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少子高齢化や財政的な制約、地域の担い手不足など、地方には多数の課題が存在する。これを解決する手段としてスマートシティが注目されている。自治体や民間企業が主体となり各地で試みが進んでいるが、現場にはどのような課題が存在しているのだろうか。東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 柳川範之氏をモデレーターに、リージョンワークス代表社員 後藤太一氏と、アクセンチュア イノベーションセンター福島センター共同統括 マネジング・ディレクター 中村彰二朗氏が地方のスマートシティについてトークセッションを行った。
本記事は2021年8月9日~11日開催「キリロムグローバルフォーラム 2021夏(主催:vKirirom Japan)」の講演を基に再構成したものです。
スマートシティは「地域のQOL」を高めるインフラ
議論の前に、そもそもスマートシティとはどのような施策を指すのだろうか。単にロボティクスやARなどの先端技術を都市計画に盛り込むだけでスマートシティと言えるのか。
東日本大震災以降、会津若松で9年間スマートシティを実践してきた中村氏はその定義を「地域のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高め、住民のウェルビーイング(心身ともに良好な状態)を整える土台作り」と話す。
「都市部と地方の大きな違いは、民間企業の投資額です。商業施設をはじめ、都市部では民間セクターが豊富に設備投資を行っていますが、地方には十分な投資が行われていない。だからこそ行政の投資が不可欠なのです。デジタルの力を駆使して医療や子育て、雇用などの生活インフラを充実させれば、若い世代の活性化が期待できます」(中村氏)
もう1名のスピーカーである後藤氏は、渋谷や福岡、徳島などで地域活性を牽引してきた。後藤氏はスマートシティの定義について「中村氏と同意見」と述べたうえで、米国のスマートシティ事例を紹介した。
「米国では地方自治が行き詰まると公共セクターの編成や条例を変えてきました。変革の下支えをしてきたのが、スマートシティ化で得たデータです。たとえば行政のページにアクセスすると、地図上に地域の家賃や治安、公共施設への距離などが一覧表示されます。日本の自治体も同様に密度の高いオープンデータを作成すれば、データドリブンなまちづくりができるはずです(後藤氏)」
都市にデジタル技術を導入すれば、副産物的にさまざまなデータが得られる。交通量や住民の移動データだけでなく、ごみの回収量や消費電力量、住民同士の交流データなどを活用すれば、より暮らしやすい街が実現できる可能性がある。
住民から個人情報を提供してもらうために、合意形成が必要不可欠
後藤氏が提案したオープンデータを作成する場合、個人情報の取り扱いが課題となる。社会がデジタル化する中で、情報漏えいやデータによる監視を心配する声は増えてきた。中村氏はこの課題を解決するため、オプトイン(データの取り扱いについて事前許可を得ること)を意識してきたという。
「会津若松のスマートシティ化プロジェクトではオプトインを意識して施策を進めてきました。『自身のため、地域のため、次世代のためにデータを提供してもらう』という合意形成ができれば、ボトムアップ型で市民を巻き込めます。スマートシティの恩恵を市民1人ひとりが腹落ちできれば、比較的スムーズに個人情報も提供してもらえると思います」(中村氏)
中村氏が推奨したオプトインは、後藤氏が関わる、渋谷区のまちづくり共創プラットフォーム「ササハタハツ(笹塚・幡ヶ谷・初台)まちラボ」でも行われていたようだ。2021年に始まった同プロジェクトでは市民がZoom等で意見を交換してあるべき街の姿を模索している。将来的には公共の公園や農園を作ってデータを取得し、さらなる街の改善に生かす予定だという。
【次ページ】オプトインのカギを握るのは「信頼関係」と「自分ごと化」
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