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  • 2024/06/20 掲載

「2024年版 ものづくり白書」の要点まとめ、欧米企業に劣る…国内製造業の“ある指標”

連載:第4次産業革命のビジネス実務論

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2024年5月、経済産業省、厚生労働省、文部科学省はものづくりに関連する技術や企業の動向について毎年取りまとめている「2024年版 ものづくり白書」を公開しました。ものづくり白書とは、政府がものづくりの基盤技術の振興に向けて講じた施策に関する報告をまとめた資料であり、2001年に発刊されてから今回で24回目となります。本記事では、300ページ超におよぶ「2024年版 ものづくり白書」の中から、長らく本白書をウォッチしてきた筆者の視点で、今年の注目すべきポイントを紹介します。
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300ページ超におよぶ「2024年版 ものづくり白書」のポイントを5分で解説する
(Photo/Shutterstock.com)

日本企業の売上構造は?欧米企業に劣る“ある指標”

 本白書では、日本の製造業において、地政学リスクへの備えなどの観点から国内投資の重要性が高まっている一方、海外売上比率は大きく増加していることが述べられています。実際に現在、主要製造事業者の売上を見ると、その過半を海外市場で稼ぐ構造にまで変化してきています。

 日本の製造業では、新興国市場の取り込みをはじめとしたグローバル規模でのビジネス展開が主要な成長戦略となってきています。気候や言語、文化などの多様な市場ニーズにタイムリーに対応するとともに、カスタマー・エクスペリエンスを高めるため、日本からの輸出で稼ぐモデルから、海外現地で販売・生産するグローバル/マルチナショナル型のモデルへと進化しつつ、海外市場を開拓しています。

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主要日米欧製造業企業の海外売上比率
(出典:2024年版ものづくり白書〈経済産業省、厚生労働省、文部科学省:2023年5月〉図511-1)

 一方、日本の製造業ではグローバルビジネスに適した経営の仕組みを整えてこなかったことなどから、売上の伸びに比べ、利益率が低迷しています。

 経営の複雑性を表す指標である事業多角化度と地域多角化度を用いた分析結果を見ると、事業規模が拡大し、事業や地域が多角化するほど収益性が下がる傾向にあり、米国、欧州と比較すると、全体の利益水準自体が低いことが分かります。

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多角化度と収益性の関係
(出典:2024年版ものづくり白書〈経済産業省、厚生労働省、文部科学省:2023年5月〉511-4)

日本企業の弱点はどこから来てる?

 本白書では、この原因として、日本企業では海外子会社も含めた企業グループ横断的な組織運営の仕組みが整備されていないことや、DXの取り組みが既存ビジネス延長線上での取り組みにとどまり、事業機会の拡大に向けた取り組みが進んでおらず、稼ぐ力の向上につながっていないことなどが指摘されています。

 経営の複雑性を乗り越え、日本の製造業がグローバルで稼ぐ力を高めていくためには、海外現地法人を含めた経営資源の最大化や、海外現地法人の最適な活用が必要です。

 日本と海外現地法人という形で分断された構造を脱却し、国内・海外の組織が1つの組織であるかのように、つながった仕組みを整えることが必要であり、そのためには、人材や資金、データといった、経営資源をグローバルで再配分を行うなどの組織経営の仕組み化、すなわちCX(コーポレート・トランスフォーメーション)が必要です。

 CXを実現するためには、ファイナンス、人事(HR)、DX/ITの3つのコア機能の役割を定義し直し、組織の在り方を再設計・再構築することが求められます。特に、DXによる製造機能の全体最適化、ビジネスモデルの変革が重要となります。

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ヒト・モノ・カネ・データに関わる共通基盤の整備
(出典:2024年版ものづくり白書〈経済産業省、厚生労働省、文部科学省:2023年5月〉図512-11)

全員が納得する? 日本企業「DX」がダメな理由

 日本において本来のDXの取り組みが進まない理由の1つに、企業に配置されている一般的なIT部門の役割が、ITシステムを提供するバックオフィス的なものにとどまっていることがあります。

 その結果、各部門の業務効率化を目的とした個別のITシステムが乱立し、部門間でデータが独自に管理されることによって、企業グループ全体でデータが適切に共有されず、経営判断の際に必要とされる情報を適時に入手することが困難な状況に陥っているケースも多くなっています。

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ITシステム整備の現状
(出典:2024年版ものづくり白書〈経済産業省、厚生労働省、文部科学省:2023年5月〉図512-10)

 グローバルビジネスの拡大を進める企業においては、組織や機能が増え、ビジネスプロセスの複雑性が増大していきます。

 デジタル化の進展により、従来、人が処理していたプロセスの自動化は進んでいる一方、業務プロセスのブラックボックス化も課題となっており、ビジネスプロセスの全体像を一貫して把握する必要性・重要性が高まっています。

 しかし、日本企業では部門ごとに閉じた形で業務プロセスの最適化を進めてきた事例も多く、全体を把握できる人がいないケースも見られます、個人の知識や経験に依存した業務も存在しており、プロセスオーナーを定め、組織横断でプロセスの可視化・再構築を推進する仕組みづくりが求められています。

 デジタル化の進展は、これまで暗黙知になっていた業務を可視化し、日本企業の強みである現場力を収益性につなげていくための強力なチャンスとも言えます。

調査から見る「日本企業のIT投資」、リアルすぎる実態

 企業の競争力強化に向け、DXの取り組みが重要であることが言われるようになってから随分時間が経過しました。しかし、DXの取り組み目的や成果に関する調査を見ると、DXの目的について「業務効率化・生産性向上」という回答が多く、成果は「情報共有の促進」、「コストの削減」という回答が多くなっています。

 企業の稼ぐ力の向上を高めるためには、「売上の向上」、「新規事業への展開・新規顧客の開拓」につながるような、「新商品・サービス・事業の開発」、「既存の商品・サービス・事業の高付加価値化」などの取り組みが重要となると思われますが、これらの回答割合は少なくなっています。

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DXの取り組み目的及び成果
(出典:2024年版ものづくり白書〈経済産業省、厚生労働省、文部科学省:2023年5月〉図521-1)

 日本の製造業における、一連の業務プロセスにおけるDXの取り組み実態(IT・デジタル技術の活用と効果)に関する調査結果を見ると、サプライチェーン領域の負荷軽減、効率化、生産性向上などにIT・デジタル技術を活用し、効果を上げているという回答割合が多くなっています。

 一方、「売上の向上」、「新規事業への展開・新規顧客の開拓」につながるような、デマンドチェーン・サービスチェーン領域に対する回答は少なくなっています。

 また、エンジニアリングチェーン領域における「開発・設計・生産準備の各リードタイム短縮」、「ベテラン技術者のノウハウ見える化およびデータ蓄積」についても、IT・デジタル技術の活用が不足していることが見てとれます。

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一連の業務プロセスにおけるDXの取り組み実態(IT・デジタル技術の活用と効果)
(出典:2024年版ものづくり白書〈経済産業省、厚生労働省、文部科学省:2023年5月〉図521-2)

 こういった課題に対応するためには、経営視点で業務プロセス全体を把握した上で、分析・改革する取り組みが必要です。

 製造業においては、チェーン・プロセス単位の個別改善だけでなく、チェーン・プロセス間の連携強化による企業全体の最適化を図り、多種多量のデータを迅速に正しく容易に連鎖させるために、IT・デジタル技術を活用するスマートマニュファクチャリングへの取り組みが求められます。

 しかし、日本の製造業におけるDXの取り組みは、「個別工程のカイゼン」が多く、「製造機能の全体最適」、「事業機会の拡大」を目指す取り組みは進んでいないことが分かります。

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DXの取り組み領域別推進状況
(出典:2024年版ものづくり白書〈経済産業省、厚生労働省、文部科学省:2023年5月〉図521-3)

 DXの取り組みが進んでいない理由としては、リソースと情報の不足が挙げられます。

 DXに取り組んでいない、または成果が出ていない理由に関する調査結果を見ると、「DXに取り組むためのリソースが不足している」という回答が最も多く、次いで「DXに取り組むための情報が不足している」が多くなっています。

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DXに取り組んでいない又は成果が出ていない理由
(出典:2024年版ものづくり白書〈経済産業省、厚生労働省、文部科学省:2023年5月〉図521-4)

 事業部・組織の壁を越えた業務・意思決定の最適化を図る上での課題に関する調査においても、「社員の意識改革」、「最適化するためのリソースの確保」といったリソースに関する回答が多く、「全社で最適化されたあるべき姿やビジョンの策定」、「最適化を目指すための具体的な方法やプロセスが不明」といった情報の不足に関する回答がそれに続いています。

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事業部・組織の壁を越えた業務・意思決定の最適化を図る上での課題
(出典:2024年版ものづくり白書〈経済産業省、厚生労働省、文部科学省:2023年5月〉図521-5)
【次ページ】「売上総額・営業利益」が高い製造業の“ある特徴”

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