- 2026/08/19 11:55 掲載
PKSHAの決算がヤバすぎる…売上84%増の裏で進む「AI×コンサル」大変革の正体
上野山勝也氏(写真左)
売上84%増、それ以上に重要なPKSHA決算の詳細
PKSHA Technologyは8月13日、2026年9月期第3四半期決算を発表した。数字を見ると、まず目を引くのが売上の伸びだ。2025年10月から2026年6月までの累計売上収益は283億3,794万円となり、前年同期比84.1%増。事業利益も47億1,445万円と46.3%増えた。調整後EBITDAも59億9,600万円で40.7%増となっている。一方、親会社の所有者に帰属する四半期利益は26億3,244万円で2.0%減だった。これだけを見ると「増収減益」に見えるが、前年同期にはSapeet株式の一部売却益や、残存持分の再評価益という特殊要因があった。会社側によれば、この要因を除けば税引前四半期利益は46.0%増、親会社の所有者に帰属する四半期利益も51.6%増だったという。
特に興味深いのは、その売上の増え方である。確かにサーキュレーションの子会社化が大きく寄与している。しかし、既存のAI Research & Solutionも31.4%増、AI SaaSも31.7%増となった。
むしろ今回の決算から見えてくるのは、もともと持っていた2つの成長エンジンが伸び続ける中、その周りに新しい事業が加わった姿だ。PKSHAの今回の決算が面白い理由は、AI企業としての稼ぎ方が変わり始めたことにある。
FDEの「先」を考えた、PKSHAを支える2つの事業
まず押さえておきたいのが、PKSHAをこれまで支えてきた2つの事業である。AI Research & Solutionは、企業ごとの課題に合わせて共同研究開発からソリューション提供まで行う事業だ。2026年9月期第3四半期累計の売上収益は99億8,866万円で前年同期比31.4%増、セグメント利益は25億1,958万円で37.7%増となった。単純計算のセグメント利益率は約25%。生成AIによって自然言語処理技術の適用範囲が広がり、ソリューション案件が増えているという。
もう1つがAI SaaSである。売上収益は85億9,857万円と31.7%増、セグメント利益は28億4,033万円で22.2%増だった。利益率を単純計算すると約33%に達する。会社側は自動応答エンジンを中心に新規受注とライセンスが積み上がったほか、グループ会社や事業間で顧客を相互送客したことも成長につながったと説明している。
この2事業、実は別々に展開しているわけではない。AI Research & Solutionで開発したアルゴリズムの成果を基に、汎用的なニーズへ対応するプロダクトをAI SaaSとして販売すると明記している。つまり、企業の現場に入り込んで課題を解決し、その中で繰り返し発生する課題をソフトウェアとして横展開する構造だ。
この姿は、生成AIの普及とともに注目を集める「FDE(Forward Deployed Engineer)」的なモデルとも重なる。FDEとは、エンジニアが顧客企業の現場に深く入り込み、業務を理解しながらAIやソフトウェアを実装していく役割を指す。PKSHAが自らFDEと位置付けているわけではないが、個社の課題に合わせてAIを実装し、そこで得た知見を再利用していくAI Research & Solutionの進め方には共通点がある。
ただし、PKSHAの場合はそこで終わらない。個社向けに作った知見をAI SaaSへつなぎ、プロダクトとして別の顧客にも広げていく。この「現場への深い入り込み」と「SaaSによる横展開」を同じ会社で持っていることが特徴である。
2025年には、PKSHA CommunicationとPKSHA Workplaceを本体へ統合し、ソリューションとSaaSの連携をさらに強めた。国内時価総額上位100社の約70%にAIソリューションまたはAI SaaSを提供していた一方、導入部署には拡大余地が残っていたという。
つまり「受託かSaaSか」という二者択一ではないということだ。個別案件から知見を得て、プロダクトへ変換し、それを既存顧客へさらに展開する循環型のモデルである。その2軸が今回も30%を超える成長を続けていることが、次の一手を理解する前提になる。
売上100億円、PKSHAの「第3の柱」が持つ意味とは?
その「次の一手」がAI Powered Workerである。PKSHAは今回、従来のAI Research & SolutionとAI SaaSという2区分から、AI Powered Workerを加えた3区分へ報告セグメントを変更した。同事業の第3四半期累計売上収益は100億3,403万円、前年同期比623.0%増。セグメント利益も6億8,013万円と286.1%増えた。もちろん、この数字は2025年に子会社化したサーキュレーションの連結寄与が大きく、「既存事業が7倍になった」という意味ではない。
つまり、従来のコンサルティングやプロ人材ビジネスとは少し違う考え方がある。
サーキュレーションは3万人を超えるプロ人材の知見を活用して企業の経営課題を解決してきた。一方で、専門家の知見は基本的に「その人が介在できる時間」に制約される。そこで、専門家の判断方法やノウハウをAIへ組み込み、より広い組織で活用できるようにしようというわけだ。
すでに実装例も出ている。サーキュレーションは2026年5月、PKSHAと共同で「AI Powered Pro」サービスを始めた。インサイドセールス業務では、従来1通約7分かかっていた顧客調査やメール作成、履歴入力をAIで支援。公表値では、アポイント獲得率が1.7%から2.8%へ上がり、同一工数でのアポイント獲得数は130%に増えたという。
重要なのは、人をAIに置き換えているわけではないこと。専門家の知見をAIへ移し、その能力をもって人を拡張する。 PKSHAが「AI Powered Worker」と呼ぶ理由はここにある。
コンサル・SIer業界激変?「人月商売」はAIでどう変わる?
ここまで分析すると、PKSHAが描こうとしている事業構造が見えてくる。まず、第1層のAI Research & Solutionで企業固有の複雑な課題に入り込み、第2層のAI SaaSでは共通化できる課題をソフトウェアとして横展開する。そして第3層のAI Powered Workerでは、ソフトウェアだけでは完結しにくい仕事に「AIで能力を拡張した人」を組み合わせる。この3層構造である。
PKSHA自身も、AIエージェントが単独で完結できる仕事はまだ限定的との認識を示している。上野山勝也代表は2026年の年頭所感で、AIと人の協働、いわゆる「ヒューマンインザループ」を適切に設計したサービスが伸びたと説明した。
この考え方は、上野山氏が語った「人を置き換えるAIではなく、人と人の間で働くAI」という「コネクティブAI」の思想ともつながる。
ここで重要になるのが、前述したFDE的な顧客への入り込み方である。
従来のSIerやコンサルティング会社では、顧客ごとの要件を聞き、エンジニアやコンサルタントを配置してプロジェクトを進める。もちろん各社でビジネスモデルは異なるものの、売上を伸ばす上で「何人を案件に投入できるか」が重要になりやすい。
これに対してPKSHAは、顧客の現場で得た知見をAI SaaSとして横展開し、さらにAI Powered Workerによって、人が担う仕事そのものにもAIを組み込もうとしている。
つまり、個別案件で得た知見を、その案件だけで使い切るのではない。AIやSaaSとして再利用し、さらに人の業務にも戻していく構造である。
従来のコンサルティングやプロ人材ビジネスでは、基本的には稼働する人が増え、その単価が上がるほど売上も大きくなる。対してAIが調査、情報整理、提案準備、ノウハウの再利用などを担えば、同じ人数でも提供できる価値を増やせる可能性がある。
現時点でこれは筆者の一考察に過ぎないが、PKSHAがAI Powered Workerを独立した報告セグメントにした意味を考える上では無視できない。
実際、AI Powered Workerの単純計算のセグメント利益率は約6.8%で、AI Research & Solutionの約25%、AI SaaSの約33%と比べれば、今後の生産性改善余地は大きい。ここにAIを実装し、プロ人材1人あたりの提供価値や案件処理能力が高まれば、売上拡大だけでなく収益構造そのものが変わる可能性がある。
もしこのモデルが進めば、PKSHAが競う相手も従来のAIベンダーだけではなくなる。AI案件を手掛けるSIer、DXコンサル、プロフェッショナルサービス企業まで含め、「企業の業務変革を誰が担うのか」という競争につながる可能性がある。
生成AI時代に問われているのは、「人を減らせるか」だけではない。顧客の現場へ深く入り込み、そこで得た知見をSaaSへ変え、さらにAIで人の仕事まで強化できるか。
売上84%増という決算の裏で進んでいるのは、AI企業の事業拡大だけではない。AI企業、SIer、コンサルという従来の業種区分の境界が曖昧になる中、ソフトウェアを売る会社から、AIによって人の働き方まで再設計する会社へ。PKSHAは今、その境界を越えようとしている。
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