社員にひざまずいてまで、新しい挑戦を応援する
ネットビジネスの利点の一つは、自分たちがやっていることが的外れの場合、短期間に抗議のメールが殺到し、より良いものを素早くつくり上げることができる、というのがアマゾンの創業者ジェフ・ベゾスの言い分だ。もちろんスタート時点で万全と思える準備はするものの、すべてがユーザーに受け入れられるとは限らない。そんな時にはユーザーの抗議の声を受け、すぐに修正していけばいいという考え方だ。
もちろん、ベゾスが顧客を軽視しているわけではない。「満足した顧客は、製品が良かったことを平均3人に話すが、不満のある顧客は平均11人に不平を漏らす」というフィリップ・コトラーの言葉を言い換えて、「満足できなかった顧客は現実世界で5人の友人にその不満について話をするだけだが、インターネット上で顧客の期待に背くようなことがあれば、その顧客は5000人に不満を広めることになる」と語っている。
それだけリスクを理解しているにもかかわらず、ベゾスはアマゾンの社員に対して、新しいことに挑戦すべきかどうか迷ったら、「かまうもんかと自分に言い聞かせろ」と言っている。
ベゾスによると、人がどんな時に後悔するかというと、たとえ失敗したとしても「何かをした」ことによる後悔は、「何もしなかった」後悔よりもはるかに小さく、そして成長や成功のためにはるかに大きなものをもたらしてくれる。
実際、アマゾンにはナイキのスローガン「とにかくやってみよう」にちなんだ賞がある。素晴らしい仕事をした社員のところにベゾスがやってきて、ひざまずいて使い古したナイキの靴の片方をうやうやしく差し出して「もったいなき幸せにございます」を繰り返すという。ぼろぼろの靴に価値はないが、ベゾスから直接声をかけられた社員は「あの誇らしい気持ちは忘れられません」となるという。
イノベーションに失敗はつきものだ。失敗を恐れて挑戦をやめてしまったら何も生まれない。迷った時には「かまうもんか」と言い聞かせて挑戦をする。そしてその結果がうまくいかなければ、たとえばユーザーの声を受けて何度でも改善していけばいいというのがアマゾンのやり方だ。ベゾスがアマゾンに根付かせようとした「かまうもんか」とか「まずやってみよう」という精神はトヨタ式改善を進めるうえでも最も大切な考え方の一つと言える。