- 2025/10/03 掲載
アングル:法人開拓に資本で攻勢のメガ、証券市場リードの野村は「堅実路線」
[東京 3日 ロイター] - 金融政策の正常化と日本株高を追い風に、国内メガバンクが海外の金融機関との提携や出資を通じて証券子会社の法人向け(ホールセール)事業の強化を急いでいる。野村ホールディングスは自らの国際的な存在感を軸に、資本力に頼らない独自路線でこの分野での優位性を追求してきた。熾烈(しれつ)さを増す競争の中、メガバンクが潤沢な資金基盤を武器にどこまで野村に迫るかが焦点となっている。
<「地に足の着いた戦略」>
野村HDでホールセール部門を統括するクリストファー・ウィルコックス執行役はロイターとの単独インタビューで「競争は常に熾烈だが、特別に厳しい状況ではない」と語った。
同氏が繰り返し強調するのは「地に足の着いた戦略」だ。規律ある投資やリスク、コストの管理を徹底し、人材の入れ替えや顧客データの一元化を進めるなどして、組織の質を高めながら顧客対応の効率と精度を向上させている。資本規模は限られるが、市場ごとに評価の高いフランチャイズを築いてきたという点で、巨大なバランスシートを持つメガバンクとは資本投入の方向性が異なるという。
ウィルコックス氏は「野村は米国最大のブローカーディーラー」とした上で、「日本国内では国際的な評価の高さが十分に理解されていないが、少しずつ認識は変わってきている」と話す。CLO(ローン担保証券)やMBS(モーゲージ担保証券)など証券化商品の分野に強いとし、同氏によるとアジアのクレジット市場ではトップ3に位置する。
今後はクレジットの専門性を中東やアフリカに展開し、新設した米商業用不動産プラットフォームでは、数億ドル規模の収益増を見込む。また、日本に並ぶ成長市場と位置付けるインドでのさらなる事業展開も視野に入れるなど、既存の強みを生かす形で選択的に資本を投下しポートフォリオの多様化を進めるという。
ウィルコックス氏は、100年の歴史を持つ野村は国内上場企業の約6割にとって「ハウスバンク(幹事以上)」、日本での浸透度は米国における同国最大級の銀行JPモルガン・チェース以上だと自負する。
<攻勢を強めるメガバンク勢>
一方、「金利のある世界」の到来と日本株高を追い風に、メガバンク勢も海外金融機関との提携や出資を通じて法人向け事業の強化を急速に進めている。
三井住友フィナンシャルグループは、米ジェフリーズへの追加出資と日本株事業の統合を公表。みずほフィナンシャルグループは、英ロイヤル・バンク・オブ・スコットランドの北米の企業向け貸出債権の取得により獲得した顧客基盤に加えて、米グリーンヒルを買収してM&A(合併・買収)助言を補強しECM(株式資本市場)分野強化を打ち出した。三菱UFJフィナンシャル・グループは、リーマン・ショック時の出資を起点に米モルガン・スタンレーとの戦略的合弁会社を築き、協働分野を広げてきた。
こうした動きに共通するのは、銀行が潤沢な資金基盤を背景に、投資銀行業務のECMやM&A助言といった高収益分野で競争力を高めようとしている点だ。
日本のECM分野は長年、野村が市場をリードしており、みずほ証券の浜本吉郎社長はロイターとのインタビューで、野村と比べて足りないブランド力や販売力を強化し、「銀行とも連携して顧客企業の経営戦略に深く早く入り込むことで勝負していく」と述べている。
<野村の安定基盤、メガバンクは一体運営で対抗>
堅実路線の戦略により野村の収益の振れ幅は大幅に縮小し、2025年3月期のホールセール部門の税前利益は1663億円と過去15年で最高水準を達成した。ウィルコックス氏によると、今下期のM&AやECMのパイプラインも良好だ。
岡三証券の田村晋一シニアアナリストは、野村は「選択と集中を進めて強化してきたセールス&トレーディングを軸に、グローバル・マーケッツ全体で安定した収益基盤を築いてきた」と評価。カバレッジや販売力に裏打ちされたECMでは、他社を圧倒していると指摘する。
一方で、競争環境には変化も生じてきている。DCM(債券資本市場)は企業への貸出を行う銀行が強みを発揮し、M&Aではメガバンク勢と野村が互角に競り合う構図となってきている。
国内ECMリーグテーブルでは、25年度上期はみずほ証券が僅差ながら首位に立った。同社の浜本社長は、ECMとM&Aで5年後めどにトップを目指すとしている。また、SMBC日興証券とジェフリーズの日本株事業の協業では、100億円の効果が見込まれている。
メガバンク勢にとっては、今後「銀行と証券を一体運営し、野村に匹敵する収益モデルを構築できるかが焦点だ」と田村氏はみている。
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