• 2006/05/30 掲載

【NETWORK Guide】モンゴルでの大実験!総区間75kmを無線LANでつなぐ!!

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日本でも有線の通信が困難な僻地などでは、無線LANによるネットワークインフラが陰ながら活躍している。この無線LANを使って、総区間75kmをつなぐ試みが行われた。ここで取り上げる事例は、海外で行われたもの。大相撲で活躍する朝青龍を育んだ国、モンゴルだ。この広大な実験の全貌とシステム構築の概要に迫る。
大水祐一 Omizu Yuichi
通信事業者に勤務のかたわら、技術解説を執筆。勤務先では企業向け無線LANの設計に従事しつつ、オフの時間も利用し日々モバイル・ワイヤレスの新技術をウォッチしている。


モンゴル
舞台はモンゴル
写真からはわかりにくいが、左側のポールの根元に風力発電と太陽光発電のハイブリッドシステムが設置され、風車やパネルなどの設備がポールに取り付けられている。実際には風が強過ぎるため風力発電は向いていないという。右側のポールにはアンテナと無線LAN設備が取り付けられている。


■無線LANを長距離固定アクセスに使う

 次世代無線技術として、都市全体を対象にする広大なエリアでワイヤレスブロードバンドを実現するWiMAX(IEEE802.16)などに注目が集まっている。国内でも2.5GHz帯をこうしたワイヤレスブロードバンドの技術として新たに割り当てるよう検討され始めており、携帯電話の3.5Gと並んで、通信業界のホットなトピックとして期待が高まっている。

  ワイヤレスといえば、すでに広く普及しているのがIEEE802.11の無線LANだ。実は元祖ワイヤレスブロードバンドともいえる使い方として、この無線LANが長距離・広域間の固定アクセスに使われることがある。国内の事例としては、1998年頃に長野県安曇村のペンション間を接続するのに無線LANが設置されたのが最初であり、それ以後多数の使用例が登場している。活躍の舞台となるのはやはり過疎地域で、主に公共の建物間を結ぶのに活用されることが多い。

  IEEE802.11の伝送規格のなかでも、2.4GHz帯を使う802.11bもしくは802.11gであれば屋外利用が可能であり、設置に免許が必要ないため手軽に利用できる。ただしこれは万能というわけではない。というのも、もし誰かが同じ周波数帯を使用していた場合、干渉や混信などが起こってしまう可能性を持つのである。また、国内では電波法の規制が厳しく、アンテナの性能にもよるが全方向型で1km、指向性を絞ってもせいぜい数kmしか飛ばすことができない。

  ここで無線LANを活用して数10キロメートルにおよぶ長距離間の伝送を実現させた事例を紹介したい。ここで取り上げる事例は、海外で行われたもの。大相撲で活躍する朝青龍を育んだ国、モンゴルだ。
 

■モンゴルの人口密度は1平方kmあたり1.6人

  モンゴルといえば、真っ先に思い浮かぶのが大草原の国ということではないだろうか。日本の4倍である約146万平方kmの面積に253万の人々が暮らす。人口密度は1平方kmあたり1.6人。村と村の間が数10km離れていることも珍しくなく、日本から想像できないほど広大な国土をもつ。
 
  こうしたところで有線のインターネット接続サービスを提供しようとすれば膨大な設備投資が必要となる。必然的に無線という手段の活用に向かわざるを得ない。現時点で技術の完成度と価格を考えた場合、最適解としてIEEE802.11ベースの無線LANに落ち着いた。

■総区間75kmを無線でつなぐ!

 2005年11月から2006年3月にかけ、日本の協力によりモンゴルで長距離無線インターネット伝送実験が行われた。モンゴルの地方都市バガヌールを起点とし、そこから実に50km以上離れた村ムングンモリトを接続するものだった。

モンゴル実験の総接続区間 総区間は75kmにおよぶモンゴル実験の総接続区間

 このシステム構築を担当したのは、NTT東日本ビジネスユーザ事業推進本部の草野晴実担当部長だ。2003年より幾度もモンゴルを訪問し、郵便電話庁の長官に無線による接続方法を紹介。2003年末から2004年にかけ、ウランバートル郊外で電話局と3キロメートル離れた学校との間を接続する実験を行った。それが成功したことからさらに本格的な実験を計画、APT(アジア太平洋電気通信共同体)から援助を得て、今回の実証実験を行なう運びとなったわけだ。

  使った規格はIEEE802.11b。間に3つの拠点を設けて中継し、その総区間は実に75km、うち最長の区間は44kmにおよんだ。国内では認められない100mWという大出力の設定を行なって伝送を試みるのだが、これほどの長距離で果たして十分なパフォーマンスが出るのか、やってみなければ分からなかった。


中継所1の様子
かつてソ連軍により建設され、現在は使われていない鉄塔を中継所に利用している。鉄塔自体はかなりの高さなのだが、無線LANの設備は地上に近い高さに取り付けている。
中継所写真1 中継所写真2


中継所1の無線LAN設備
冬の間、現地は-50℃にもなる。機器の動作温度の範囲を超えるため、設置ボックス内に綿を詰め込んで温度を維持した。逆に夏の間は綿を抜く必要がある。
中継所写真3 中継所写真4


■75km離れても2.7Mbpsのスループットを発揮!!

 測定したところ、結果は上々。75km離れても2.7Mbpsというスループットが得られたのである。それまで外部との連絡手段といえば、品質の劣化した裸の電話線(裸線)しかない村に、インターネットが届いたのだ。VoIPゲートウェイを接続してIP通話も行われ、劣化した裸線上の通話とは全く異なる明瞭な音声に驚きの声が上がったという。このほか、実験開始の記念式典ではIPテレビ電話も試みられた。これらの設備は、実験終了後もそのまま実用システムとして有効に利用されている。

モンゴル実験の接続速度 75km離れても2.7Mbpsを実現モンゴル実験の接続速度


無線でつながったムングンモリト村の様子
いままで通信設備といえば品質の劣化した裸の銅線(電話線)だけで、かなり音質の悪い電話によるコミュニケーション手段しかなかったムングンモリト村。今回の実験で、小学校ではインターネットを学習する授業も開かれた。子どもたちも真剣なまなざしで見守る。なお、村内の伝送については近距離向けの屋外無線LANシステムを利用して電話局(中継所3)と各拠点を接続した。
ムングンモリト村の学校 真剣なまなざしで見つめる子供たち

 草野部長は言う。「この広大な国土に光ケーブルの敷設は非現実的。先進国がブロードバンドの恩恵を受けている時に、いままでと同じ生活をこれから何10年もしなくてはいけない。でも、このしかけがあれば、それを解決できるかもしれない」。大草原の国のIT革命のカギは、まさにワイヤレスブロードバンドが握っている。

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