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データ活用における課題の1つが「データの品質」をいかに担保するのかという問題だ。AI(人工知能)、BIツール活用の視点でも再評価が進んでいるのが「マスターデータ管理(MDM:Master Data Management(マスターデータマネジメント))」だ。とはいえ、その推進は一筋縄ではいかない。ガートナー シニア プリンシパル,アナリストのヘレン・グリムスター氏が、その中にあっての陥りやすい罠と、あるべき推進法、さらにMDMツール市場の現状について、わかりやすく解説する。
マスターデータとは? MDMとは? DXで再注目
AIはじめ、DX(デジタルトランスフォーメーション)によるデータ活用の広がりを背景に、MDMへの関心が改めて高まっている。
マスターデータとは「社内の複数のビジネスプロセス(システム)で利用する、一貫性と統一性のある最小限の識別子/属性のセット」のこと。
MDMとは、「企業が保有する、公式かつ共有のマスターデータについて、統一性/正確性/スチュワードシップ/セマンティックの一貫性/説明責任をIT部門とビジネス部門が連携して確保するための、テクノロジーを活用した規律」とガートナーでは定義する。
社内データの活用においてMDMは極めて重要だ。共通であるべきマスターデータに違いが生じた場合、システムごとのデータの意味にブレが生じ、分析精度の低下は免れない。
ただし、個別最適化したデータベースの運用により、マスターデータの不統一の問題に直面する企業は数多い。ガートナーがMDMの必要性を訴え始めたのは15年以上も前に遡るが、これまで成果は限定的だった。MDMはデータ活用の下準備として価値を明示しにくく、社内的な予算確保が困難だったことが背景にある。
しかし、ガートナー シニア プリンシパル,アナリストのヘレン・グリムスター氏は「DXにより状況は大きく変わっている」と説明する。
「DXの推進に向け、経営やビジネス部門はAIやBIツールに大きな期待を寄せました。しかし、データ品質が低ければそれらも使い物にならないという苦い学習を通じて、MDMの必要性に対する理解が大きく前進しています」(グリムスター氏)
2021年12月に発表したガートナーの調査結果でも、MDMツールの導入理由のトップ3は「ビジネスプロセスの成果の改善」(64%)、「社内・運用の効率化」(62%)、「ビジネスプロセスのアジリティの改善」(54%)と、経営やビジネス部門の要望が大きく反映されていた。
MDMプロジェクトで陥りやすい“6つ”の罠
社内システムは数多く、MDMは一筋縄ではいかない活動だ。グリムスター氏が陥りやすい“罠”として挙げるのが、「テクノロジーのプロジェクトとして扱われる」「ビジネス目標と整合していない、またはスポンサーがいない」「変化を受け入れる文化が未熟」などだ。
「MDMはデータをビジネス価値につなげる活動で、多様なビジネス部門との調整が不可欠です。テクノロジーのプロジェクトとして進めては、現場を巻き込むことが困難なことは明らかです」(グリムスター氏)
MDMがビジネスのプロジェクトである以上、その目標がビジネス目標と合致すべきなのは当然だ。しかし、テクノロジーのプロジェクトとして捉えられれば、乖離もそれだけ生じやすい。また、データ品質の維持にはビジネス部門の協力が欠かせず、経営層などの強力なリーダーシップを抜きには、その徹底は望みにくい。
目標を設定する以上、評価指標の設定も当然必要だが、そのための「専門知識の欠如」から、「成功の評価指標がない」ことも大きな問題だという。
「その場合にはサードパーティから知恵を借りることが有効です。当社の調査でもMDMを実装した企業の9割が何らかの協力を得ています」(グリムスター氏)
一方で、「スコープが野心的すぎる」こともあるという。成果は大きなほうが当然望ましいが、上述のように、MDMプロジェクトの目標は多様なビジネス部門との協議により決まる。
その中でいきなり大きな成果を求めては失敗リスクもそれだけ高まる。グリムスター氏によると、MDMの推進は社内定着を最優先に、小さな成功を積み重ねて大きく育てる「スモールスタートが鉄則」なのだという。
【次ページ】MDM導入手法、6つのプロセスとは?
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