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- 2022/04/12 掲載
ドン・キホーテの伸びしろ2.4兆円?総合スーパー“再生請負人”のスゴイ戦略とは
【連載】流通戦国時代を読み解く
消えていく総合スーパー
少し前にセブン&アイホールディングスが、グループ傘下の百貨店の「そごう・西武」を売却するというニュースが出て、業界周辺は騒然となっていたが、まだその結果は公表されてはいない。外資系ファンドを中心に入札がされたということであるが、その中から落札ということになるのであれば、そごう・西武がそのまま百貨店として存続するとは考えにくく、地方店や小型店の用途は変更されることになる可能性が高い。そごう・西武の決着がどのようになるにせよ、セブン&アイ・グループにとって、これで一件落着という訳ではなく、その本丸とされる総合スーパー「イトーヨーカ堂」の再生という問題にも向き合っていかなければならない。
セブン&アイ・グループの祖業でもあるイトーヨーカ堂については、長らく右肩下がりの業績が続いているのだが、「効果的な改善施策を打ち出せてはいない」と投資家筋では指摘する声もある。
現時点のグループ計画などによれば、イトーヨーカ堂については、おおまかには不採算店の閉鎖、食品強化、非食品部門の適正なテナント化という方向性が示されているのだが、縮小均衡からは抜け出せてはいない。ステークホルダーからは売却も含めた抜本的な対策を望む声が大きくなってきている。
しかし、イトーヨーカ堂が首都圏中心部における駅前一等地を押さえていることを考えると、事業売却という選択肢はないはずだし、グループにヨークベニマルという実力ある食品スーパーを抱えていることを踏まえれば、ベニマル化して食品流通の軸とすることが落としどころだと、個人的には思っている。
「総合スーパー」という業態は、今世紀初頭から衰退の一途をたどっており、イトーヨーカ堂に限った話ではない。2000年代初めにダイエー、西友、マイカルなどの大手が淘汰された時代を経て、その後も総合スーパーは凋落が続いており、イオン、イトーヨーカ堂、イズミなど数社を除き、その大半が淘汰、再編の波に呑まれていった。
大手総合スーパーとして3番手であったユニーも紆余曲折を経て、今ではパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH:ドン・キホーテを中核会社とする流通大手グループ)の傘下となった。
総合スーパー各社が事業再構築にてこずる中、このPPIHは、ドン・キホーテというディスカウントストア出身ながら、今や総合スーパー再生請負人とも言われ、総合スーパーを丸ごと抱えても、再生出来る稀有な存在となっている。
2強セブンとイオンを追い上げる、ドンキ急成長のカラクリ
PPIHの中核業態であるドン・キホーテは、言わずと知れたディスカウントストア最大手であり、その売場を一度は目にしたことがあるはずだ。商品をうず高く積み上げる「圧縮陳列」で会社が「魔境」と呼ぶ、どこに何があるかも分からないほど混沌とした「宝探し」のような空間を作り出すことで、来店客の時間消費を誘う、というのはよく知られた話であろう。目的買いのために足を運ぶ場所ではなく、空間を楽しみながらウロウロしているうちに、衝動買いしてしまうという特殊な売場はこの会社にしか作れまい。コロナ前は、海外にも存在しないその不思議な空間は、来日インバウンド客の旅行目的地となっていたほどだ。
こうした独特の集客力を持つドン・キホーテが、昔から得意としていたのが、総合スーパーなどの大型店舗の居抜き出店だった。不採算店となって閉鎖した総合スーパーの店舗は、同業が引き受けても運営が難しいのだが、ドン・キホーテにかかればその多くが売場の集客力によって再生してしまう。
こうした実績を多数積み重ねたドン・キホーテは、2007年には破綻した総合スーパー「長崎屋」を会社ごと買収して、その再生を果たした。会社としての長崎屋の業績は2021年3月時点で、売上1,926億円、経常利益67億円(経常利益率3.4%)と公表されているからその成果は明らかだ。
さらには総合スーパー第3位だったユニーも傘下に入れたPPIHは「長崎屋+UDリテール+ユニー」の売上合計(2021年3月)で約8,700億円(営業利益366億円)に達しており、セブン&アイHDとイオンの2大流通グループに次ぐ、総合スーパー関連部門を運営している。
PPIHは総合スーパーを再生することで成長する企業となっているのだが、同じことが出来る企業は今のところ存在していない。どうしてドン・キホーテだけが総合スーパーを活性化できるのだろうか。
【次ページ】総合スーパー業態でも「ドンキ式運営」なら儲かる理由とは?ドンキの国内成長余地は2.4兆円と言える理由は?まるごと解説
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