• 2022/03/04 掲載

SDGsがLGBTQに明確に言及しない、知られざる理由。失望と希望が入り混じる実状とは(2/3)

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 SDGsも含まれる「権利に関する法」は、条約であるかどうかにかかわらず、各国間の激しい交渉、妥協、議論のプロセスを経て採択されます。異なる意見を持つ国連加盟国によって、ある目標がスムーズに採択されるためには、その目的が非具体的で、議論の余地がないものでなければなりません。そのため、一連の権利または目標を採択するためには、明確性と具体性をある程度犠牲にせざるを得ないのです。

 このような権利に関する法において、ある権利が他の権利との関係でどのように解釈されるかについての指針が含まれていることは稀です。このような権利や目標を解釈する人は、客観的な文章と、その文章の「精神」を主観的に読み取ることで、優先順位、内容、制限の基準を決定することになります。そういった意味で、権利や目標を定めた本文自体は、「必要なフィクション(necessary fiction)」と表現されています。

 実際にSDGsの本文を見てみることにしましょう。一般的に保護されている人の特徴である性別、人種、宗教、年齢、性的指向の中で、性別だけが具体的に記載されていることがわかります(目標5は特に男女平等に焦点を当てています)。LGBTQだけでなく、宗教、異なる人種や民族、高齢者、未成年についてもSDGsでは明示的に言及されていません。

 多様な人々に支持される目標を作成するためには、一見すると物足りない文書にならざるを得ないこともあります。ですが、以下に述べる通り、LGBTQの人々がこの事実を悲観視する必要はありません。SDGsに関しては、非具体的な本文であるからこそ、素直な解釈によって、LGBTQの人々がSDGsで保護されるべき層に含まれていることが確認できるのです。

国連におけるLGBTQ問題の歴史はここから始まった

 1993年以前の国際的な政府間文書で、「セクシュアリティ」や「性的」という言葉が登場したことはありませんでした(1989年の子どもの権利条約で、性的搾取や性的虐待からの保護が規定されたことを除きます)。

 セクシュアリティは、結婚して家庭を築く権利、配偶者を選ぶ権利、家族計画を立てる権利、子どもの数や間隔を決める権利など、関連するテーマの中で暗黙のうちに扱われていました。これらの権利は、「異性間の結婚」を基礎としており、生殖も重要な要素となっています。

 カナダの活動家であるフランソワーズ・ジラール氏は、国連におけるLGBTQ問題の発展をたどり、国際的な人権が性と生殖の問題に適用されるべきだという考えが、1980年代にフェミニスト団体によって初めて検討されたことを指摘しています

 女性の健康問題に取り組むグループは、1980年代以降、家族計画による強制や安全でない妊娠中絶を喫緊の課題として認識していました。

 1984年にアムステルダムで開催された女性と健康国際会議では、世界中の女性が自分の「リプロダクティブ・ライフ(性と生殖に関する健康)」と「リプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)」をコントロールできるようになることが急務であるという点で、活動家たちの意見が一致しました。

 1990年代初頭には、これらの問題に関して、女性の健康を擁護する活発な同盟が形成されました。

 また、人権問題に取り組むグループは、女性に対する暴力、特に性的暴力を緊急でありながら放置されている問題として取り上げました。その一方で、フェミニズム運動のレズビアンやレズビアン&ゲイのグループは、さまざまな国際フォーラムで性的指向に基づく差別の問題を提起し始めました。国際的な議論の中でLGBTQの問題が最初に発展したのは、フェミニスト団体の活動が発展し、受け入れられるようになったことの裏返しでもあります。

 1995年の北京行動綱領第96項は、国際条約における「性的指向」という言葉の使用に関する国家間の交渉を経て、セクシュアリティに関する事項が初めて文書化されたものです。包括的な表現を支持する者(欧州連合加盟国と南米の一部の国)と限定的な表現を支持する者(イスラム教の大多数の国とローマ教皇庁)は、交渉と妥協の末、女性が自分のセクシュアリティに関する事柄をコントロールする権利について、次のような文言とすることを合意しました。

女性の人権には、強制、差別及び暴力のない性に関する健康及びリプロダクティブ・ヘルスを含む、自らのセクシュアリティに関する事柄を管理し、それらについて自由かつ責任ある決定を行う権利が含まれる。全人格への全面的な敬意を含む、性的関係及び性と生殖に関する事柄における女性と男性の平等な関係には、相互の尊重と同意、及び性行動とその結果に対する責任の共有が必要である。

 以前の草案では含まれていた「男性」「青少年」「性的権利」の記述は、削除されています。

 世界中のLGBTQが直面している問題を明確に認識し、SDGs本文に反映させるための十分な国際的コンセンサスがまだ得られていないのは残念なことです。国家間レベルでLGBTQの問題を明確に認識するという目標はまだ第一段階に過ぎません。問題を認識した上で、それを解決するという第二段階がより重要なのであって、今後の発展が期待されます。

【次ページ】SDGsとLGBTQインクルージョンとの関係

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