- 2023/03/10 掲載
アングル:新興フィンテック、米IPO市場で厳しい評価
米国のIPO市場はこの1年余り、実績が極めて低調となっている。米連邦準備理事会(FRB)の急激な利上げが、市場のエネルギーとなるべき緩和マネーをことごとく吸い上げてしまったからだ。
もっとも、そうした地合いでもしっかりしたファンダメンタルズと着実な収入の伸びに支えられたスタートアップ企業は、あえてIPOに踏み切っている。
今年はこれまでに25社弱が株式を上場し、約140件のIPOが申請されている。
投資家の信頼感が改善すれば、より多くの企業が棚上げしていたIPO計画を年内に再開するだろう。ただ、フィンテック企業はそうした流れから疎外されるかもしれない。手元資金の目減りや赤字増大、既に先行上場した同業者の株価低迷といったさまざまな逆風に直面している、というのがその理由だ。
IPO調査会社ルネッサンス・キャピタルのシニアストラテジスト、マシュー・ケネディ氏は「IPO市場は、まだ上向き始めたばかりだ。IPOの動きが再開する局面で、フィンテックは最後に参入してくるグループに属するとわれわれはみている。彼らが今年いっぱいIPO市場に姿を見せなかったとしても、誰も驚きはしない」と述べた。
現段階で最も有力なIPO候補と目されるのは、デジタル専業銀行の先駆けとなったチャイムやストライプ、投資アプリのエイコーンズ、後払い決済サービスのクラーナなどだ。
<宴の後>
新型コロナウイルスのパンデミック期間に、フィンテック企業のアプリは人気が急上昇した。超低金利環境を追い風に提供できた手軽な金融サービスが、巣ごもり生活をしていた消費者を取り込んだためだ。
ペイパル・ホールディングスやブロックといったデジタル決済大手が、後払い決済サービスを拡充してミレニアル世代やZ世代の若者を引きつけた面もあった。
ところが、今は金利水準が世界金融危機以降で最も高くなり、信用力が相対的に低いサブプライム層の借り手向けエクスポージャーが非常に大きいフィンテック各社は、投資家から厳しい目を注がれ、高水準のバリュエーションを正当化するのが困難になっている。
EYアメリカズのIPOリーダー、レイチェル・ゲリング氏とIPOおよびSPAC資本市場アドバイザリーリーダー、マーク・シュワルツ氏は「フィンテック業界といっても、一律に語れない。成長と市場シェアを重視してきたフィンテックは、収益性に焦点を当てるようになった現在の市場に、うまく順応できないのではないか」と指摘した。
一方で両氏によると、それなりの事業規模と手元資金を有し、個別の情勢判断でIPOを進めるか、様子見するかを決定できるフィンテックも存在するという。
IPOが活発だった2021年、フィンテック業界では20社が合計109億3000万ドルを調達できたが、昨年は1社が1億4400万ドルを確保したに過ぎないことが、ディールロジックのデータから分かる。
コンサルティング会社PwCの米国IPO共同リーダー、デービッド・エスリッジ氏は「IPO市場が、閉ざされているわけではない。だが、バリュエーションと収益性がより注目されているのは間違いない」と語り、上場を目指す企業はコスト圧縮計画を通じて投資家の信頼を強化し、手元資金の目減りを抑える姿勢を明確にする必要があると付け加えた。
<上場組の苦戦>
既に上場したフィンテック企業はおおむね株主の期待に応えられず、じりじりと赤字が増え、株価低迷に苦しんでいる。
21年4月のナスダック上場時に評価額が860億ドルだった暗号資産(仮想通貨)交換所大手、コインベースは今、時価総額が約150億ドルしかない。
ネット証券のロビンフッドと後払い決済サービス大手アファーム・ホールディングスは、IPO以降にいずれも時価総額が200億ドル減っている。
高成長のフィンテック企業は以前、ハイテク企業と同じくバリュエーションの基準は株価売上高倍率(PSR)だった。だが、ハイテク株ブームが一段落するとともに、投資家がフィンテック企業を評価する際に用いるのは、収益が大事な役割を演じる金融機関の基準になっている、とルネッサンス・キャピタルのケネディ氏は解説した。
(Manya Saini記者)
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