• 2007/08/01 掲載

【掛谷英紀氏インタビュー】 「学者のウソ」をなくしましょう(2/2)

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情報発信を嫌がる研究者

――掛谷さんの本を読んで思ったのは、理系のほうが自浄作用が働きやすいんじゃないかと。方法論の違いによるところも大きいと思いますが、たとえばニセ科学に対して、マトモな研究者はきちんと批判をする。ところが『学者のウソ』でも触れられていたように、男女共同参画が進めば出生率が上昇する、というのはウソだということが実証的に示されても、無視したり、言い訳したり、開き直ったりで、議論が深化していかない。

掛谷■
自然科学と社会科学を比べたら、おそらくそうだと思います。ただ、ニセ科学について言うならば、私も批判する立場であることに変わりはありませんが、それを真偽の水準や証明されているかいないかで争わないほうがいいと思うんです。

 そういう議論の仕方をすると、逆に相手の術中にハマってしまうし、「実在とは何か」という厄介な議論になりかねない。それよりも、予測力や有用性の有無という土壌で議論をしたほうが、ハッキリと基準が定めることができる。


――水に「ありがとう」と話しかけると、きれいな結晶ができるということに、予測力はあるのかと?

掛谷■
そもそも「きれいな結晶」の定義が必要だし、「きれいな結晶」が有用なのかどうか。そういうふうに議論を持ち込んだほうがいいと思います。


――でもアカデミズムのなかでは合意されている予測力や有用性は、マスメディアを媒介しないと、一般の人たちには伝わっていきませんよね。

掛谷■
メディアの無責任ぶりに対しては、「言論責任保証事業」ということをずいぶん前から言っているんですが、その一方で学者の側にも責任はあります。

 理系の人って、文章を書くのが苦手な人が多くて、理系的な発想やセンスを世の中に伝えたがらないんですね。でも、それじゃまずい。理系の研究者って、結局、税金で研究をしたりごはん食べてるわけです。それなのに、オレたちは研究するのが仕事で、それを社会に対して伝えるのは仕事じゃない、というのはおかしい。

 ところが、実情はそうなってしまっている。たとえばマイナスイオンは効果があると世の中に広まっているときに「それはウソです」と伝えずに、あいつらバカだねといって、研究室で専門家として笑って優越感にひたるだけ。それはいかんでしょう。税金で仕事をしているんだから、そういう情報を発信するのも仕事のはずなんですけど、いまの人事制度だと、世の中に対する情報発信って全然評価されない。だからみんなやらないんです。


「学者のウソ」をなくすために

【コラム】掛谷英紀氏インタビュー 「学者のウソ」をなくしましょう
『学者のウソ』
――『学者のウソ』では学歴エリート批判も痛快でした。

掛谷■
コミュニケーション強者ばかりがトクすることにすごく違和感があるんです。以前、高学歴者の集まる同人誌のような媒体で、女性は弱者だっていう議論があったのですが、あなたたちのいう「女性」は上澄みのことだろうと思ってしまう。それは弱者保護という名の既得権益保護でしかなくて、本当の弱者が視野に入ってないんですね。

 たとえば女性の議員を半分にしたいのであれば、クォータ制はまちがいです。特殊な女性が増えるだけだから。本当に公平を期すなら、抽選にするのが一番公平ですよ。老若、学歴、階層などもランダムにするように抽選でやるのが、一番利益配分として公平になる。それがうまくいくかはわかりませんが。


――さきほど話に出た「言論責任保証事業」はアイデアとして面白いと思います。簡単にいえば、予測力の有無によって金銭を分配する仕組みを作り、言論の責任を担保しようということですよね。でも、現実に広がるかどうかというと、難しいのでは?

掛谷■
よく勘違いされるんですけど、世の中のあらゆる言論を評価すべし、ということではないんです。お金を出して、ちゃんと自分の言論の責任を取ろうという人や組織があるということを知ってもらえれば十分なんです。たとえばどこかユニークな大学や企業が一緒にやろうと言ってくれれば、それだけで世の中にもずいぶん広まる。それはありえない話ではない。

 ホラ吹いて研究予算を取るのが問題だと思っている人は多いですから、問題意識のある人で意思決定権を持っている人がやり始める可能性はあると思います。


――それが「学者のウソ」をなくしていくことを願っています。今日はどうもありがとうございました。

(取材・構成:斎藤哲也


●掛谷英紀(かけや・ひでき)
1970年大阪府生まれ。1993年東京大学理学部生物化学科卒業。
1998年東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。博士(工学)号取得。
通信総合研究所(現・情報通信研究機構)研究員を経て、現在筑波大学システム情報工学研究科准教授。専門は映像メディア工学。技術者倫理教育にも従事。
著書に『日本の「リベラル」』(新風舎)、『学問とは何か』(大学教育出版)がある。

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