- 2025/05/09 掲載
アングル:アジアの銀行、通貨上昇で資産運用事業に商機
台湾ドルを手始めにした先週からの中国、香港、マレーシア、シンガポール、韓国などの通貨の上昇は米ドルに対する警告であり、「アジアの逆危機」だとみなされている。
シンガポールの銀行最大手、DBSグループのタン・スー・シャン最高経営責任者(CEO)は8日、「私たちの顧客のほとんどはアジア人のため、自国通貨が伸びていれば資産運用商品の購買力が高まる」と語った。
シンガポールの金融大手、ユナイテッド・オーバーシーズ銀行(UOB)のレオン・ユン・チー最高財務責任者(CFO)は7日の決算説明会で、シンガポール・ドル高は世界有数のウェルスマネジメントの拠点となっているシンガポールに「富のプール」をもたらすとの見解を表明。「私たちは個人顧客向けのいくらかの資産管理で恩恵を受けたいと願っている」と訴えた。
トランプ米大統領が輸入関税の引き上げを発表した4月2日以降で、シンガポール・ドルは対ドルで4%を超える上昇となった。
投資家が米国の資産からアジアへ移動させている動きは、トランプ政権の通商政策を背景に、米ドルの安全な逃避先としての地位に疑問が高まっていることを裏付けている。
アナリストらは米ドルの下落を受け、アジアの資産運用顧客に人気が高い米債券の需要に陰りが出ることが見込まれており、現地通貨建て資産への投資に前向きになっている可能性があると指摘する。
アジアへの資産回帰は、世界有数の資産拠点としてのアジアの魅力をさらに高めるだろう。
不動産コンサルティング会社、ナイト・フランクが3月に発表した2025年版の報告書「ウェルス・レポート」は、25―28年に1000万ドルを超える資産を持つ富裕層に新たに加わる中の半分弱をアジアが占めるとの見通しを示した。
調査会社モーニングスターのシニアアナリスト、マイケル・マクダッド氏は、アジアの通貨相場の変動はまだ投資家心理に大きな影響を与えていないと指摘する。ただ、長期的には米国から資産が流出するのに伴い、為替動向が資産の移行に影響を与える可能性がある。
台湾では伝統的に個人の金融資産のかなりの部分を、ドル資産に大きく投資する生命保険商品に割り当てられている。台湾ドルが対ドルで2日間に8%も跳ね上がったことで、生保商品分野に激震が走った。
マクダッド氏は「台湾の生命保険会社が米債券への投資で魅力的なリターンを得るのに苦労すれば、代わりに銀行がより魅力的な資産運用のソリューションを提供する道が開けるかもしれない」との見方を示した。
ガベカル・ドラゴノミクスの中国担当副リサーチディレクター、クリストファー・ベドー氏は、中国の輸出企業が以前は人民元の下落を予想し、米ドル建て資産に相当な資金を振り向けてきたと解説。為替相場の見通しが変わり、金利差が縮小すれば、「人民元建ての中国の銀行口座に突然、かなりの金額の資金が流入する」可能性があるとし、「まだそこまでは行っていないが、多くの投資家の頭の片隅にはある」と指摘した。
為替市場のボラティリティが高まることで、地方銀行の外国為替サービスに対する需要も高まることが予想されるが、地元顧客の輸出が通貨高によって競争力を失うことが懸念される、と銀行関係者は述べた。
日本では、為替レートの変動リスクを軽減するため、通常のヘッジ手段以外にも目を向ける企業顧客を銀行が獲得するチャンスになるかもしれない。
三菱UFJ銀行トランザクションバンキング部の増田典昭氏は、日本企業はこれまでドル売り円買いという最もシンプルなヘッジ戦略を取ってきたが、米国の関税引き上げを受けて他のデリバティブも検討する動きを急いでいると指摘した。
増田氏は、為替レートが急激に変動した場合に企業収益は影響を受けるとして「企業が商品の流通経路や、値上げを余儀なくされるケースもあり得る」と述べた。
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