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  • 2020/05/15 掲載

コロナと戦うオープンソース、企業は「オープン化」で何を検討すべきか

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新型コロナウイルスの感染拡大に対して、さまざまな企業や組織によるオープン化の試みが出てきています。世界的医療機器メーカーのメドトロニックは、人工呼吸器のハードウェアの設計図、組み込みソフトウェアのソースコード、試験方法なども含めて公開を開始しました。自らの開発資産をオープン化した背後には、さまざまな検討や判断があったと推察します。今回は、企業や組織がオープン化する際に通る思考の道筋をひも解いていきます。

OSSコンソーシアム 小林 敦

OSSコンソーシアム 小林 敦

OSSコンソーシアムの理事、副会長(分散コンピューティング部会担当)。三菱電機株式会社に入社し、コンピュータシステム製作所、情報通信システム開発センターなどを経て現在、分社化された三菱電機インフォメーションシステムズ株式会社(MDIS)のデジタルトランスフォーメーション推進部長。主にクラウド、ビッグデータ領域でOSSの普及促進に取り組む。なお、ここでの記述は個人の見解であり、所属する企業の公式見解ではありません。

画像
メドトロニックのダウンロードサイト

コロナ禍で起きたオープン化の波

 「設計図の公開」と表現されるオープンソース。新型コロナウイルスの感染拡大を捉えて、さまざまな取り組みが起こっています。ソフトウェア(OSS)においては、東京都が「新型コロナウイルス感染症対策サイト」のソースコードをGitHubで公開し、全国61サイト(4月30日時点)に派生しています。

 ハードウェアにおいては、治療用の人工呼吸器が不足している事態に対して、医師や大学教員、発明家などのコミュニティーが人工呼吸器のオープン化の取り組み(ツイッターのハッシュタグ #OpenSourceVentilator#TeamOSV#OSVX#OpenLungなど)を興しています。

 その中で、医療機器メーカーのメドトロニックは、自社製品の製造に関わる情報を自社ホームページ上で公開し、メーカー、エンジニア、新規参入者に生産を促しています。

 これをきっかけに、テスラなどの製造業各社がメドトロニックとの協業の検討を開始し、ルネサスは人工呼吸器の制御回路に自社の半導体を使用する場合のリファレンスデザインを公開しました。また、イグアスはマスク不足に対応するため、自社で販売する3Dプリンタでマスクを出力するための設計情報(STL形式)を自社ホームページ上で公開しています。

 データにおいては、東京都の対策サイト開発を支援したCode for Japanが、対策サイトで表示するためのデータ形式を定めた「新型コロナウイルス感染症対策に関するオープンデータ項目定義書」を公開し、この定義書に従ったデータセットを各自治体が公開しています。世界的には、米国ジョンズ・ホプキンズ大学が提供するデータセットが有名です。

 他にも、大手ホテルなどが、外出自粛を応援するために料理のレシピを公開しています。手芸用品店や生地メーカーが布マスクの型紙を公開したり、YouTubeで作り方を解説したりする例も多数あります。



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メドトロニックの「The open ventilator project」

 メドトロニックは、3月30日から自社サイトで「Puritan Bennett™560」という人工呼吸器の製造に関する以下のような情報をダウンロード可能としており、すでに9万件以上のアクセスがあったとのことです。

  • ・Requirements Documents(製品要求仕様、pdf形式)
  • ・Mechanical Part Drawings(機械部品図面、SolidWorks形式)
  • ・部品の3D CADデータ(SolidWorks形式)
  • ・BOM(部品表、Excel形式)
  • ・Electrical Schematics(電気回路図、pdf形式)
  • ・PCB Manufacturing Data(プリント基板のガーバーデータ、phd形式など)
  • ・PCBA Drawings(プリント基板実装図、SolidWorks形式)
  • ・Manufacturing Fixtures(治具の図面、pdf形式)
  • ・Assembly Procedure(組み立て手順書、pdf形式)
  • ・System Test Procedure(試験手順書、pdf形式)
  • ・組み込みソフトウェアのソースコード(C言語)と実行モジュール
  • ・Service Manual(保守マニュアル、pdf形式)
  • ・User Manual(ユーザマニュアル、pdf形式)

画像
Puritan Bennett™560
(出典:メドトロニック)
 このPB560という機種は2010年に発売され、現在も販売されています。設計資料の多くには、COVIDIEN(2015年にメドトロニックが買収したアイルランドの医療機器メーカー)の表記があり、買収前の2008~2009年頃に作成されたドキュメントが多いようです。

 世界保健機関(WHO)の緊急事態宣言(Public Health Emergency of International Concern)の終結、もしくは、2024年10月1日の早い方までの間の期間限定ライセンスとし、設計資料については以下のように記載があります。

“You are free to use, share, distribute, make available to others, publicly display, copy, modify, and build upon the Design Materials for the Purpose.”

 またソフトウェアについては、次のようにあり、人工呼吸器の製造、配給するために必要な場合のみ、ソフトウェアを複製、配布することができるとしています。

“You may reproduce, modify and distribute the Software only as needed to manufacture and distribute Your Ventilator.”

 一部のコードに付随するReadmeファイルには、GPLライセンス(GNU General Public License)の宣言もありました。

画像
メドトロニックが公開したドキュメントの一部

ソフトウェアのオープン化とハードウェアのオープン化、違いは?

 ソフトウェアとハードウェアでは、その特質からソフトウェアのオープン化が先行してきました。ソフトウェアは「開発=製造」です。複製と配布にかかるコストが低く、また、品質も含めてソースコードの中に作り込まれて配布され、利用者が恩恵を受けることができます。

 一方、ハードウェアは「開発≠製造」です。設計図を入手したとしても、それを製作するためには製造設備が必要であり、製造コストがかかります。また、そこには製造技術が求められます。たとえマスクのようなコモディティ製品であっても、低コストで高品質な量産にはモノ作りの知見が必要となります。

 ハードウェアの設計図の中には、設計品質は作り込まれていますが、製造品質は作り込まれていません。どのような製造方法で品質を確保するか、どのように検査をして不良を検出するかは、製造者に委ねられます。上述の人工呼吸器の例では、医療機器としての承認を得るのも製造者となります。

【次ページ】企業や組織が「オープン化」する際に検討すべき点

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