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- 2017/03/21 掲載
経産省 糟谷敏秀局長が、第4次産業革命には「ユースケース創出が重要」と語る理由
CeBIT 2017でドイツとさらなる連携へ
現場レベルでのデータ活用や生産の効率化に留まる日本の製造業
インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ(IVI)主催の「IVI公開シンポジウム2017 Spring」に登壇した糟谷氏は「その一方で、モノづくりを主導する製造業が、自らソリューションを提供するようなボトムアップの現場力も期待されている。製造業がソリューションを継続的に刷新できる仕組みや、データ提供の際にオープン/クローズの使い分けをする配慮も重要になるだろう」と説明する。
要するに、いま日本の現場力が強く問われているのだ。同氏は、2年前にドイツのインダストリー4.0を視察してきた企業が「あの程度のことであれば、すでに我々も着手している」という話をよく耳にしたという。
しかし、それらは生産現場におけるデータ活用と生産の効率化に過ぎない。糟谷氏は「欧米企業が目指すのは、生産段階でのデータ活用ではなく、サプライチェーンやエンジニアリングチェーンにまたがってデータを共有し、付加価値を生み出そうという試み。適用範囲が生産現場レベルに留まっているだけでは、欧米並みの改革にはならないだろう」と危機感を示す。
日本の製造業の強みは、現場の課題を踏まえ、俊敏かつアジャイルに改善していく点にある。そこにIoT、ビッグデータ、AIなどのデータを利用することで、「生産現場のみならず、サプライチェーンやエンジニアリングチェーン全体でも、迅速な改善ができる世界を目指していくべき」というのが糟谷氏の見解だ。
同氏は、アクセンチュアのグローバルCEO調査の結果(2015年)を踏まえながら、日本と海外の経営者で意識に大きな差異があることを提示。「中小企業は単に良いモノを製造するだけでは、もう生き残れない。どのようにビジネスモデルを組み立てていくか、その意識や取り組みが、日本の経営者にまだ足りないように思う」と語った。
第4次産業革命に向けた「政府版の船中八策」とは?
そこで同氏は。「政府版の船中八策」ともいえる日本の政策的課題と、その対処策について明らかにした。たとえば、スマート工場などの実証事業などを通じたユースケースを創出し、IVIのような意欲的なチャレンジを応援すること、その際に妨げとなる規制・制度を見直すこと、さらにサイバーセキュリティへの問題への対応などが挙げられるという。
「国内の家電製品やIT製品は防爆性能の規制があり、国際標準に対応するために数年間もかかる。そのため最先端のタブレットが現場で使えないという声があり、この問題も協議中だ。速やかな対応が重要だ」(糟谷氏)
また国際標準化への貢献(IEC/ISO)や、中小企業への導入支援についても検討しなければならない。人材育成は政策的に緒についたばかりだが、新しい知識や技術を習得するために、再教育を受けられるプログラムや仕組みをシステマティックにつくろうと画策中だ。MBD(Model Based Development:モデルベース開発)を進める育成プログラムを皮切りに、複数の人材育成プログラムを開始するそうだ。
「何事にもスピードが早い現在では、技術領域や協調領域の最大化も重要な課題といえる。これは、まだ日本の官民ともに苦手な分野だ。しかし、限られた経営資源を自らの強みに変えていくためには、どうしても解決しなければならない課題のひとつでもある」(糟谷氏)。
同氏は、これらの課題を解決するためには、「国内の産官学体制として、ロボット革命イニシアティブ(RRI)、IoT推進ラボ、IVIという3つの団体が競い合って、ユースケースの成功モデルを出してほしい」と期待をかけ、3者の関係性について説明した。
現在、ロボット革命イニシアティブでは、IoTによる製造ビジネス変革や、実証事業を通じたユースケースの創出、中小製造業への支援、標準化に向けた検討などを行っている。
一方、IoT推進ラボは、製造業に限らず、全分野でIoTを推進する組織という位置づけだ。企業間マッチングや資金支援、規制改革など横断的な活動を中心に展開中だ。
「両者には、製造業と企業全体というターゲットの違いがある。しかし、似たような団体という指摘もある。そこで混乱が生じないように、経産省がしっかりとコミットしながら進めていく方針だ」(糟谷氏)
さらに今回のシンポジウムの主催者であるIVIについては、まさに先陣を切ってユースケースづくりを進めている団体といえるだろう。ユースケースづくりは、この3者の体制が分業するよりも、むしろ競いあって試行錯誤を行いながら進めていく必要がある。
【次ページ】スマート工場実証事業に5億円、計14プロジェクトを推進
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