議論をベースに、国際的な動きと比較したこの国の立ち位置と課題について確認していきましょう。

 世界の有力国では、重要技術となる分野を絞り込み、戦略文書にリスト化して、重点的に支援する政策を進めています。

 たとえば米国では「CETs(Critical and Emerging Technologies、重要な新興技術)」と題するリストを作成し、その最新版(2024年2月)では人工知能(AI)やバイオテクノロジー、半導体、宇宙技術などを重要分野として挙げています。

 トランプ大統領は、再就任後、CETsをベースにした集中投資に前向きです。同氏は2025年3月下旬、マイケル・クラツィオスOSTP(科学技術政策局)局長に対し、重点分野をめぐる政策について指示しました。その中で、原子爆弾を開発する「マンハッタン計画」と、宇宙開発をめぐる「アポロ計画」、そしてインターネットの誕生を引き合いに出し、イノベーションが米国の原動力だったと指摘したのです。

 この上で、「CETsにおいて、潜在的な敵対国に対する優位性を維持しながら、比類なき世界のリーダーとしての地位を確保するにはどうすればよいのか」「米国の科学技術事業を活性化させるにはどうすればよいのか」「科学の進歩と技術的イノベーションが、経済成長を促し、米国民の生活を向上させるにはどうすればよいのか」の3点に取り組み、「科学の新たなフロンティアを切り開く」よう求めました。

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各国で「選択と集中」が進んでいる
(出典:経産省「イノベーション拠点としての 国際競争力強化に向けて 」資料より)


 また、中国は、2021年3月に定めた「第14次五か年計画」の中で、「国家実験室の再編や国家科学センターの建設の対象分野」として、AIや量子情報、バイオメディカルなどを認定。「ブレイクスルー強化のための重要な先端科学技術分野」と位置づける次世代AIや脳科学、遺伝子、臨床医学などとともに、戦略的な投資を行っています。

 同様の戦略文書はそのほか、イギリスやオランダ、ドイツ、韓国、オーストラリアといった国々でも作成されています。いずれも2020年代に入ってから最新版が策定され、AIや半導体から「深宇宙、深地球、深海、極地探査」(中国)、「次世代原子力」(韓国)、「循環型経済の基盤」(ドイツ)まで対象領域はさまざまです。

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各国が設置しているイノベーション拠点
(出典:経産省「イノベーション拠点としての 国際競争力強化に向けて 」資料より)


 では、各国が定めた重点分野には、どのような支援が行われているのでしょう。半導体分野を例にとると、米国では2022年、設備投資などへの補助基金(5年で390億ドル=約5兆3,000億円)や研究開発基金(5年で110億ドル=約1兆5,000億円)、設備投資に対する25%の減税措置などを行っています。

 中国では地方政府を合わせて10兆円超の半導体向け産業の基金があり、ヨーロッパでは2030年までに累計430億ユーロ(約6兆2,000億円)規模の官民投資を計画。台湾では2023年5月時点で累計2.1兆台湾元(約9兆4,000億円)の投資を行い、韓国では2026年までに340兆ウォン(約35兆7,000億円)以上の投資を達成する方針です。 【次ページ】なぜ出遅れ? 日本の現状と課題
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