• 2023/02/22 掲載

黒田緩和と市場:進む空洞化、市場を「味方」にできるか 次期日銀の課題

ロイター

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伊賀大記

[東京 22日 ロイター] - 日経平均は2.5倍、円金利はマイナス化、対ドルで75%の円安。10年にわたって日本の金融市場を揺るがした日銀の超金融緩和策の下では、こうした目に見える数値の背後でマーケットの空洞化も進んだ。市場を再び「味方」にし、呼び戻すことができるかは、今後の政策効果を左右するだけに、次期日銀の大きな課題となる。

<国際指数から除外>

世界の多くの投資家が運用基準とするモルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)の株価指数。スタンダード・インデックスの指数銘柄で、日本は13年から20年8月までは新規採用と除外が同数だったが、それ以降の約2年間では89銘柄が除外された一方、新規採用は10銘柄にとどまっている。

採用・除外の基準は時価総額だ。この10年で日本株の時価総額は増加してきたが、海外との比較では伸び率は相対的に低く、「基準」を下回る銘柄が続出した。日本株の取引量が減っているわけではないが、東証プライム市場では、企業の解散価値を下回る株価純資産倍率(PBR)1倍割れ銘柄が相次いでいる。

「日銀の政策は複雑化しわかりにくくなった。海外投資家からも政策変更の時期見通しなどの問い合わせはあっても、政策を深く理解しようとする質問は少なく、日本市場に対して関心が薄れている印象を受ける」と、ある外資系証券のエコノミストは話す。

日本国債も国際的な運用対象から外れ始めている。10年物国債の一部はグローバル債券投資家が使う代表的な指標「FTSE世界国債指数(WGBI)」から除外された。日銀の保有比率が一時100%を超えるなど、市場流通量の基準を満たせなくなったためだ。

日銀は、この10年で約500兆円の国債、約50兆円(時価)の上場投資信託(ETF)を購入。日銀資産の名目GDP(国内総生産)比は30%程度から約130%に膨らんだ。中央銀行による大量の資産購入は、低金利環境を維持し、円安をもたらし、株価を支えたが、民間を遠ざけてしまう「クラウディング・アウト」も引き起こした。

<日本経済の順位低下>

国際通貨基金(IMF)のデータを東短リサーチが集計した結果、先進国(人口100万人以上)の5年ごとの累積実質経済成長率をみると、2012年までの5年間、日本の成長率はマイナス1.7%で21位だった。

黒田緩和(アベノミクス)が始まった17年までの5年間は6.4%のプラス成長に転じたが、順位は27位に低下。他の先進国が日本よりもっと成長したためだ。2022年までの5年は最下位の32位に落ちる見通しとなっている。

東短リサーチの加藤出社長は「日本経済低迷は日銀だけのせいではない。しかし、デフレが問題で、日銀が大胆な金融緩和を実施すれば日本経済は復活するという考えは間違っていたことが誰の目にも明らかになった」と指摘する。

日銀の目標は物価安定だけではない。金融システムの安定的な維持も大きな目標だ。この10年間には、新型コロナ危機などがあったが、日本の金融システムに問題は起きなかった。この点は市場でも評価が高いが、低金利ゆえの企業の新陳代謝低下や政府の債務膨張という間接的な悪影響を指摘する声も少なくない。

<味方が敵に>

黒田日銀の初期は成功したとの評価もある。「縮小均衡的なマインドが覆っていた日本(市場)のムードを明るくさせた功績は大きい」とシティグループ証券のチーフエコノミスト、村嶋帰一氏は分析する。金融市場が「味方」につき、金利低下・円安・株高が進み、企業業績押し上げや資産効果による消費促進をもたらした。

初期の政策の特徴は「わかりやすさ」だ。「2年で2%」といったシンプルな目標提示は海外投資家にも受けが良かった。中央銀行が非伝統的資産を購入するリスクを丁寧に説明した白川方明前総裁のやり方は、政策効果を減じてしまう結果になってしまったが、黒田総裁はメリットを強調。市場も素直に反応した。

しかし、黒田緩和の後半は、政策が複雑化し、市場との対話がうまくいかず、「味方」だった市場が「敵」に変わってしまった。黒田総裁が、金融緩和を当面維持するといくら言っても、市場はその言葉を信じず、投機筋は政策修正を見込んだ円債売りや円買いを繰り返している。

イールドカーブ・コントロール(YCC)は、事前に政策の先行きを示唆すると、市場が先に動き、事実上崩壊してしまうため、サプライズの政策変更となってしまう面もあるが、市場参加者が戸惑うのは「日銀ロジック」の突然の変容だ。

長期金利の許容変動幅の拡大は「事実上、利上げすること」と言明したのは、副総裁候補の内田真一理事だ。しかし、日銀は昨年12月、許容幅を拡大させた際、「利上げではない」と説明。市場は不信感を募らせた。

「日銀が敵とみなす投機筋も市場の一部」とパインブリッジ・インベストメンツの債券運用部長、松川忠氏は和解を促す。金融政策は金融市場を通じて効果を発揮する。対話を通じて「味方」につけることができれば、正常化において大きな力になる。

(伊賀大記 編集:石田仁志)

〔黒田緩和と市場〕過去の配信記事

壊れた「経済の体温計」、円債市場の流動性回復が急務

円安の株高効果が減退、残されたETFの「後始末」

思惑超える円安、新たなリスク顕在化 政策転換で変動も

過去10年の経済・マーケットの推移

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