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  • 2010/08/25

【連載】国際的差異を踏まえた新たなグローバル戦略論「AAA戦略」(ゲマワット) (3/3)

林 倬史研究室(国士舘大学政経学部)+井口 知栄研究室(慶応大学総合政策学部)

ゲマワット論の限界

 同時に、ゲマワット論の限界性についても指摘しておく必要がある。彼の理論的フレームワークでは、イノベーションを「多種類性(Variation)」との関連から論じている(翻訳では「多様性」と訳されている)。そこでは、企業が製品構成を、一方で地域市場への適応性(Adaptation)の必要から多種類化しながら、同時に他方で標準化し集約化(Aggregation)していくプロセスにおいて、新たな知識が企業内において国際的に移転、現地化、再結合されていく視点で述べられている。

 こうした論点は、事業展開が国際化するにつれて、新製品が追加され、製品構成が国際的に多種類化し、それにつれて新たな知識が国際的に移転する分、イノベーションの可能性も高まるという点において無視できない。しかし、彼の最大の弱点は、製品構成の多種類性(Variation)に基づいた「知識移転によるイノベーション」であって、「多様性(Diversity)に基づいた新たな知識創造の視点からのイノベーション」とはなっていないという点である。

 換言すれば、多様な人材による戦略的知識創造の視点からのアプローチとはなっていない点にこそ彼の理論の弱点がある。例えば、彼はユニリーバがインドにおける独自の流通ネットワークを活用して現地市場に適合した製品イノベーションに成功した事例を紹介している。この事例は、たしかにユニリーバが知識を移転し、現地経営資源を活用することによって現地適応型の製品イノベーションに成功したことを説明している。しかし、同社が国際的に製品イノベーションに成功している最も重要な理由の一つは、多様な国籍の人材を活用しながら戦略的に知識創造をグローバルな規模で行っている点にある。図3は、ユニリーバ、P&G、および花王所属の研究者(および技術者)が発表した研究論文の著者国籍数(共同執筆者国籍も含む)の推移を表している。著者国籍数は1981-1983年から一貫して増大し、同期間の1カ国(花王)、3カ国(P&G)および15カ国(Unilever)から、2006-2008年にはそれぞれ、10、20、31カ国にまで至っている。

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図3.ユニリーバ、P&G、花王の研究所が発表した研究論文の著者国籍数

C.Iguchi and T.Hayashi(2009), p.6.


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図4.3社の国際共同論文比率

C.Iguchi and T.Hayashi(2009), pp.4-5より作成


 さらに図4は、上記3社が発表した科学技術論文のうち、国際共同論文の比率を示したものである。同図に示されているように、ユニリーバやP&Gの発表論文のほぼ半数近くが海外国籍の研究者との共同論文となっている。図3、図4が示していることは、ユニリーバやP&Gの事例に典型的に見出されるように、海外市場に向けた製品展開を進めてきた過程において開発、創造されてきた新たな科学技術上の知識は、海外市場への依存度を強めるにつれて、次第に単独の同一国籍の研究者・技術者によって創造される以上に、多様な国籍のメンバーによって創造されてきていることを示唆している。

 ゲマワット論の弱点をあえて言えば、国際的な競争優位性の現代的源泉を、国ごとに差異のある知識や経営資源の単なる移転や活用に求めていくとする論理は、多国籍企業本国で開発された技術やマネジメントノウハウを現地に移転し、現地の経営資源を活用しながら現地適応していくという論理につながってしまう危険性を有している。

 むしろ、いままさに求められている経営戦略上の国際的課題は、知識や経営資源の移転の視点よりも、企業内外の多様な人材の活用をベースとした多様性のシナジー効果による新たな「戦略的知識創造の国際的システムの構築とマネジメント」の視点である。そうした意味においてゲマワットのCAGE フレームワークとAAA戦略論も、そこに分析の軸を置くべきであったといえよう。

 なお、最後にP.ゲマワットは、Mポーターを抜いて史上最年少でハーバードビジネススクール教授に抜擢されていることも付記しておきたい。

参考文献:
P.Ghemawat(2007), Redefining Global Strategies, Harvard Business School Press. 望月衛訳『コークの味は国ごとに違うべきか』文芸春秋社、2009年。
林 倬史「知識創造と文化的多様性のマネジメント」 『異文化経営の世界』 (馬越恵美子・桑名義晴編著・異文化経営学会著、第4章)白桃房書房、2010年
C.Iguchi and T.Hayashi(2009),“Knowledge Creation and Global Collaborative R&D Systems”, , International Journal of Global Business and Competitiveness,4(1), pp.1-17
林 倬史・中山厚穂「戦略的知識創造とダイバーシティ・マネジメント」『三田商学研究』Vol.51,No.6、2009年3月、25-51

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