• 2025/12/19 掲載

売上2兆円企業で中堅が次々退職…人事担当役員が決断した「年功序列からの脱却」全貌

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終身雇用と年功序列をベースとした人事制度が限界を迎えつつある今──。売上2兆円企業の人事担当役員が決断したのは従来のメンバーシップ型からスキル型人事制度への大転換だった。だが、制度移行には評価プロセスの構築、スキル体系の定義、そして何より現場の納得を得るための工夫が不可欠だ。この企業が実践した、第3回で紹介した思考ツールを活用する具体的手法を、『BCG 経営課題解決「20の思考ツール」 成果を最大化する「7つの要素」』を上梓したボストン コンサルティング グループ(BCG) マネージング・ディレクター&シニア・パートナーの井上潤吾氏が解説する。
執筆:ボストン コンサルティング グループ(BCG) 井上 潤吾

ボストン コンサルティング グループ(BCG) 井上 潤吾

ボストン コンサルティング グループ マネージング・ディレクター&シニア・パートナー、福岡オフィス代表。東京大学工学部卒業、東京大学大学院工学系修士修了、ペンシルバニア大学経営学修士(MBA)。日本電信電話(現NTT)を経て1995年にBCGに入社。BCGリスク・コンプライアンスグループの日本リーダー。テクノロジー&デジタルアドバンテッジグループ、およびテクノロジー・メディア・通信グループのコアメンバー。広範な業界における情報テクノロジー、およびデジタル分野の支援経験が豊富。著書に『守りつつ攻める企業―BCG流「攻守のサイクル」マネジメント』(東洋経済新報社)、共著書に『BCGが読む経営の論点2018』、日経ムック『BCG カーボンニュートラル経営戦略』(日本経済新聞出版)、共訳書に『情報スーパーハイウエーとリテールバンキング』(日経BP)、『クラウゼヴィッツの戦略思考』(ダイヤモンド社)。

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売上2兆円企業の人事担当役員が決断、実践した「年功序列からの脱却」の手法を解説する
(Photo/Shutterstock.com)

限界を迎えつつあるメンバーシップ型人事から脱却したい

 人的資本経営が注目される中、従来の終身雇用、年功序列をベースにしたメンバーシップ型人事制度は限界を迎えつつある。

 サービス業のZ社は、売り上げ2兆円、営業利益2,000億円の企業である。「環境変化を新規事業機会として捉えて進化する」を戦略方針とし、時代とともにビジネスモデルを進化させてきた。現在も成長中だが、中堅社員は自身のキャリア、求められるスキル、現在の自分のスキル保有状況に不安を持っており、それが離職率を上げている。

(※本記事に登場する企業・事例は、解説のための架空のものです。)

 Z社の人事担当役員L氏は、従来のメンバーシップ型人事制度から脱却する必要があると感じており、人事企画チームに自社に最適な人事制度を検討するように指示を出した。

3つの人事制度のメリット・デメリットを整理する

 人事企画チームは、まず人事制度の種類を類型化と構造化によって整理し、それを巡る最近の動向をまとめた。

 いま日本で一般的なメンバーシップ型人事制度は、社員を「会社の一員」として長期的に雇用し、配置転換やジョブローテーションを通じて幅広く育成する仕組みである。特徴は、終身雇用を前提とした長期雇用、職務の柔軟性、年功序列型の処遇、企業内教育による人材育成である。メリットは、柔軟な人員配置や長期的な育成が可能で、従業員の帰属意識や忠誠心が高まる点だ。一方で、職務や成果があいまいになりがちで評価が難しい、人材の専門性が育ちにくい、環境変化への対応力が弱いといった課題がある。

 ジョブ型人事制度は、職務内容を明確に定義し、その職務を遂行できる人材を採用・配置し、成果に応じて評価・報酬を行う仕組みである。特徴は、職務の明確化、能力・成果主義、市場価値に基づく報酬、スペシャリスト志向、雇用の流動性である。メリットは、専門性や生産性を高めやすく、評価が明確になり、市場変化に合わせた人材配置も容易になる点だ。デメリットは、柔軟な人員異動が難しい、職務内容の変化が激しい業界では対応しづらい、社員間の連携が希薄になりやすいといった点である。

 一方、スキル型人事制度は、社員が持つスキルを基準に採用・配置・評価を行う仕組みである。ジョブ型が職務を基準とするのに対し、スキル型は個人の能力そのものを重視する点が特徴である。メリットは、スキルに応じた柔軟な人材活用が可能となり、社員の学習意欲や自己開発を促進し、市場変化への対応力が高まる点だ。デメリットは、スキル把握や評価管理が複雑で制度設計に労力がかかること、スキル習得が遅れる社員が取り残されるリスクがあることだ。

 これら3つの制度を整理した結果が図表1である。

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【画像付き記事全文はこちら】
図表1:人事制度の比較
(出所:ボストン コンサルティング グループ)

 近年、技術革新のスピードが速くなり、仕事の内容が頻繁に変化するようになった。そのため、あいまいな所属を基準にするメンバーシップ型、または特定の職務に人材を固定するジョブ型よりも、柔軟に人材を配置できるスキル型人事制度が注目されている。

 スキル型は、特にデジタル分野やプロジェクト型業務が多いグローバル企業で導入が進んでいる。日本企業でも、DXや働き方改革を背景にスキル型組織への関心が高まっており、特にIT業界や先進的な製造業で、一部スキル型の導入が進みつつある。また、それ以外の業界においても、近年のグローバル化や労働市場の流動化に伴い、従来のメンバーシップ型だけでは競争力を維持できないという課題が指摘されている。

 そのため、ジョブ型やスキル型人事の考え方を部分的に取り入れながら、メンバーシップ型の良さも残す方向で制度の見直しを進める企業が増えている(図表2)。

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図表2:人事制度の見直しを進める企業が増えている
((C)FORS)
【次ページ】直属上司や役員…さまざまな立場を考慮したZ社の検討内容
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