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  • 2020/02/05 掲載

BtoBマーケティングを「ブランディング」「リサーチ」だけと勘違いする日本企業の愚

新連載:庭山一郎のBtoBマーケティング塾

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デジタルマーケティングではここ数年、未曽有のMA(マーケティングオートメーション)ブームに沸いていたが、日本のBtoB企業では導入の成果が出ないとの怨嗟の声が後を絶たない。BtoBマーケティングに30年以上携わってきた、シンフォニーマーケティングの代表取締役の庭山一郎氏は「MAを導入した5000社のほとんどが失敗。日本企業のBtoBマーケティングは他国と比べて周回遅れの状況だ」と危機感をあらわにする。庭山氏にB2Bマーケティングの現状と課題、さらに解決のヒントについて解説してもらう。

シンフォニーマーケティング 代表取締役 庭山一郎

シンフォニーマーケティング 代表取締役 庭山一郎

1962年生まれ。中央大学法学部卒。1990年9月にシンフォニーマーケティングを設立。CRM、SFAなどの導入計画、ECサイトの構築など約300社のマーケティングプロジェクトに参画。1996年よりBtoBにフォーカスした日本初のマーケティングアウトソーシング事業を開始。各産業の大手企業を中心にサービスを提供している。米国DMA(ダイレクトマーケティング協会)会員。著書やマーケティングメディアへの連載、各種セミナーの講師などで実践に基づいた考え方を発信している。主な著書に『ノヤン先生のマーケティング学』(翔泳社)、『サラサラ読めるのにジワッとしみる「マーケティング」のきほん』(翔泳社)など。

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日本のB2B企業のデジタルマーケティングは周回遅れだ
(Photo/Getty Images)

日本のBtoBマーケティングは周回遅れだ

 「日本企業のBtoBマーケティングは、他国と比べて周回遅れの状況です。特に欧米からは10~15年ほど遅れている」。講演やコラムなどでこう説明すると、反論をいただくことがあります。ただ、これはBtoBマーケティングの定義が異なるからだと思っています。

 BtoB企業が取り組むべきマーケティングには、目的や担当部署、評価軸によって主に「リサーチ」「ブランディング」「案件創出」の3種類があります。日本で最初に市民権を得たのはリサーチです。「マーケティング = リサーチ」という方が今でもいらっしゃいますが、この領域はそれほど遅れていません。次に市民権を得たのが、ブランディングです。BtoB企業は比較的投資もしていますし、かなり熱心に取り組んでいるので少なくとも周回遅れではない領域です。

 周回遅れだと私が指摘するのは、案件創出の領域です。案件創出は、マーケティング用語では「デマンドジェネレーション」という言い方をします。案件を創出して営業部門や販売代理店、特約店、海外の現地法人に安定供給するという仕組みを指します。また、この領域を担う組織や仕組みを「デマンドセンター」と呼び、その評価軸は「ROMI(Return On Marketing Investment)」となりますが、日本企業はこうした仕組みをまったく持っていません。

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BtoB企業が取り組むべき3つのマーケティング

 欧米におけるBtoBマーケティングでは、この領域が花形となっています。そのため、人数と予算を一番持っていて、まさに売り上げに直結するものととらえられています。日本企業がここに軸足を置いていないことに対して、非常に大きな危機感を持っています。

マーケティングが不毛な国・日本の特殊な事情

 他の先進国から比べて日本企業が周回遅れとなったのには明確な理由があります。実は最初から遅れていたわけではなくて、「1990年代後半に起きたマーケティングの革命に日本企業が取り残されてしまった」というのが私の見解です。

 デマンドジェネレーションでは「リードジェネレーション」「データマネジメント」「リードナーチャリング」「リードクオリフィケーション」の4つのプロセスがあり、それを実行する組織としてデマンドセンターが設置されました。

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商談機会の創出を行うデマンドジェネレーションとは

 これによって、米国のマーケティングは革命的に進化しました。現在、世界のBtoBマーケティングの主流は「Account Based Marketing(ABM)」となっています。これもこれまでの革命に端を発して登場したものです。日本企業はこうした流れに完全に乗り遅れてしまっているのです。

 「先進国、かつものづくり大国であり、世界中で多くのモノを売っていながら、なぜ遅れてしまったのか」と疑問に思われるかもしれません。その理由としては、デマンドジェネレーションという仕組みを持っている企業がほとんど存在しないことが挙げられます。マーケティング担当の取締役である「CMO(Chief Marketing Officer)」を設置している日本企業は、いまだに2%を切ると言われています。

 では、なぜマーケティングの仕組みがなかったのかと言うと、「単純に企業にとってマーケティングは必要なかったから」というのが理由です。第二次世界大戦で敗戦国となり、焼け野原からスタートした日本市場ではモノを作れば確実に売れる状況でした。実際、戦後の復興から高度経済成長からバブル期に至るまで、実は日本企業は一貫して右肩上がりで成長してきました。市場が急拡大する時や、圧倒的なアドバンテージがある市場ではマーケティングは必ずしも必要でありません。そういう特殊な事情もあり、マーケティングが必要のない国となったのです。

MAツールの導入はことごとく失敗に終わった

 約50年もの間マーケティングが必要なかったことで、どの日本企業も「DNAレベルでマーケティングが欠けている」ということが言えます。そこで起こったのが「MA(Marketing Automation)」ツール導入の失敗です。日本では2010年ごろから普及が始まったMAツールは、これまで5,000を超える企業に導入されてきました。しかし、そのうちまったく使われなくなり、最終的に解約するケースが圧倒的に多かったということが日本企業ではたびたび起きてきました。

 米国の経済学者であるイゴール・アンゾフ氏は、50年以上前に「意思決定の3Sモデル」を提唱しています。3Sとは「戦略(Strategy)」「組織(Structure)」「システム(Systems)」を表します。具体的には、どういうマーケティングをするかという戦略を策定し、次にそれを実現するための組織を作ります。それらをベースに使うべきシステムを選定するというものです。

 多くの日本企業は、戦略も組織もない状態で最初にMAといった道具を買ってしまったのです。これも日本企業がマーケティングの貧困が原因で起きた現象だといえます。

【次ページ】ツールの投資対効果が得られない本当のワケ

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