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  • 2018/05/21

奈良県「県庁移転問題」の深刻さ、地方消滅に向かう南部をどう扱うべきか

奈良県議会が県庁を北端の奈良市から中部の橿原市(かしはらし)周辺へ移すことを求める決議案を賛成多数で可決した。奈良県は大阪、京都のベッドタウンとなり、官公庁や企業、観光地が集積する北部と、深い山に囲まれ、過疎化が深刻な南部の「南北格差」が問題になっている。決議は県庁を中部へ移すことにより、県土の均衡ある発展を目指しているが、法的拘束力を持たず、多額の移転コストを考えると実現までの道が険しい。奈良県立大地域創造学部の下山朗教授(地方財政論)は「県庁移転のコストに見合う経済効果があるかどうかは疑問。むしろ県全体を考慮した経済政策を考えるきっかけにすべきではないか」と指摘する。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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外国人観光客でにぎわう奈良県奈良市の三条通り。南北格差是正を目指して県庁移転決議が県議会で可決された
(写真:筆者撮影)

県庁を奈良市から橿原市へ、超党派の県議24人が提案

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 「奈良県は南北に細長い地形なのに、明治時代の県設置以来、北端の奈良市に県庁が置かれてきた。南北格差を打開するために中部の橿原市周辺へ県庁を移転すべきだ」。3月末に開かれた県議会2月定例会最終日、県庁移転決議案の提案理由説明に立った川口正志氏(創生奈良)が熱弁を振るった。

 決議案は、中部の御所市選挙区選出の川口氏ら、超党派の県議24人が連名で議員提案した。大阪、京都のベッドタウンとして発展してきた北部と、吉野杉の産地として知られるものの、人口減少と高齢化の進行で存続の危機に立たされている南部。県庁移転をきっかけに南北格差を少しでも是正したいという思いが込められている。

 橿原市は4月現在で人口12万2,800人。35万6,000人を抱える奈良市に次ぎ、県内第2の都市となる。県南端の十津川村まで奈良市からだと車で2時間以上かかるが、橿原市からだと1時間40分余りで着く。県が県全体に目を光らせるのにより良い選択となるというわけだ。

 県議会は定員44で、欠員1。決議案は採決の結果、中部や南部選出の県議を中心に23人が賛成に回り、賛成多数で可決された。奈良県は明治中期の1887年、大阪府から旧大和国が分割されて以来、奈良市(当初は奈良町)が県庁所在地だった。県議会事務局によると、県庁の移転決議が提案されたのは今回が初めてという。

 県庁移転はこれまで、長野県や福島県で議論されたことがあり、福島県では「県庁を郡山市へ移転する会」が結成されている。しかし、論争は具体的な動きに結びついていない。どこも地域事情と関係なく、明治時代に決まった県庁所在地が続いているわけで、今回の議決は極めて異例の事態といえる。

人口減少率全国ワースト10に南部の5村、迫る地域消滅の危機

 県庁移転が提案された背景には、南部の深刻な人口減少がある。南部の五條市と吉野郡3町8村は神奈川県や佐賀県に匹敵する面積を持ち、県面積の3分の2近くを占めるが、山深くて交通の便が悪いため、人口は7万人余りにとどまり、県全体の5%ほどにすぎない。

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奈良県南部の中心都市五條市のJR五条駅前。人口減少が深刻で、にぎわいが失われつつある
(写真:筆者撮影)

 国立社会保障・人口問題研究所が3月末にまとめた地域別将来推計人口では、県全体で2015年国勢調査の136万人が2045年に100万足らずへ26.8%減少するのに対し、五條市と吉野郡は2015年の7万人強が2045年に3万人強と57.0%も減ると予測されている。

奈良県南部地区の市町村人口予測
市町村名2045年推計人口2015年人口増減率(%)
五條市13,47530,997-56.5
大淀町10,25018,069-43.3
吉野町 2,337 7,399-68.4
下市町 1,727 5,664-69.5
十津川村 1,471 3,508-58.1
東吉野村 440 1,754-74.8
天川村 419 1,354-69.1
下北山村 376 895-58.0
川上村 270 1,313-79.4
黒滝村 181 660-72.6
野迫川村 123 449-72.6
上北山村 122 512-76.2
(出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(2018年3月推計)」)

 上北山、下北山、黒滝、野迫川の4村は2015年で人口1,000人を割っているが、2045年には4村に加えて東吉野、天川、川上の3村も1,000人未満になる。市町村ごとの減少率は43.3~79.4%。川上村の79.4%は減少率全国トップで、ワースト10には上北山、東吉野、野迫川、黒滝の4村も入っている。

2045年の人口減少率ワースト10
市区町村人口減少率(%)
1奈良県川上村79.4
2北海道歌志内市77.3
3群馬県南牧村77.0
4奈良県上北山村76.1
5奈良県東吉野村74.7
6北海道夕張市74.5
7北海道松前町72.8
8群馬県神流町72.7
9奈良県野迫川村72.6
10奈良県黒滝村72.5
(出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(2018年3月推計)」)

 このうち、上北山村は全国4位の76.1%の人口減少率で、500人余りの人口が2045年に122人になると予測されている。しかも、全国の地方自治体で唯一、14歳以下の子どもの数がゼロになる見通しだ。村地域振興課は「子育て支援や移住の促進に力を入れているが、効果はなかなか上がらない」と戸惑いを隠せない。

【次ページ】多額の移転コスト、実現はまだ不透明な状況

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