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  • 2019/05/08 掲載

AWSはなぜ「Elasticsearch」の独自ディストリビューションを公開したのか

クラウドベンダとOSSベンダの行き違い

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AWSは、オープンソースの高速な検索エンジンとして活用されている「Elasticsearch」の独自ディストリビューション「Open Distro for Elasticsearch」を公開しました。

新野淳一(本記事は「Publickey」より転載)

新野淳一(本記事は「Publickey」より転載)

ITジャーナリスト/Publickeyブロガー。大学でUNIXを学び、株式会社アスキーに入社。データベースのテクニカルサポート、月刊アスキーNT編集部 副編集長などを経て1998年退社、フリーランスライターに。2000年、株式会社アットマーク・アイティ設立に参画、オンラインメディア部門の役員として2007年にIPOを実現、2008年に退社。再びフリーランスとして独立し、2009年にブログメディアPublickeyを開始。現在に至る。

 AWSは、オープンソースの高速な検索エンジンとして活用されている「Elasticsearch」の独自ディストリビューション「Open Distro for Elasticsearch」を公開しました。

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 Elasticsearchはオランダに本社を置くElastic社が中心となり、オープンソースとして開発されている検索エンジンです。

 検索エンジンのライブラリとして開発されているApache Luceneをコアとし、分散処理機能やマルチテナント機能、分析機能などを備えスケーラブルで高速な実行を可能とし、RESTful APIやSQLによってクエリを発行できるなど、多くの優れた特徴を備えています。

 ログ解析による運用監視やセキュリティインシデントの発見、データ分析など多数の実績を持つ、この分野でもっとも人気のあるソフトウェアの1つであり、AWSもマネージドサービス「Amazon Elasticsearch Service」を提供しています。

 AWSが公開した「Open Distro for Elasticsearch」は、このElasticsearchのディストリビューションおよびそのコードを納めたGitHubリポジトリで構成されるようです(記事執筆時点で、まだリポジトリはほとんどなにも入っていませんが)。

 「Open Distro for Elasticsearch」はすべてApache 2.0のライセンスで提供され、ノード間の暗号化やOpenSSL/TLS 1.2のサポート、Active DirecotryやLDAP、SAMLなどによる認証、ロールベースのアクセス制御、監査ログなどに対応することでセキュリティを高めるなどのセキュリティ機能、SQL対応など多くの機能が備わっています。

Elasticsearchにはプロプライエタリなコードが相当混在している

 しかし注目すべきなのはそうした特徴よりも、なぜAWSが独自にディストリビューションと、それに対応するGitHubリポジトリを作るに至ったのか、という理由です。

 AWS Open Source Blogにポストされた記事「Keeping Open Source Open - Open Distro for Elasticsearch」でその理由が説明されているのですが、要約すると、GitHubで公開されているElasticsearchのコードにオープンソースとプロプライエタリが相当混在するようになってしまったためだ、ということです。

 そこでAWSは、あらためてオープンソースだけで構成されるElasticsearchのコードを集めたGitHubリポジトリと、それによるディストリビューションを作った、というわけです。

 もう少し細かくAWSの言い分を参照してみましょう。下記は「Keeping Open Source Open - Open Distro for Elasticsearch」の一部を引用し、翻訳したものです。

 まずオープンソースのコードとプロプライエタリなコードがGitHubのリポジトリで混在していること、両方のコードが混在したElasticによる独自ライセンスのディストリビューションが、Elasticsearchのデフォルトディストリビューションとして配布されるようになったことの2つの問題を指摘しています。

Unfortunately, since June 2018, we have witnessed significant intermingling of proprietary code into the code base.

残念ながら2018年6月以来、私たちはそのコードベースにプロプライエタリなコードが相当混在していることを目撃することになりました。
While an Apache 2.0 licensed download is still available, there is an extreme lack of clarity as to what customers who care about open source are getting and what they can depend on.

Apache 2.0ライセンス化されているダウンロードはまだ有効なものの、オープンソースを気に掛ける顧客にとって、なにが利用できてなにが信頼できる部分なのか、といった明確さがまったく欠けているのです。
For example, neither release notes nor documentation make it clear what is open source and what is proprietary.

たとえば、リリースノートにもドキュメントにも、なにがオープンソースでなにがプロプライエタリかは一切明確にされていません。
Enterprise developers may inadvertently apply a fix or enhancement to the proprietary source code. This is hard to track and govern, could lead to breach of license, and could lead to immediate termination of rights (for both proprietary free and paid).

企業の開発者にとっては、うっかりプロプライエタリなソースコードの修正や拡張をしてしまうかもしれません。その追跡や管理は困難であり、ライセンス違反を招き、(プロプライエタリの無料部分と有料部分のどちらも)権利の即時停止につながりかねません。
Individual code commits also increasingly contain both open source and proprietary code, making it very difficult for developers who want to only work on open source to contribute and participate.

個人によるコードのコミットにも、オープンソースとプロプライエタリなコードの両方が含まれていることが増加しているため、デベロッパーがオープンソースの部分にのみ参加し貢献したいと思ってもそれは非常に難しくなっています。
 そしてAWSはもう1つ、イノベーションのフォーカスがオープンソースの部分から外れているのではないか、とも指摘しています。

In addition, the innovation focus has shifted from furthering the open source distribution to making the proprietary distribution popular.

加えて、イノベーションのフォーカスがオープンソースディストリビューションから、プロプライエタリなディストリビューションの人気を高めることへと変化してしまっているのです。
 AWSはこうした懸念をElasticsearchの開発元であるElasticに伝えたが、一蹴されたとも説明しています。

We have discussed our concerns with Elastic, the maintainers of Elasticsearch, including offering to dedicate significant resources to help support a community-driven, non-intermingled version of Elasticsearch. They have made it clear that they intend to continue on their current path.

私たちはこうした懸念についてElasticsearchのメンテナであるElasticと議論し、またコミュニティドリブンで混在のないバージョンのElasticsearchの開発をサポートするために専用の多大なリソース提供も申し出ました。しかし彼らは現在の方針を継続することを明確にしたのです。

Open Distro for Elasticsearchはフォークではない

 こうしてAWSは独自にオープンソースだけで構成された「Open Distro for Elasticsearch」を作ることになるわけです。

 AWSは「Open Distro for Elasticsearch」はオリジナルのElasticsearchのフォークではないと明確に表明しています

 そのため現在のOpen Distro for ElasticsearchはElasticsearch 6.5ベース(Elasticsearchの最新版は6.6.2)ですが、引き続き最新のElasticsearchのオープンソースに追随していき、またOpen Distro for ElasticsearchへのコントリビューションはオリジナルのElasticsearchへ還元するとも説明しています。

 ではなぜ、Elasticsearchの開発元であるElasticはこのような、オープンソースのコードとプロプライエタリのコードを混在させているとAWSから非難されるようなことをしているのでしょうか?

 ElasticにはElasticなりの戦略がそこにあります。

【次ページ】Elasticの戦略、オープンソースベンダとクラウドベンダの行き違い

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