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  • 2020/09/04 掲載

ナノインプリント技術の基礎解説、自動運転やARに影響与える微細加工技術

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ナノテクノロジーとは、分子や原子の大きさと比較するような極小の世界において、モノを作り上げようとする技術の総称である。ナノテクノロジーの1つであり、現状よりもさらに優れた処理能力を持つ半導体チップや、ARグラス、自動運転で用いられる3Dセンサー、次世代バイオチップなど、これからが期待される先進的な製品を支える加工技術である「ナノインプリント」について、日本のみならず、世界的にもナノインプリント技術を牽引する存在であるSCIVAX 奥田徳路氏監修のもと、解説する。

監修:SCIVAX、執筆:物流・ITライター 坂田 良平

監修:SCIVAX、執筆:物流・ITライター 坂田 良平

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期待高まる微細加工技術について、詳細に解説する
(Photo/Getty Images)


ナノインプリントとは何か

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ナノインプリントは、原子や分子などのスケールにおける微細加工技術の1つである
 ナノインプリントとは、ナノメートル・スケールのパターンを持つ型(凸部)を、樹脂に押し付けて、凹型のパターンを転写する製造技術を指す。ちなみに、1ナノメートルは10億分の1メートルである。

 仕組みとしては、ハンコやスタンプと同じ仕組みだ。単純な仕組みではあるが、これをナノメートル・スケールの世界で実現することに、大きな価値と技術的難易度が存在する。仕組みが単純であるゆえに、従来技術に比べて製造コストの大幅な削減も期待できることも、注目を集めている理由のひとつだ。

 ナノインプリントが期待されるのは、たとえば半導体チップの微細化である。高性能な半導体チップを作り上げるためには、チップに搭載される回路をより小さくすれば良い。同じ面積の半導体チップにおいて、回路が1/2、1/3…と小さくなれば、半導体チップはより高性能になる。ただしそのためには、回路を描く線をより細くしなければならない。

 これまで半導体の回路を描くには、光リソグラフィと呼ばれる技術が用いられてきた。レーザーを照射し、回路を描いていく電子線線画装置などが該当する。だが、光リソグラフィによる加工は、微細化を進めていく上で限界が近づいてきていた。

 1つは、より小さく加工する技術的な限界であり、もう1つは装置の高額化である。

 光リソグラフィでは、液浸技術やダブルパターンニングなどの工夫で微細化を進めてきたが、これも限界に近づいている上、こういった手法を採用することで、装置も高額になる。

 装置の高額化は、製品である半導体チップの価格に反映せざるを得ない。いくら高性能であっても、今よりも数倍から数十倍以上も高い価格の半導体チップは商業的に成功することは難しいだろう。ナノインプリントは、半導体に限らずさまざまな分野において、機能とコストにブレイクスルーを起こす可能性を持つ技術として、注目を集めている。

 ちなみに、ナノインプリントとは、「ナノ」+「インプリント」を組み合わせた造語であって、「ナノ」+「イン」+「プリント」ではない。ここで言う「インプリント」とは、「転写」のことである。ナノインプリントは、型(モールド)を使って転写する技術であって、プリント、すなわち印刷技術ではないことに注意をされたい。

ナノインプリント技術が生み出す製品

 ナノインプリントが生み出す製品は、高性能な半導体チップだけではない。たとえば光学系の用途であれば、ARグラスや自動運転自動車には不可欠な3Dセンサーのレンズなどがある。

 自動運転自動車向けの3Dセンサーでは、昼夜を問わず、また天候に影響されることなく、正確に周囲の状況を把握するためのレンズが必要不可欠だ。だが、現在採用されているLiDAR等の3Dセンサーは、まだ高額であり、自動運転自動車の市場拡大には課題となると考えられている。自動運転自動車が普及するためには、安価かつ高性能という、相反する条件をクリアした3Dセンサーが求められるのだ。

 センシング対象物に効率よく光を当て、より高精度なセンサーを安価に実現するため、比較的安価な光源と、精度の高い光学レンズの組み合わせによる光制御技術が注目されている。安価かつ高性能な3Dセンサー実現のためには、ナノインプリントが最適だと考えられている。

 光制御技術の一例が、モスアイ構造である。

 「モスアイ」(moth-eye)とは、「蛾(ガ)の目」のこと。夜行性であるガの目は、反射を抑え夜間のわずかな光をより効率的に取り込むため、ナノメートル・スケールの小さな突起を備えている。モスアイは、ガの目の構造を、人工的に再現したものであり、その実現はナノインプリントが担っている。

 ちなみに、反射を抑え、視認性を高めるという性質から、モスアイ構造は、スマートフォンのカメラやタッチパネル(視認性が向上する)などにも用いられ始めている。

 ARグラスの、ARは「拡張現実(Augmented Reality)のことだ。ARグラスは、MRグラス(MRは「複合現実(Mixed Reality)」の略)とも呼ばれる。ARグラス(MRグラス)は、目の前に広がる現実空間を認識し、デジタル情報を重ねる機能を持つメガネである。メガネを通した視界の一部に情報を映し出すだけ、つまりモニターやディスプレーの延長上にあるスマートグラスとは、「現実空間を認識するかどうか」という点で異なる。ナノインプリントは、現実空間にデジタル情報を重ねて見せるための光学レンズの加工にも使われている。

 またナノインプリントは、バイオチップの分野でも期待されている。バイオチップとは、DNAやタンパク質、糖鎖といった生体物質、化学物質を、数cm角の基板上に、高密度に固定したものである。バイオチップには、さまざまな用途が期待されているが、代表的な用途は検査・検出だ。

 一例を挙げよう。糖尿病の患者は、血糖値を測るために、日に何度も採血を強いられるケースがある。しかし、バイオチップは、極めて高い精度でターゲットを検出することができるため、涙液等、血液以外の検体から、血糖値を測定することができるようになると期待されている。このバイオチップの小型化、集積化のためにはナノインプリントが不可欠だ。

 ナノインプリントは、このように「これから発展ないし進化が期待される製品」を支える製造技術として、期待されている。

【次ページ】なぜナノインプリント技術は注目されるのか

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