- 2026/08/15 06:10 掲載
なぜ「SaaSの死」でもWorkday買収? AIエージェント時代に価値が上がる企業の条件(2/2)
Workdayだけじゃない!巨大PEがSaaSを買う理由
Workdayだけを見ると特殊な案件にも見えるが、HCM(人的資本管理)市場ではすでに大型の非公開化が起きている。米投資会社トーマ・ブラボーは2026年2月、Dayforceを約123億ドル(約1兆9,800億円)で買収し、非公開化を完了した。米証券取引委員会(SEC)の資料によると、Dayforce株主には1株70ドルが現金で支払われた。WorkdayとDayforceには共通点がある。企業の人事、給与、勤怠など、日々の業務で簡単には停止できない領域を担うことだ。一度導入すれば、データ移行、業務フローの変更、従業員教育などが必要になるため、顧客が気軽に別サービスへ移ることは難しい。
AI時代になると、この構造に新しい価値が加わる。AIエージェントは、人間の代わりに「有給休暇を申請する」「経費を確認する」「候補者を探す」といった作業を実行できる。しかし、そのAIが仕事を完了するには、最終的に企業が信頼する人事・財務データや承認ルールへアクセスしなければならない。
Workday自身もこの転換を急いでいる。2025年にはAI企業Sanaを約11億ドル(約1,800億円)で買収すると発表し、同年11月に買収を完了した。Workdayは、SanaのAI検索、エージェント、学習機能を自社の人事・財務データと結び付ける狙いを示していた。
これは、SaaS企業が「画面を人間に操作してもらう会社」から、「AIが業務を実行するための基盤」へ変わろうとしていることを意味する。巨大PEが見ているのも、従来型SaaSの画面そのものではなく、その裏側に蓄積されたデータ、顧客基盤、業務プロセスなのかもしれない。
「SaaSの死」で最後に笑う会社、勝敗を分ける3条件
Workdayの動きは、その未来をかなり露骨に示していると言える。同社のSana Self-Service Agentは、Microsoft 365 Copilotから直接、休暇申請や経費精算の確認などを実行できる。つまり利用者は、Workdayの画面を開かなくてもWorkdayの機能を使える。Workday自身が、従来のアプリ中心の利用方法を崩し始めているのである。
さらにグーグルとも連携し、Sana Self-Service AgentをGemini Enterpriseへ統合した。Workdayの発表では、ユーザーがGemini Enterpriseから質問すると、権限や社内ルールを適用した上でWorkdayの情報を利用できるという。
ここから見えてくる「死ぬSaaS」とそうでない企業を分ける条件は3つある。第1は、他社AIからも必要とされる独自データを持つこと。第2は、閲覧だけでなく承認や支払いなど業務を最後まで実行できるワークフローを握ること。そして第3が、AIに「何をさせてよいか」を管理する権限やガバナンスである。
実際、WorkdayはAIエージェントを検証・監視する「Agent Passport」まで投入した。プロンプトインジェクションや情報漏えいなどを検証し、企業がエージェントを管理する仕組みだ。
こう考えると、「SaaSの死」で消えるのはSaaSそのものではなく、「人間に画面を操作してもらうこと」を前提にした旧来型の価値モデルなのかもしれない。AIが入口を奪っても、企業の正しいデータと業務処理を握る企業は残る。それどころか、多数のAIが働くほど重要になる可能性さえある。
Workday買収協議が示しているのは、ソフトウェア業界の終わりではない。AIによって、ソフトウェア企業の「価値がある場所」が移り始めたということ。その変化を先に乗り越えられるかどうかが、これからのSaaS企業を大きく二分しそうだ。
IT業界・ITベンダーのおすすめコンテンツ
PR
PR
PR