• 2025/12/07 掲載

BCGが教える“超有力”思考ツール、使い方を誤ると…世界的企業も警戒する「4つの罠」

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「天気がいいね」というひと言も単なるあいさつなのか、外出の誘いなのかは文脈次第だ。ビジネスでもこうした「コンテクスト」を読む力は欠かせない。市場分析、顧客対応、組織マネジメントなど、あらゆる場面で状況や背景を踏まえた判断が求められる。しかし、過度なコンテクスト重視は多くの危険をはらんでいる。世界的企業も細心の注意を払っている“罠”とは何なのか。『BCG 経営課題解決「20の思考ツール」 成果を最大化する「7つの要素」』を上梓したボストン コンサルティング グループ(BCG) マネージング・ディレクター&シニア・パートナーの井上潤吾氏が解説する。
執筆:ボストン コンサルティング グループ(BCG) 井上 潤吾

ボストン コンサルティング グループ(BCG) 井上 潤吾

ボストン コンサルティング グループ マネージング・ディレクター&シニア・パートナー、福岡オフィス代表。東京大学工学部卒業、東京大学大学院工学系修士修了、ペンシルバニア大学経営学修士(MBA)。日本電信電話(現NTT)を経て1995年にBCGに入社。BCGリスク・コンプライアンスグループの日本リーダー。テクノロジー&デジタルアドバンテッジグループ、およびテクノロジー・メディア・通信グループのコアメンバー。広範な業界における情報テクノロジー、およびデジタル分野の支援経験が豊富。著書に『守りつつ攻める企業―BCG流「攻守のサイクル」マネジメント』(東洋経済新報社)、共著書に『BCGが読む経営の論点2018』、日経ムック『BCG カーボンニュートラル経営戦略』(日本経済新聞出版)、共訳書に『情報スーパーハイウエーとリテールバンキング』(日経BP)、『クラウゼヴィッツの戦略思考』(ダイヤモンド社)。

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市場分析や顧客対応、あらゆるビジネスシーンでも背景を踏まえた判断が求められるが…
(Photo/Shutterstock.com)

ビジネスでも「コンテクストを重視」すべき場面は多い

 コンテクスト重視とは、ある情報や行動の意味や価値を、それ単体だけで捉えるのではなく、背景、状況、関係性の中で理解しようとする考え方である。その周囲の環境や前後のつながりとともに理解することによって、正しい判断ができる、適切なコミュニケーションがとれる、誤解を防いで信頼関係を築ける、効果的なマーケティングやビジネスの戦略が立てられる、といったメリットを享受できる。

 たとえば「天気がいいね」という表現が、単なるあいさつなのか、天気がいいからどこかへ出かけようか、という意味かは文脈によって変わる。このように、人との会話においては、相手の価値観や状況を考慮したコミュニケーションが求められる場合がある。同様に、ビジネスでもコンテクストを重視すべき場面は非常に多い。以下に例を挙げよう。

 マーケティングでは、市場の状況や文化の違いをコンテクストとして踏まえて施策を考える必要がある。たとえば日本とアメリカでは消費者の習慣や価値観が異なるため、同じ製品でも売り方や広告表現をそのまま使えず、検証が欠かせない。

 デザインや顧客体験でも、利用者の文脈に応じた工夫が必要だ。高齢者向けはシンプルさ、ビジネスユーザー向けは素早く情報を得られる設計、ナビアプリは歩行中と運転中でUI(ユーザーインターフェース)を変えるなどの配慮が求められる。

 営業や顧客対応においてもコンテクストの理解が重要である。たとえば自社のコールセンターへの問い合わせが増えたという事実があった場合、その背景にあるのが好意的な理由か不具合かを見極め、解約の懸念があるユーザーには適切なフォローや施策を打たなくてはならない。

 また、チームマネジメントでも相手のコンテクストを把握することは重要だ。たとえば部下の営業成績が低下した場合はその背景を理解し、状況に応じた支援を行うことがモチベーション向上につながる。

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【画像付き記事全文はこちら】
部下の営業成績が低下した場合でも、コンテクストを把握することは重要だ
(Photo/Shutterstock.com)

 経営戦略を考える際の重要な要素の1つとしても、このコンテクスト重視が挙げられる。その企業にしかないコンテクストの上に成り立つ戦略こそが唯一無二であり、その企業「ならでは」の戦略と言えるからである。第一線で活躍する経営コンサルタントは、このコンテクストに常に立ち返る習性を持っている。

過度な重視は禁物…起こりがちな4つの問題

 コンテクストを考慮することはビジネスの意思決定やコミュニケーションにおいて重要だが、過度に重視すると逆に問題となる。

1.コンテクストを重視しすぎて客観性を失う
 この業界では昔からこうだから、と過去の文脈にとらわれて、新しいデータを軽視すると、変わりゆく顧客の不満やニーズの変化を把握できなくなる。たとえば、老舗企業が、昔からの商品戦略に固執してデータ分析を活用しなかったため、消費者ニーズの変化に追従できず、市場での競争力を失う、といったことである。対策は、最新の事実を把握して、コンテクストを調整することだ。たとえば、顧客の購買動向や満足度、規制などの事実をデータで集めて、それまでの経験を検証して、進化させるのである。

2.ローカルを重視しすぎて、グローバル視点を欠く
 日本企業が、日本の顧客はこういうものを好むから海外でもそうに違いない、と決めつけ海外展開に失敗することや、米国企業が、米国で成功したビジネスモデルをそのまま日本に持ち込んで失敗する、といったことである。対策は、ローカルとグローバルのバランスを意識することだ。たとえばマクドナルドは、基本戦略は統一しつつ、地域ごとに商品やマーケティングをカスタマイズしてローカルメニューを導入している。その際は、各市場の特性をしっかり調査して理解しておくことが必要だ。

3.コンテクストを考えすぎてスピードが落ちる
 コンテクストの理解に慎重になりすぎて意思決定が遅れることがあってはならない。たとえば、社内のコンセンサスをとるのが大事、と過剰に時間をかけると、市場では競合相手にスピードで負けることになるし、相手の意図を深読みしすぎてすぐに行動に移せないと、たとえ良い施策であっても成果が出るまでに時間がかかりすぎることになる。対策は、すべてのコンテクストを完全に理解することを目指さず、80%の確信が持てたら意思決定することだ。たとえば、アマゾンではやり直しが可能な意思決定は素早く行うべきだ、という経営哲学が重視されている。

4.言語化しなくてもいいという空気が流れる
 コンテクスト重視だけを強調すると、特にハイコンテクストな企業文化が醸成されている場合、外国人や新しくその企業に入社した社員はインナーサークルに入れず、結果として全社の業績が落ちることにつながる。たとえば、社内の常識だから説明しなくても伝わると思っていたが外国人メンバーには伝わらなかった、とか、上司が部下に頑張るように言ったが、具体的な指示がなく部下は困惑する、といったことが起こりうる。対策は、コンテクストを考慮しつつも、明確に言葉で伝えることを社内の常識とすることである。たとえば、日本企業が海外進出する際は文化の違いを認識して、できるだけ具体的な言葉で指示する、社内の暗黙のルールを明文化してマニュアルにする、などである。

 上記を整理したものを図表1に示す。

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図表1:コンテクストを重視する際の陥りやすい罠と対策
(出所:ボストン コンサルティング グループ)
【次ページ】使い方を誤ると…誤解や間違った判断を招く事態も
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