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  • 2008/05/14

【連載】戦略フレームワークを理解する「ダイナミック戦略としてのH.ミンツバーグ『クラフティング戦略』」

立教大学経営学部教授 国際経営論 林倬史氏 + 林研究室

H.ミンツバーグは、M.ポーターのポジショニング論、J.バーニーの内部資源論を“戦略を策定する側からの視点”であり、ある視点が抜けていると指摘する。では、その視点とは何か。それを踏まえて、企業の経営者はどういったアクションを取るべきなのかを考察する。

完璧な戦略プラニングはありえない

 野球でもサッカーでも、F1でも、スポーツビジネスの世界において、策定したプラン通りにことが運ぶことがあるだろうか。基本的には、他のビジネスにおいても、プランを立てた企業の計画通りにことが運んだら、どの企業もナンバーワン企業ということになってしまう。そういう筆者自身も計画通りにことが運んでいたら、いまごろノーベル賞を受賞していたかもしれない。言い換えれば、戦略策定(プラニング)通りにことが運ばないのが当たり前である。

 それではなぜ、戦略策定(プラニング)通りにうまくいかないのだろうか。最大の理由は、市場経済(マーケット・エコノミー)を前提とする限り、どの企業も将来の需要予測、および競合する相手企業の動きを100%読めないからである。その結果、いかにすばらしい戦略プランを立てても、競合する企業もまた戦略プランを立てて対抗してくるし、市場環境も、競争環境もさらには政治的環境も変わってくるのだ。

必要なのは戦略と環境との擦り合わせ能力

 換言すれば、どんなに優れた企業であっても、需要予測や競合企業の動向を100%正しく見通して、完璧な戦略を策定することはできない。したがって、その策定された戦略が環境にうまく適合するかどうかは、現場で戦略を実行する人たちが、「トップで立案された戦略プランと市場環境とのズレ」をうまく修正するいわゆる「擦り合わせ能力」と、「現場と戦略立案部署との戦略のダイナミックな組織的練り直し能力」が必要となる。

 こうした組織能力を有していない企業においては、戦略立案者・部署は、戦略をうまく実行できない原因を現場のせいにし、現場は環境に適合しない戦略を立案した責任者・部署のせいにすることになる。

従来の戦略論は硬直的だ

 M.ポーターをはじめとする外部環境分析からの視点にせよ、J.バーニーらの(企業)内部資源説(Resource Based View=略称:RBV)からの視点にせよ、戦略プラニングを策定する側からの視点であることに変わりはない。それに対して、H.ミンツバーグは、策定された戦略案を実行する側からの視点も踏まえた、いわゆるダブルループ(double loop, Argyris:1977,1994)の戦略的重要性を指摘している。

 多くの戦略論は、「戦略策定 → 環境の変化 → 戦略の実行・市場環境への対応」の動的プロセスの中の策定の視点から一方的にみているために、環境変化に伴う「戦略と実行との間の乖離」を見過ごしてしまっている。その結果、策定時にはどんなにすばらしい戦略プランであっても、戦略策定が本来、環境を100%反映し得ない以上、そこにズレが生じていること、そして戦略の実行時に生じている環境との間のズレを無視したものとなっており、結果的に、策定内容に二重のズレが含まれることになる。

 他方、現場重視(=ボトム重視)の視点では、環境変化に創意工夫することによって、戦略を柔軟に変更し、その時点では現場レベルで個別的・創発的(emergent)に対処することが可能となる。しかしながら、現場と環境とのズレを組織的・戦略的に学習することにはならない。

 こうした「戦略策定からの視点」と「戦略実行からの視点」の双方から戦略をダイナミックな環境変化に対応させながら擦り合わせていく戦略、これが、H.ミンツバーグのいう「クラフティング戦略(Crafting Strategy)」である。

 ここでは、トップの「戦略プラニング」と、現場で創意工夫によって「創発された戦略」との間でのダブルループが組織的に確立され、環境に適合的な戦略策定と実行が可能となる。そしてトップとボトムとのダブルループが組織的に重要になるほど、組織のフラット化と同時にミドルの役割がいっそう重要性を増すことにも留意する必要がある(十川:2002)。

H.ミンツバーグ「クラフティング戦略(Crafting Strategy)」登場の背景

 H.ミンツバーグが主張する「クラフティング戦略(Crafting Strategy)」とは、本来、M.ポーターが述べた「日本企業には戦略がない。オペレーショナルに過ぎない。明確なポジショニングを開発している日本企業は皆無に等しい」という指摘に対する疑問から始まっている。もしそうなら、ホンダにせよキッコーマンにせよ多くの日本企業が着実に米国市場で足場を固め、逆に米国企業が苦境に立たされてきたという現実を説明できない。

 こうした日本企業は、「策定された戦略と米国市場での不適合」を現場の創意工夫によって克服してきた。H.ミンツバーグはこうした日本企業の戦略を、「創発的戦略」と名づけた。さらに、こうした「創発的戦略」にも既述の通り、現場任せのアメーバ型経営に陥る危険性を内包している。こうして、環境の変化・現場での学習と創意工夫・学習効果の全社的組織化とがうまく擦りあわされた戦略としての、H.ミンツバーグの「クラフティング戦略(Crafting Strategy)」が煮詰められてきたといえる。

H.ミンツバーグの「クラフティング戦略(Crafting Strategy)」の本質

 戦略論のキーワードのひとつである企業の「競争優位の源泉」を明らかにする場合、M.ポーターにせよ、J.バーニーにせよ、5つの競争要因の分析手法やVRIOフレームワークによる分析手法は、静態的ではあっても、それなりの有効性を保持しているといえる。それでは、「クラフティング戦略(Crafting Strategy)」の観点から「競争優位の源泉」を明らかにする場合、その分析上のフレームワークをどのように理解すればいいのだろうか。
 H.ミンツバーグ戦略論が指摘しているのは、分析手法ではなく、むしろ組織設計上の戦略的重要性である。すなわち、環境のダイナミックな変化に適合する最適戦略を策定するためには、それを可能にする組織的メカニズム、換言すれば、常に創意工夫し、学習し、自らソリューションを創造していく創造型組織設計が不可避となる。そのためには、トップ・ミドルのみならず構成員全員がエンパワメントされている知識共創型の組織デザインが前提となる。それでは、それはどのような組織デザインなのか? その答えは?
「それぐらいは自分で考えてよ!」、というのがH.ミンツバーグの論旨である。


参考文献:
Argyris,C.(1977), “Double Loop Learning in Organizations”, HBR, Sept-Oct.
Argyris,C.(1994), “Good Communication that Blocks Learning”, HBR, July-Aug, DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部編訳『組織能力の経営論』(第3章、第5章所収)、ダイヤモンド社、2007年。
Mintzberg,H.(1987), ”Crafting strategy”, HBR, July-August.
Mintzberg,H.(1994), " The Fall and Rise of Strategic Planning", HBR, Jan.-Feb.
Mintsberg,H., B. Ahlstrand and J. Lampel(1998), Strategy Safari, The Free Press, NY. 齋藤嘉則監訳、木村充・奥澤朋美・山口あけも訳『戦略サファリ』東洋経済新報社、1999年。
Porter,M(1996), “What is Strategy”, HBR, Nov.-Dec. 61-78, 竹内弘高訳『競争戦略論Ⅰ』ダイヤモンド社、1999年。
林倬史・関智一・坂本義和編著・ビジネスデザイン研究科著(2006)、『経営戦略と競争優位』税務経理協会
十川廣国(2002)『新・戦略経営・変わるミドルの役割』文眞堂。

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