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  • 2014/02/24 掲載

国士舘大 林教授「M.ポーターの『共通価値の戦略』(Creating Shared Value)」

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この論文は、2011年にM.ポーターがM.R.クラマーと共同で発表した企業活動と社会的利益との関係性をテーマとした論文である。

林 倬史

林 倬史

国士舘大学大学院経営学研究科・経営学部教授
立教大学名誉教授

「競争戦略論」から「共通価値創造の戦略論」への転換

 内容的には、2006年に同じく共同で発表した論文「Strategy and Society(邦訳:「競争優位のCSR戦略 (※1)」)」に続くものとなっている。この2006年の「競争優位のCSR戦略」での主張点は、企業のCSR(企業の社会的責任)と持続的競争優位の視点からの戦略上の重要性に力点が置かれていた。それに対して、この2011年の「共通価値(shared value)の戦略」では、CSR戦略では現代資本主義の抱えている危機的課題には対処できないという危機意識のもとに書かれている。

 M.ポーターの代表作である「競争の戦略」と「競争優位の戦略」 (※2)および分析ツールとしての「5 forces」の有効性は、インターネット時代になっても変わらないとするのが、従来のスタンスであった(2001年論文)(※3)。ところが今回の論文の出だしでは、「競争優位」どころか、「資本主義の危機」から述べはじめられている。

 従来の「5 forces」分析による競争優位なポジショニング戦略によって、一方では確かに企業は競争優位なポジションと利益を増大させたが、他方では、しかしながら経済的格差や環境問題等の社会的な解決課題を再生産させてしまい、まさに資本主義の危機を拡大させることにもつなげてしまった。 この2011年論文は、企業のとるべき戦略は、従来のCSR戦略を超えた、企業の経済的価値と社会的ニーズに対応する社会的価値の双方を満たす「共通価値」の創造の戦略であると主張する。この戦略は、言い換えれば、「経済の発展と社会の発展とを同時に可能とする」戦略といえる。彼はさらに、「企業本来の目的は、単なる利益ではなく、共通価値の創出であると再定義すべきである」とさえ述べている。「共通価値」創出の戦略ということは、事業活動自体に「経済的価値と社会的価値」の創造が内包されている戦略でなければならない。従来型のCSRプログラムは、事業活動の結果えられた利益のなかから、その一部を社会的課題に還元させようとするものであった。しかしそれでは、一方で社会的課題を作り出しておいて、他方で利益の一部をその解決に充てるだけでなんの本質的解決にもならない。これでは、「社会がうまく機能していないのは企業のせいであるといっそう非難される」。

 「かつての偏狭な資本主義観では、企業は利益を上げることで、雇用、賃金、購買、投資、税金を支えることで社会に貢献するというものであった。…したがって、社会問題や地域社会の問題はその守備範囲外にあるとする考え方が支配的であった」。こうした観点からでてくる考え方は、社会や環境上の問題は「外部費用」であり、これらの問題は政府やNGOの仕事として任せましょうということになる。

画像
図表1:偏狭な資本主義の戦略から高次元の資本主義の戦略へ

出所:M.E.Porter and M.R.Kramer(2011)より筆者作成


※1 M.E.Porter and M.R.Kramer(2006)
※2 M.E.Porter (1980,邦訳:1982)、M.E.Porter (1985,邦訳:1985)、これについては、【連載】戦略フレームワークを理解する「M.E.ポーターの競争戦略論」を参照のこと。
※3 M.E.Porter (2001)


【次ページ】共通価値創造の3つの方法

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