• 2025/07/12 掲載

「お客さまの声」すべて聞く必要なし!イーロン・マスクが示す「埋もれない」商品開発

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120万台を超える予約を集めたイーロン・マスク氏の「サイバートラック」。決して現代的なクールなデザインとは言えないが、それでも熱狂的な支持を集めた理由は何か。『「選べない」はなぜ起こる?』を上梓した小島雄一郎氏が、お客さまの声に応えるだけでは生まれない、本当に選ばれる商品やサービスに共通する“ある視点”を解説する。
執筆:小島 雄一郎

小島 雄一郎

2007年に電通へ入社。3年間の営業経験を経て、第1回販促会議賞(現:販促コンペ)の受賞をきっかけにプランナーに転向。その後、同賞で5大会連続入賞。電通では社内ベンチャーとして大学サークルアプリの新規事業を立ち上げ、2014年のグッドデザイン賞ビジネスモデル部門を受賞。その後は生活者研究を専門としながら、子ども向けゲーム開発などで、世界3大デザイン賞であるRed Dotデザイン賞(ドイツ)や、D&AD賞(イギリス)、キッズデザイン賞(日本)を受賞。2023年に立ち上げた事業を売却し、電通を退社し独立。2024年より、自ら企画書を送って自宅に誘致したお酒のセレクトショップ“IMADEYA”の社外取締役に就任。著書は『広告のやりかたで就活をやってみた。』(宣伝会議)。日本経済新聞社のnoteである「日経COMEMO」で新時代のキーオピニオンリーダーとしても連載中。

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120万台を超える予約を集めた「サイバートラック」が示す、情報過多の時代における強力な「武器」とは
(Photo:Tada Images / Shutterstock.com)

イーロン・マスク氏の「サイバートラック」が示すものとは

 「これは絶対いける!」と思って開発した新商品も、市場に出してみたら類似のコンセプトがすでに並んでいる。生活者にとっては「どれを選んでも同じに見える」状態になってしまう。

 この膨大な選択肢の海の中では、「これは他とは違う」と生活者に伝えるのは非常に難しい。

 こうした状況に直面すると、自分のアイデアや商品が劣っているのではないかと落胆してしまうかもしれない。

 しかしここで重要なのは、これは決してあなたの創造性が足りないという意味ではないということだ。むしろ、「同時多発的発明」が起きるほど、あなたのアイデアが時代のニーズを正確に捉えている証拠かもしれない。

 それでも、市場で埋もれないためにはさらに一歩踏み込んだ差別化が必要になる。

 それは、「あなた自身の意思から生まれる商品開発」だ。

 類似した製品が溢れる市場で、真の「違い」を生み出すには、作り手の明確な意思表示が不可欠なのである。

 イーロン・マスク氏が発表した「サイバートラック」は、意思による差別化の代表例だ。

 カクカクしたデザインの車で、決して現代的なクールなデザインとは言えない。小学生の私の子供ですら、初めて見たときは「ダサい」と評していたくらいだ。

 しかしそこには「ダサいと言われてもいい。おれは作りたいものを作るんだ」という強い意思がある。だからこそ発表直後から大きな話題を呼び、120万台を超える予約が入るなど熱狂的な支持を集めた。

 この例に象徴されるのは「すべての人に好かれようとしない」という姿勢だ。

 「これが私たちの信念であり、それを共有できる人だけに選んでほしい」というスタンスが、逆説的に強い支持を生む。明確な意思があれば、生活者は「この考え方に共感できるか否か」という単純な基準で選択できるようになる。これこそ情報過多の時代における強力な「差別化」だ。

かつては「お客さまの声」は貴重だったが、今は…

 実は、1人でも多くのお客さんのニーズに応えたいという気持ちが、差別化を難しくしている。お客さん1人ひとりの希望に「幅広く応えたい」という想いと「軸を通す」必要性の間で葛藤が生まれてしまうのだ。

 特に中小企業や個人事業主にとって、限られたリソースの中で「誰に何を提供するか」を決めるのは容易ではない。ニーズを取り入れすぎると「何がウリかわからない」商品になり、かえって誰の心にも刺さらなくなる。

 かつて「お客さまの声」は貴重だった。商品をリリースした後のフィードバックを得るには、ハガキを同封したり調査会社に依頼したりと、コストがかかっていた。

 しかし今やSNSで自分の店名や商品名を検索すれば、そこは「お客さまの声」で溢れている。これがいわゆる「ソーシャルリスニング」だ。マーケティング用語の1つで、簡単に言えば事業者によるエゴサーチのこと。お客さまの声を拾い、あらゆる企画者、開発者、店主や作り手が商品をアップデートし続けた。

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SNSに溢れている「お客さまの声」を拾って、アップデートし続けた結果…
(Photo/Shutterstock.com)

 その結果生まれたのが今のコモディティ社会。似たり寄ったりのモノばかりの世界だ。

 まずは「お客さまの不満の声をすべて解消する必要はない」と割り切ることが重要だ。

 お客さまの声をすべて無視すべきとは言わない。しかし、聞きすぎると商品やサービス、お店の個性は失われる。あらゆるものが同じ方向に向かってしまう。

 また、お客さまの声は、必ずしも「真のニーズ」を表していない。声の大きい少数の顧客の意見に引っ張られたり、一時的な不満に過剰反応したりすることで、本来の商品やサービス、お店の価値が薄れていくリスクがある。

 2020年ごろから「共感マーケティング」という言葉が流行し、「これからは共感の時代だ」と謳われた。しかし今、その「共感の時代」は終わりつつある。なぜなら、あまりにも多くの事業者が同じように共感を元に商品を開発したり、コミュニケーションを取ったりするため、その真意がお客さんから疑われ始めているからだ。当初は嬉しかった事業者からの共感も、過剰供給されると嘘っぽく見えてくる。

 だからこそ、これからは「周囲を見渡さずに動くこと」が新しい戦略になり得る。お客様の声を自分たちの価値観でフィルタリングし、必要だと思った要素だけに絞って取り入れる姿勢が重要だ。 【次ページ】「意思」がない作り手に、魅力的な商品は作れない
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