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- 2025/12/15 掲載
「“高学歴が成功の鍵”を逆にすると…」新発想を生み出す「多角的視点」の鍛え方
ボストン コンサルティング グループ マネージング・ディレクター&シニア・パートナー、福岡オフィス代表。東京大学工学部卒業、東京大学大学院工学系修士修了、ペンシルバニア大学経営学修士(MBA)。日本電信電話(現NTT)を経て1995年にBCGに入社。BCGリスク・コンプライアンスグループの日本リーダー。テクノロジー&デジタルアドバンテッジグループ、およびテクノロジー・メディア・通信グループのコアメンバー。広範な業界における情報テクノロジー、およびデジタル分野の支援経験が豊富。著書に『守りつつ攻める企業―BCG流「攻守のサイクル」マネジメント』(東洋経済新報社)、共著書に『BCGが読む経営の論点2018』、日経ムック『BCG カーボンニュートラル経営戦略』(日本経済新聞出版)、共訳書に『情報スーパーハイウエーとリテールバンキング』(日経BP)、『クラウゼヴィッツの戦略思考』(ダイヤモンド社)。
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問題解決力アップ、「多角的な視点」を持つための思考法
多角的な視点は、1つの物事をさまざまな立場や角度から考えることを指す。単一の視点にとらわれず、異なる背景や価値観を取り入れて考えることで、より深い理解や柔軟な発想が可能になる。1つの考えに固執しないことで偏った判断を避けられる、さまざまな角度から解決策を考えることで問題解決力が向上する、異なる立場の意見を尊重しバランスの取れた決断が可能になり対立を回避できる、新しい発想を持てるので創造的なアイデアが生まれる、といった長所が挙げられる。多角的な視点を持つためには、次の5つの思考法が有効である。
1.他人の視点で考える
自分とは異なる視点に立って考えることで、多面的に物事を捉えられる。たとえば、スマホについて、子供の視点に立つと「スマホは便利だけど夢中になってしまい時間を奪われるもの」、環境活動家の視点に立つと「スマホの生産が環境に悪影響を及ぼしている」、企業の経営者の視点に立つと「スマホ市場は大きな利益を生むビジネスチャンス」と捉えられる。他人の視点を持つことで、新たな気づきを得られる。
2.「短期」と「長期」の両方で考える
ある出来事や決断が、短期的にどのような影響を与え、長期的にはどのような変化をもたらすかを考える。たとえば、環境保護のためにレジ袋の有料化を考える場合、短期的視点では、一時的に消費者の不満が増えるが、長期的視点に立つと、プラスチックごみが減って環境改善につながると考えられる。短期的な影響を考える視点だけでなく、長期的な視点を持つことで、持続可能な解決策を見つけやすくなる。
3.過去・現在・未来で考える
1つの事象が、過去にどのような影響を与えたのか、現在どうなっているのか、未来にはどう影響するのか、を考える。たとえば、電気自動車(EV)の普及について、過去ではガソリン車が主流で、環境問題が深刻化していたが、現在ではEVが普及し始め、充電インフラの整備が課題となっている。未来ではEVが完全に主流になり、エネルギー消費のあり方が変わると考えられる。時系列で考えることで、トレンドや変化を捉えやすくなる。
4.「メリット」と「デメリット」の両方を考える
物事には必ず良い面と悪い面があるため、両方の視点を意識することが重要である。たとえば、リモートワークの導入は、通勤時間の削減や生産性向上といった長所が挙げられるが、対面コミュニケーションが減り、チームワークが低下する可能性が短所として指摘できる。両面を考慮することで、バランスの取れた判断ができる。
5.否定的な視点から考える(止揚)
肯定的な意見とは反対の否定的な視点で考えてみると、新しいアイデアが生まれることがある。たとえば、「SNSは人と人をつなぐもの」という視点を逆にして、「SNSは人を孤立させる可能性がある」と考えてみる。また、「高学歴が成功のカギ」という視点を逆にして、「高学歴が守りの姿勢につながって挑戦できなくなる」と考える。あえて逆の視点を考えることで、見落としていた問題点や新しい解決策を見つけることができる。
日常で「多角的な視点」を鍛える習慣4つ
では、多角的な視点をどのように養えばよいか、以下に4つ挙げる。1.異なる業界や文化の情報を取り入れる
自分の専門分野や業界だけでなく、異なる分野のニュースや書籍を読む。たとえば、ビジネスの視点だけでなく、哲学や歴史、アートの視点を学ぶ。
2.反対意見に耳を傾ける
自分と違う意見を持つ人と議論することで、新たな視点を得られる。たとえば「スマホは便利」と思っていても「スマホ依存は問題」という意見にも耳を傾ける。
3.自問自答する
「この考え方は本当に正しいのか?」「ほかにもっと良い視点はないか?」「もし自分が尊敬するA氏の立場だったらどう考えるか?」という質問を自分自身に投げかける。
4.多様な人と交流する
異なる職業や年齢、国籍の人と話すことで新たな視点が得られる。
「他人の立場に立って考えよう」は時と場合によって変わる
我々は幼いころから、「他人の立場に立って考えよう」と学校でも家庭でも言われ続けているので、この概念自体に何ら新しいことはない。しかし、他人の立場といっても、時と場合によって考え方や感じ方が変わりうると考えた途端、変数が多くなる。感情の揺らぎまで考慮に入れると、他人の立場に立って考えるというのは、その揺らぎの中のどこに軸を置いて考えるかという議論になる。通常は、多角的な視点で考える場合も、その立場にいる人の「平均的な」視点で考えるのみで十分だ。しかしある立場の人が最重要で、その人の見解の揺らぎが大きく議論の結果を変えてしまう、という場合には、さらに深掘りして相手のそのときの立場をイメージして、揺らぎのどこに位置するかまで特定する必要がある。その際に役に立つのがたとえば図表1のように「相手がどのような立場なのか」をさらに細かく捉え、決裁権限があるか、人間関係はどうか、社内の派閥が影響していないかなどまで考える姿勢である。さまざまな要素を考慮して、その人だったらどういう見解を持つかを考えるのだ。
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