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  • 2022/02/05 掲載

門田隆将x高山正之対談:キリスト教はなぜ「狭量」で日本人はなぜ「寛容」なのか

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日本人の矜持や信念に、今と昔の日本人で違いはあるのでしょうか。産経新聞記者として世界を巡り、週刊新潮「変見自在」コラムを20年以上にわたり連載する高山正之氏(高ははしご高)、ならびに週刊新潮記者を25年務め、その後はノンフィクション作家として縦横無尽に活躍する門田隆将氏、この国を見続けてきた2人は日本とキリスト教の歴史には大きな違いがあると指摘します。欧米列強が何を言おうが動じなかった日本の、そして日本人の強さとは何だったのでしょうか。

執筆:門田 隆将(かどた りゅうしょう)、高山 正之(たかやま まさゆき)

執筆:門田 隆将(かどた りゅうしょう)、高山 正之(たかやま まさゆき)

門田 隆将(かどた りゅうしょう)
作家、ジャーナリスト。1958(昭和33)年、高知県生まれ。中央大学法学部卒業後、新潮社入社。『週刊新潮』編集部記者、デスク、次長、副部長を経て、2008年4月独立。『この命、義に捧ぐ─台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡』(集英社、後に角川文庫)で第19回山本七平賞受賞。主な著書に『死の淵を見た男─吉田昌郎と福島第一原発』(角川文庫)、『オウム死刑囚 魂の遍歴─井上嘉浩 すべての罪はわが身にあり』『日本、遥かなり─エルトゥールルの「奇跡」と邦人救出の「迷走」』(PHP研究所)、『なぜ君は絶望と闘えたのか─本村洋の3300日』(新潮文庫)、『甲子園への遺言』(講談社文庫)、『汝、ふたつの故国に殉ず』(KADOKAWA)、『疫病2020』『新聞という病』(産経新聞出版)、『日本を覆うドリーマーたちの「自己陶酔」』(ワック)など多数。

高山 正之(たかやま まさゆき)
ジャーナリスト 1942年東京生まれ。1965年、東京都立大学卒業後、産経新聞社入社。社会部次長を経て、1985年から1987年までテヘラン支局長を務め、1980年代のイラン革命やイラン・イラク戦争を現地で取材。また、アジアハイウェー踏査隊長としてアジア諸国を巡る。1992年から1996年までロサンゼルス支局長。1998年より3年間、産経新聞夕刊にて時事コラム「髙山正之の異見自在」を執筆。2001年から2007年3月まで帝京大学教授を務める。『週刊新潮』「変見自在」など名コラムニストとして知られる。著書に、『アジアの解放、本当は日本軍のお陰だった!』(ワック)、『変見自在』シリーズ(新潮社)※最新刊は『変見自在 コロナが教えてくれた大悪党』、『アメリカと中国は偉そうに嘘をつく』『中国と韓国は息を吐くように嘘をつく』(徳間書店)など多数。馬渕氏との共著には『日本人が知らない洗脳支配の正体 日本を見習えば世界は生き残れる』(ビジネス社)がある。

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※本記事は『世界を震撼させた日本人 心を奮い立たせる日本の偉人』を再構成したものです。

日本人はやさしくて寛容であり、恥になることを嫌う

門田隆将氏(以下、門田氏):日本人の生き方とはどういうものか、矜持や信念というものの持ち方やあり方に、今の日本人と昔の日本人とで違いがあるのか。そこのところを大先輩の髙山先生とお話ししていきたいと思います。

高山正之氏(以下、高山氏):今は口先だけの批判屋が多い。まともな日本人は消滅した、日本人は劣化したとかいうけれど、決めつけは早計すぎる。現実を見れば、2021年の衆議院総選挙でも、まともさを理解し、求める人は驚くほど増えてきている。歴史を正しく捉えて、今を見ないといけない。

門田氏:日本人は、やさしくて寛容であり、恥になることを嫌います。これは民族的な特徴ですね。

高山氏:よその国の人間と日本人のどこがちがうのか。それを今の日本人と過去の日本人とを踏まえて考えていく時、キリスト教の問題などはいい例になると思う。

 キリスト教は、どんな国も受け入れ、受容する宗教のようにいわれている。ガリラヤ湖のほとりから出てシリアで布教され、ついにはローマに入ったと。しかし、ローマも最初は、キリスト教の受け入れを渋っていた。

 ローマはもともとギリシャの神々を仰ぐ多神教国家で、ジュリアス・シーザー(紀元前100~紀元前44年)も、自らを女神アフロディテ(ヴィーナス)の子でローマを建国したアエネアスの末裔(まつえい)と言っている。ギリシャの神々がそのままローマに根づいていた。

 おまけにローマ人はギリシャ人より精力的で、シーザーがガリヤに遠征したように海外にも盛んに出かけていって、外地で気に入った神様がいるとローマに連れて帰った。エジプトのイシス神や、ゾロアスターにも近いミトラ神といった中東の神様だとか、いろんな神様を祀(まつ)っていた。結構信者もいたらしい。

 信仰は自由というのが、ローマのいいところだった。当初、キリスト教がなぜ嫌われたのかというと、母体のユダヤ教の神ヤハウェが「オレ以外の神を祈るな」と言ったから。そういう狭量さがイエスの時代になっても残っていて、他の神々の存在を許さなかった。寛容さがなかった。

 それがローマ市民、特に皇帝の気に召さなかった。第五代皇帝のネロ(37~68年)がキリスト教徒を迫害したのも、その狭量さを嫌ったからだろう。十二使徒のペテロとパウロまで処刑したことは、のちのキリスト教専制の世の中になっても、さんざん悪くいわれてきた。そういうところも、キリスト教の狭量さの表れみたいにも見える。

 ローマ帝国がネロから300年、キリスト教を受け入れなかったのには、そういう背景があった。キリスト教信者は狭量に増して、しつこさもすごかった。結局、コンスタンティヌス帝の時に皇帝も根負けして多神教のローマで布教を認められた。そして392年、テオドシウス帝に働きかけて、とうとうローマの国教にさせてしまう。

 国教になった途端にキリスト教徒が何をやったかというと、イシスやミトラなど、すべての他の神々の神殿をぶち壊し、その信仰を禁じた。ローマの礎だったギリシャの神々もすべて追放しただけでなく、テオドシウスの時には、ギリシャ時代からのギリシャの神々の聖地だったデルフォイも潰させて、その跡地にキリスト教の教会まで建てた。

 ローマ時代には、自由な宗教、自由な学問というものが連綿とギリシャから生き続けていた。たとえば、エジプトのアレクサンドリアという都市は、壮大な図書館であり、研究所だった。そこで天文学を教えるヒュパティアという美人の学者がいた。ヒュパティアは、キリスト教の祭司が「イエスが湖の上を歩いてきた」と説教するのを聞いて「非科学的な奇跡を売り物にするのはいかがなものか」と批判した。そしたら、狭量なキリスト教徒たちが彼女を襲って、裸にひんむいて、牡蠣の貝殻で肉をそいで殺してしまった。ついでに、アレクサンドリアに伝わっていた、いわゆるギリシャ哲学から何から全部、ぶち壊した。その残りは、7世紀以降、イスラム勢力の統治になってからイスラム教徒が大切に保存し研究も重ねた。ペルシャでは、イブン・シーナなんて学者も出た。

キリスト教の不寛容は身内に向けられた

高山氏:一方のキリスト教世界は以後、蒙昧(もうまい)な迷信の世界に落ちていく。唯一の研究は聖書の解釈で、ミサの時のパンは種無しパンだ、いやパンならなんでもいいんだ、といったアホな論争を繰り返して、ついにはローマ教会は西のカトリックと東の東方正教会に分裂している。以降、キリスト教の不寛容は、身内に向けられ、身内の中に異端を探して宗教裁判にかけた。「教会は要らない」「聖書に帰れ」と言ったフスは火あぶりにあった。同じく「聖書だけでいい」と言ったアーミッシュも見つかり次第に殺された。

門田氏:不寛容というか、ものすごい攻撃性ですよね。11世紀に始まるエルサレムをめぐるイスラムとの戦いなんて、キリスト教徒のほうがはるかに残虐ですよね。たとえばサラディンとの戦いにしても、十字軍のほうが圧倒的に残虐です。

高山氏:十字軍には、中東の子どもたちがいちばん柔らかくて美味いからって、手足をもいで焼いたり煮たりして食ったという記録があるという。

 キリスト教は、一見するとよさそうなので、みんなが騙された。あんなに抵抗していたローマですらついに騙されてしまった。みんな心の中ではひどいなと思ってはいた。そういうイエス・キリストの愛と慈悲を日本にもと、16世紀に宣教師がやってきた。

【次ページ】世界のどの国も成し遂げられなかったキリスト教の追放

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