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  • 2019/10/30 掲載

変わる戦闘機パイロットの役割 AIとのタッグで進む「空中戦の自動化」

連載:軍事産業の新潮流

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人工知能(AI)による空中戦のための「Air Combat Evolution(ACE)」プログラムが米国の国防高等研究計画局(DARPA)によって発表された。その内容は、空対空の戦闘を自動化して、パイロットがより大きな戦局に集中できるようにすることを目指している。人とマシンとが連携した空中戦を用いることで、自律的な戦闘技術に対する兵士の信頼を高めることは果たしてできるのだろうか。IHSマークイットの軍事アナリスト、リチャード・スコット(Richard Scott)が空中戦へのAI活用についてレポートする。

執筆:IHSマークイット リチャード・スコット

執筆:IHSマークイット リチャード・スコット

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フロリダ南部を飛行する戦闘機F-16 ファイティング・ファルコン
(Photo/Getty Images)

戦闘機パイロットをAIがしのぐ? 空対空戦闘が自動化する日

 いまや先進自律技術と人工知能(AI)は、タンク貯蔵支援から情報・監視・偵察・攻撃まで、航空作戦の多くの領域に進出しつつある。しかしかつては、こうした技術や技法が、高速かつ高重力の空中戦において「人間のパイロットをしのぐ可能性がある」という考えには抵抗が見られた。

 1986年公開の映画『トップガン』では、才能あふれるF-14戦闘機パイロットが、その優れた飛行スキルとアグレッシブな空中戦術で空対空戦闘を制する姿が描かれた。大衆文化においては、戦闘機パイロットとは「高度な訓練を受けた極めて秀でた個人」であり、「複雑かつダイナミックな戦闘環境において、優れた飛行能力と戦術的洞察力を組み合わせることができる」という“戦闘員の頂点に君臨する存在”というイメージが定着している。

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 しかし、軍隊用の新技術開発および研究を行う米国防総省の機関DARPAは、この前提に異議を唱える姿勢を打ち出した。

 同局の考えは「人間とマシンのチーム連携に向けた継続的開発によって、視程内での空対空戦闘の自動化が実現し、それによってパイロットはより大局的な空中戦に集中できるようになる」というものだ。ここでの重要課題は、パイロットがマシンを「確実に信頼できる」ようにすることである。

 このビジョンを前進させるため、DARPAは「DARPAの戦略技術室(STO)が、ACEプログラムを同局の“モザイク戦争コンセプト”の実現に向けた構想の1つとして立ち上げた」と述べている。

AIへの「信頼」を構築するACEプログラム

 まずACEプログラムについて解説しよう。冒頭で述べたとおり、ACEプログラムをごく簡単に説明すると「人工知能(AI)による空中戦のためのプログラム」だ。ACEは、人間とマシンの連携による空中戦を実現するための最初の課題シナリオとして使用され、AIベースの自律型戦闘技術に対する戦闘員の「信頼」を構築するために始まったものである。

 DARPAのACEプログラム・マネージャーである米国空軍(USAF)のダン・ジャボルセック中佐は「自律技術に対する信頼は、空軍が将来の有人/無人チーム連携に向けて歩みを進める上で極めて重要だ」という声明を出している。

「我々は、視程内空中戦でAIがほんの一瞬の間に手順を実行し、パイロットがより安全にかつ効果的に多数の無人システムを結集して、圧倒的な戦闘効果をもたらす未来を思い描いている」(ジャボルセック中佐)

 この目標達成のため、ACEではさまざまな実験を通じて、既存のAI技術を空中戦の課題に適用するとともに、自律型戦闘性能に対する人間の信頼を測定し、調整や拡大、予測する手法を実行していく。

 さらに、ACEでは空中戦自動化の戦術的適用について、人間の信頼を獲得するだけでなく、より複雑で複数の異種航空機が関与する「軍事作戦レベル」における、ライブデータに基づいたシミュレーションシナリオへと拡大していくという。将来的な軍事作戦レベルでの実験に向け、土台を作ることを見据えているのだ。

 視程内空中戦は複雑かつ非常にダイナミックではあるが、比較的広がりの少ない問題だと見なされている。したがって、行動は非線形である一方、空中戦シナリオは明白な目標と性能の制限、そして計測可能な結果で表せるという特徴を備えている。

 ジャボルセック中佐は「AIアルゴリズムが信頼に値し、予測可能であると人間のパイロットが確信を持てるようになれば、空中戦シナリオの難易度を高めて、現実に近付けることができる」と述べている。

「バーチャルテストの後、我々は縮小版航空機を使って空中戦アルゴリズムをデモンストレーションする計画だ。最終的には実物大航空機によるライブの有人/無人チームの空中戦につなげていく」(ジャボルセック中佐)

有人システムへの篇重から脱却する「モザイク戦争」

 DARPAのSTOは、6月5日発行の公募要領において、ACEプログラムの意欲的目標の概要とモザイク戦争コンセプトの採用意図を示している。

 この新たなコンセプトは、「高コスト」と「長い開発期間」、「少数」という特徴にこれまで苦しめられてきた高度な有人システム(=従来のパイロットを要する空中戦システム)に重点を置く姿勢からの変貌を意味する。

 具体的には、変化する脅威に対処する最新技術の統合に向け、迅速な現地展開と反復が可能な「有人プラットフォーム」と、比較的低コストの「無人の補助マシン」の組み合わせを重視する方向への移行を目指すものだという。

 DARPAでは「有人航空機と非常に低コストの無人システムをネットワーク接続することで、個々のピースを容易に再構成、または拡張して異なる効果をもたらしたり、損失の場合には迅速に置き換えたりできる“モザイク”が生まれる」と説明している。

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「モザイク戦争」は、キルチェーン機能が複数領域の有人/無人資産に分散する、将来の作戦環境を構想したものである

人間の役割は、オペレーターからミッションの司令官へ

 ACEでは、この原理の近距離空中戦への適用を目指している。DARPAによると、空中戦は「一般的にオペレーターが信頼する現在の物理ベースの自動化から、将来の有人/無人チーム連携実現に必要な、より複雑な人間とマシンの協力関係へと進行している」という。

 その目的は、1人のパイロットが、複数の半自動インテリジェント無人プラットフォームを有人航空機内から制御・調整できるようになることである。これにより、「人間の役割は1人の“オペレーター”からシステムミッションの“司令官”へとシフトする」とDARPAでは考えている。

「ACEでは特に、パイロットがより広く、よりグローバルな空軍ミッションに参加できるようにしながら、同時にその航空機および連携する無人システムが個々の戦術に関与できるような能力の提供を目指している」(DARPA)

 ACEでは「自律の階層構造を作り出すこと」を目指している。高水準の認知機能、たとえば「全体的交戦戦略の開発」「ターゲットの選択と優先順位付け」「最適な武器または効果の判断」などは人間によって実行され得る。その一方、航空機の操作や交戦戦術といった低水準の自律は、自動システムに任せられることになる。

 DARPAにとって、視程内空中戦をAIに引き渡す目的は、将来的に機会が少なくなる空中戦そのものより、パイロットに「AIと自動化が高度な戦いを実際に管理できる」という確信を与えることにある。

 DARPAは「新人戦闘パイロットの場合、離陸や着陸を学ぶとすぐ、空中戦闘操作を教わることになる」と説明する。

「一般に信じられていることとは逆に、新人戦闘パイロットが空中戦を学ぶのは、それがパイロットのパフォーマンスと信頼に磨きをかけられる試練の場だからだ。“航空機オペレーター”から、ダイナミックな空中戦タスクをコクピットから無人の半自動空挺装置に任せる“ミッション戦闘司令官”へとパイロットを変身させるためには、AIが基本に対処できることをまず証明しなければならない」(DARPA)

【次ページ】ACEプログラムにおける4つの技術開発課題、総額6,360万米ドルの賞金も

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