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- 2024/10/01 掲載
ヒズボラの「ポケベル爆弾テロ」はなぜ起きた?サプライチェーンの「新たな脅威」とは
何が起きた?「ポケベル爆弾攻撃」の背景
最初に明確にしておきたい点がいくつかある。まず、テロ活動や軍事作戦に関する情報は非常に限られていること。さらに、プロパガンダも多く含まれるため、現段階での分析は不完全である可能性が高いことだ。今回の記事では、主にOSINT(オープンソース情報)に基づいて、可能なかぎり信頼性の高い情報を整理していく。9月17日(現地時間)、レバノンやシリアなどヒズボラの活動拠点でポケベルが相次いで爆発し、死傷者が出た。報道を総合すると、記事執筆時点(9月20日時点)では12名の尊い命が失われ、3000人以上が何らかの被害を受けたとされている。
爆発したポケベルは、ヒズボラの幹部・構成員が通信用に利用していたもので、携帯電話やメールは盗聴のリスクがあり位置もトラッキングされやすいため、代替として配布されたものだという。
これで終わりかと思ったが、18日にはヒズボラのトランシーバーが爆発する事案が発生した。こちらは死者20名、負傷者は450人を超えている。SNSでは、前日のポケベル爆弾の被害者の葬列でトランシーバーが爆発したという映像も流れている。
どちらも、イスラエルによる攻撃とされている。2023年10月、パレスチナ自治区でハマスによる誘拐テロが発生して以降、イスラエルは同自治区に侵攻し、無差別とも思われる空爆を実施するなどハマスとの戦争状態になっている。
ヒズボラ(レバノンのシーア派武装組織で、イランとシリアの支援を受けている)も、イスラエルとの国境付近で戦闘を繰り広げている。イスラエルは、ガザ地区での戦争にヒズボラが本格的に介入するのを防ぐため、一連の通信機器への攻撃を行ったとみられている(その後、イスラエルはレバノン市内への空爆、ヒズボラによるベイルートへのミサイル攻撃などの応酬が続いている)。
ポケベル爆弾の製造元は「存在しない企業」
ポケベル攻撃(Pager Attack)に使われたのは、台湾のGOLD APOLLOのロゴや型番のラベルがついていた製品だ。トランシーバー爆弾は日本のiCOMの製品ロゴ、型番のラベルが確認された。しかし、両社ともに公式にテロやイスラエルとの関与を強く否定している。GOLD APOLLOは、「爆弾に使用された製品は、ブダペストのBAC Consultingという会社にライセンスしたもので、自社で製造したものではない」と主張している。現在、BAC Consultingのものと思われるWebサイトはアクセスできない。同社は2022年に設立されたばかりだ。住所として登録されているビルには、同一人物が設立した13の企業が登記されているというが、従業員や工場などの情報はなく典型的なダミー企業である可能性が高い。
一方、iCOMは、日本国内の工場でしか製造していない。海外では偽造品・模造品が多いため、現在流通している正規品にはホログラムシール、シリアルやQRコードによる製品トラッキングができるようになっている。しかし、当該製品はこれらの対策前に製造が中止されているため、偽造品かどうかの確認はできないという。
ポケベルは、ダミー会社が買ったライセンスによって生産された可能性があり、廃番となっているトランシーバーは、市場在庫やデッドストック(あるいは偽造品)をなんらかの方法で入手して改造する方法が考えられる。 【次ページ】今回のポケベル爆弾は「サイバー攻撃」に当たる?
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