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  • 2007/10/02 掲載

個人情報「過」保護の見直し(最終回):過剰反応に対する「解釈論的対応の推進」(2/2)

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解釈論的対応の推進

 これまでに散々述べてきた通り、立法当事者による解釈論的対応はいただけないが、政府の運用当事者による個人情報の有用性に配慮した形での積極的な解釈論的対応は大歓迎である。前述の「事務局案」に基づいて個人情報保護法部会で議論と検討を行った結果、「意見書」作成に至る間にかなりの追加や修正が行われた。「意見書」の過剰反応についての箇所の一部だけでも、下記引用の下線部の通りの追記または入れ替えが行われている。今後は、この線に沿った解釈が通用することが明らかになった。

Ⅱ 全般的事項
1 いわゆる「過剰反応」について
(1) 現状
ア 個人情報保護法第23 条第1項において,個人情報取扱事業者は,原則として,あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならないとされている。

 ただし,社会公共の利益や他の権利利益の保護を優先すべき場合として,①法令に基づく場合,②人の生命,身体又は財産の保護のために必要がある場合であって,本人の同意を得ることが困難であるとき,③公衆衛生の向上又は児童の健全な育成のために特に必要がある場合であって,本人の同意を得ることが困難であるとき,④国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって,本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるときは,本人の同意を得なくても提供できることとされている。

 その際,本人の同意を得ることが困難であるときとは,本人の同意を得ることが物理的にできない場合,当該個人データの性質,利用目的等が本人に知られる等により支障が生じるおそれがある場合等が考えられるところであり,あらかじめ本人の同意を得ようとすることが必ずしも求められるわけではないと解釈されている。

 以上により「本人の同意を得ることが困難であるとき」の解釈として、同意を取得することが物理的に困難なときだけでなく、たとえ物理的には可能であっても、もしそうすると相当の支障が生じる恐れがある場合も含まれることが明らかになった。現実の必要性にあわせた拡大解釈が可能になるのだから、これだけでも大違いである。

 また「意見書」は、「これらの規定(上記引用の①~④のケース)にあてはまらないときであって、現行の当該規定と同等の合理性があり、なお同意を得ずに提供することが適当な場合があるかどうかについては、実態を十分に見極めながら、引き続き検討することが必要である」とも述べている。情報主体の利益になることが明らかな場合、たとえば学校当局が本人のために奨学金の申請を行う、といったことなどがこれに相当するだろう。

 この「意見書」のその他の部分も踏まえて、各省庁から出ている上乗せガイドラインや、市町村の上乗せ条例も漸次修正されることが期待できる。少なくとも、運用上は個人情報の有用性を尊重する方向で解釈されるはずである。

 企業の内部規程を作り直すにあたっては、「意見書」のその他の部分も参考にして思い切った解釈論的冒険を試みたらよい。よしんば行過ぎがあって個人情報保護法違反に問われかねない事態に陥ったとしても、次項に述べる通りいきなり刑事罰を科せられることはないのだから、十分に修正の機会がある。

罰則について


 最後にその刑事罰をはじめとした罰則規定について軽く触れておきたい。個人情報保護法は、罰則規定を設けているが、個人情報の不適切な取扱に対していきなり罰を科すということはない。個人情報取扱事業者は、違反をすると同法第6章第56~59条の規程により罰を科せられる。その内容は、命令違反に対しては6ケ月以下の懲役又は30万円以下の罰金、報告拒否及び虚偽の報告に対しては30万円以下の罰金である。なお両罰規定があるので、行為者のみならず法人や団体も罰金刑を科せられる。

 いきなり刑事罰を課せられることがないのは、この罰則が行政目的を実現することを第一義(注3)とした「行政罰」だからである。したがって、個人情報の不適切な取扱をしてしまったり、間違いを犯したりした場合でも、主務大臣による勧告や命令に誠実に対応すれば十分にこれを修正する機会はある(ただし、民事責任を伴う場合は個人情報保護法違反とはまったく別個に、被害者から損害賠償責任を追及されることがあるので注意を要する)。

連載第6回最終回終

(*3)行政目的を実現することを第一義
一般に行政目的の実現を確保する手段としては、行政法上の義務違反行為に対して制裁を加える行政罰と、強制執行や即時強制などの行政強制が現行法制度上認められている。




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