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  • 2019/08/15

NHK「筋肉体操」を育んだのは“筋トレと心中してもいい”という覚悟

インターネットやスマホの台頭によって、コンテンツの消費スタイルは大きく変わった。今やテレビの視聴時間とスマホ・タブレットなどの動画視聴時間はほぼ変わらなくなっている。“情報過多”の時代に、テレビはどのように動画コンテンツ制作と向き合っているのか。昨年、インターネットやSNSで話題となり、「筋肉は裏切らない」の決め台詞が流行語大賞にもノミネートされたNHKの『みんなで筋肉体操』(筋肉体操)。博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 所長 吉川昌孝氏、NHK 勝目卓氏、NHK 梅原 純一氏「話題作り」のヒントを探った。

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博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 吉川昌孝所長(左)、NHK 勝目卓氏(中)、NHK 梅原純一氏(右)

メディア接触の大半は「何らかのスクリーン」

 筋肉体操は、筋肉トレーニングを指導する5分の深夜番組だ。2018年8月27日から4日間の放映だったにもかかわらず、インターネットやSNSで話題が拡散。再放送を経て第2弾が制作される人気となり、第2弾は2019年1月7日から10日の4日間、放送された。

 「Advertising Week Asia 2019」では、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 所長の吉川昌孝氏がモデレーターとなり、同番組のディレクターであるNHKの勝目卓氏と梅原順一氏が対談するトークセッションが行われた。

 冒頭、吉川氏は「スクリーンのシームレス化が進んでいく中で、今後、どのように動画コンテンツを作っていけばよいのか悩んでいるマーケターも多い。その解決の方向性を筋肉体操は示唆していると感じている」と、筋肉体操に着目した理由を話した。

 メディア環境研究所では、スクリーンのシームレス化を裏付ける実験を行った。ある大学生に毎日、動画を視聴する時間を1時間と定め、タブレットとスマホの2台持ちで視聴してもらったところ、以下のような視聴スタイルが確認されたという。

 まず、タブレットでお気に入り番組の最新回を視聴、同時に、スマホでは“神回”とよばれる話題の放送回を再生する。そして、最新回が面白くなければ、スマホに視線を移していたのだ。

 つまり、常に自分の目の前に「面白い放送」がある状態にしていたのである。このような消費スタイルは今後増えていくのではと吉川氏は予想する。

 同研究所の調査によると、メディア総接触時間は1日400分超と過去最高となった。
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1日のメディア総接触時間は400分の大台を超えた

 そのうちテレビは150分強、タブレットとスマホ・携帯を合わせた視聴時間も150分弱、パソコンを含めるとメディア接触時間の大半が「何らかのスクリーン」を経由していることになる。

視聴者に刺さる「撒き餌」をたくさん用意せよ

 このようにスクリーン数が肥大化した状況でのコンテンツ作りはどうあるべきなのか。吉川氏は筋肉体操から得られる学びとして「撒き餌をたくさん用意する」ことを挙げた。

 SNSで話題にしてもらうことを前提に番組作りをした筋肉体操では、どんな撒き餌を用意したのかと吉川氏が質問。これに対し、勝目氏は「今振り返るとTwitterやFacebook、Instagram、NHKのHP、番組HP、プレスリリース、筋肉体操の放送日の『あさいち』の番組コーナーなど、出せるプラットフォームすべてにコンテンツを出した」と答えた。

 なぜ、そのような形を取ったのかについて梅原氏は、「この番組は深夜の5分枠。普通に放映するだけでは埋もれてしまう。そこで、SNSで話題にしてもらおうという認識が制作チームにはあった」と説明する。少しでもSNSで話題にしてもらうような、フックをたくさん作ったのだ。

 番組HPの出演者情報はその一例だ。番組内で紹介される出演者情報は名前と肩書き(筋肉指導、弁護士、俳優、庭師など)だけ。一方、番組HPには「好きなプロテインの味」など、くすっと笑える情報を紹介。

 このように「これはなんだ! と思える部分をたくさん作った」と梅原氏は語る。勝目氏もNHKの番組HPに来訪する人は、「よほど熱心な人」だと述べ、番組HPにはその思いに応えるレアな情報をたくさん置いたと説明する。

 レアな情報を発見すると、人は拡散したくなる。「調べてもらうモチベーションに応えられるモノをどれだけ用意できるかについては、かなり考えました」と勝目氏は続ける。

 梅原氏は「興味のある人は自発的に調べるので、情報過多の時代は説明しすぎないことがよいと思った」と評価する。

「視聴率」ではなく「再生数」を評価指標にした理由

 筋肉体操のように動画としてどれだけ再生されるか、インターネットでバズってテレビを観てもらう仕掛けを考えるケースはまだ少ないのではないかと吉川氏に問われた勝目氏は、「必要に迫られてやったこと」だと述べた。

 一般的に、テレビ番組の評価指標として用いられるのが視聴率だが、筋肉体操は深夜帯の放送であるため、視聴率は期待できない。「だから最初から視聴率ではないところで結果を残すことを考えた」と勝目氏は続ける。

 梅原氏は、「私は29歳で、自分の親世代は新聞のテレビ欄から番組を決めるが、私たちの世代はTwitterで話題になっている番組を視聴することが多い」と述べる。そこで、インターネットで「なんだこの番組は」とざわつかせることで視聴につなげたいと考えたと言い切る。

 そこで結果の指標としたのが動画の再生回数だった。筋トレは繰り返して行うもので、筋トレというコンテンツ自体、Webに親和性がある。だから動画の再生回数なら結果が残せるとの計算もあった。

 とはいえ、「撒き餌」のすべてが成功したわけではない。たとえば出演者のセリフを着ボイス風に聞かせる「筋肉ボイス」というコンテンツは、まったく受けなかったという。

 「2人しかツイートしてくれませんでした」と勝目氏が述べれば、梅原氏も「個人的には最高の作品だったが、何がバズるかはわからないので、誰かを傷つけるものでなければ、失敗を恐れず仕掛けていくことが大事ではないか」と笑みを浮かべながら振り返った。

【次ページ】「テレビの文脈」から徹底的に離れる

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