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  • 2009/01/30 掲載

BCMとは(3)事業継続とレピュテーショナルリスク

~ERMを中心とする内部統制とBCMとの関係整理~

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事業継続マネジメント(BCM)は、ここ数年、各分野において注目され、用語としても定着してきた。また、組織における戦略マネジメントシステムおよびIT Continuity(IT継続)とBCMとの連係も今後ますます重要なものとなってくると見られる。しかしながら、BCMという用語のみが一人歩きし、事業継続マネジメントシステム(BCMS)のフレームワークを理解することなく、何となく従来の防災やリスクマネジメントの延長としてBCMを展開している企業も少なくないのではないだろうか。本連載では、BCI(Business Continuity Institute)日本支部 事務局長の前田 泉氏が、BCMとは何なのかを改めて問うとともに、BCMで求められる背景や戦略マネジメントのかかわりなどについて解説する。

前田 泉

前田 泉

BCI日本支部 事務局長。千代田化工建設の法務部において国際契約、各種プロジェクト契約のリスク審査などに従事。その後、Johnson&Johnson法務部、コンピュータ・アソシエイツ 人事法務統括部長、ソフトバンク・テクノロジー 法務部長、総務人事部長などを経て現職。NPO日本リスクマネジャー&コンサルタント協会 評議員/教育分科会委員/認定講師、JIPDEC 情報セキュリティ専門部会委員等。

BCMとリスクマネジメント

 第1回「BCMとは(1)BCMを中心とする戦略マネジメントの時代の到来」では、特にCOSO ERMモデルと事業継続マネジメントシステムとの関係を整理した。今回は、事業継続マネジメント(システム)が、従来からのリスクマネジメントや企業ブランドなどを含む無形資産(intangible asset)マネジメント、さらにはインターネットやwebマーケティングにおける企業価値の向上に、いかに有用であるかについて説明したい。

 事業継続協会(The Business Continuity Institute(BCI)、本部:英国)は、同協会が発行する「事業継続マネジメント(BCM) 実践ガイドライン 2008(A Management Guide to Implementing Global Good Practice in Business Continuity Management, 2008)(*)」においてBCMとリスクマネジメントのアプローチの違いを下記の表1のとおり記載している。

*「事業継続マネジメント(BCM)実践ガイドライン 2008」は、事業継続マネジメント分野におけるプロフェッショナルとして世界で活躍するBCIの会員を中心に、実践的ガイドラインとして、BCMの各プロセスにおける目的、手法、成果物などをまとめた有益なガイドであるとともに、BCM分野におけるベンチマークとして世界で活用されている。

表1 リスクマネジメントと事業継続マネジメントの違い
 リスクマネジメント事業継続マネジメント
主な方法リスク分析事業インパクト分析
主なパラメーターインパクト及び発生確率インパクト及びタイミング
インシデントの種類あらゆる種類の事態(通常は分類される)著しい事業の中断(混乱)の原因となる事態
事態の規模あらゆる規模(コスト)の事態(通常は分類される)存続を脅かすインシデントに対応するために戦略を計画するが、あらゆる規模のインシデントに対応できる
適用範囲中心的な事業目標に対するリスクマネジメントに主な焦点を当てる事業の中心的な力量の範囲外であるインシデントマネジメントに主な焦点を当てる。
強度漸次的に発生する事態から突然の事態まですべて突然の事態又は急速に展開する事態(ただし、漸次的に発生するインシデント深刻になった場合も、適切な対応ができる場合がある)

 事業継続マネジメントを学習中、あるいはこれから学習しようという人にとって、上記の表現はわかりづらいかもしれないので、少し簡単に説明しておこう。

 今までは、地震、食品衛生、製品保証(瑕疵担保)といった個別のリスクに対し、個々のリスクに対応したプランを、関連する管掌部門が対応すれば済んでいた。しかし、現在はそれだけでは済まなくなっているのである。たとえば、①新潟県中越沖地震が発生した際に、自動車製造ラインの部品として欠かせない「ピストンリング」の調達先だったリケンの被災により、日本の自動車メーカーの生産ラインがストップし、業界全体に大きな影響を与えた例、②インターネットの動画投稿サイト「ニコニコ動画」に、牛丼チェーン最大手「吉野家」の店内で勤務中と見られる男性が「テラ豚丼」として超大盛りにする動画を投稿し、盛りすぎてこぼれ落ちた食材や、店員のふざけた様子に対して、それを見た人々が不快感や不信感をあらわにしてブログが炎上してしまった例、また古くは、③ビデオデッキを購入した顧客が再生の不具合からメーカーである東芝に苦情を申し入れたところ、その対応に納得できない当該顧客が東芝の応対状況をインターネットに公開し、メディアやネットでの反響から不買運動に発展してしまった例、などのように、1つ1つの個別リスクが企業全体に大きな影響をおよぼすことがある。

 個別リスクに配慮することはもちろん、組織の重要業務やSCM(サプライチェーンマネジメント)を停止させたり、機能不全に陥らせるような「インパクト」を最小限に抑えるとともに、対応の不手際で組織の企業価値(有形・無形含め)にダメージを与えないための対応が求められている。

 事業継続マネジメントにおいては、組織が守るべき重要な業務と経営資源との関係を「ビジネスインパクト分析(BIA)」といわれるプロセスを通じて顕在化する。当該プロセスにおいて、特定の技術、データ、外部リソース、その他経営資源に過度に依存していないかどうかを見る。また、顧客をはじめ、ステークホルダーからの信頼に応え、競合企業によって自社の持つ市場シェアが取り崩されないためには、組織の重要業務の停止が余儀なくされた場合に、最低限いつまでに、何を、どのように復旧しなければならないのか、経営層が明らかにする必要がある。

 さらに、事業継続マネジメントでは直接的な「インパクト」に留まらず、その結果発生する連鎖的な「インパクト」が生じることのないよう、インシデントが発生した際の危機管理対応、ステークホルダーとのコミュニケーションマネジメント、メディアリレーションズなどを含めた実効力あるインシデントマネジメント体制を予めBCMプログラムの中で形成しておく必要がある。これは、企業価値やブランド価値を守るためにも大変重要である。

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