- 2025/09/26 掲載
イーロン・マスクGrokが「大躍進」のワケ、なぜビジネスパーソンが「使いまくる」のか
バークリー音大提携校で2年間ジャズ/音楽理論を学ぶ。その後、通訳・翻訳者を経て24歳で大学入学。学部では国際関係、修士では英大学院で経済・政治・哲学を専攻。国内コンサルティング会社、シンガポールの日系通信社を経てLivit参画。興味分野は、メディアテクノロジーの進化と社会変化。2014〜15年頃テックメディアの立ち上げにあたり、ドローンの可能性を模索。ドローンレース・ドバイ世界大会に選手として出場。現在、音楽制作ソフト、3Dソフト、ゲームエンジンを活用した「リアルタイム・プロダクション」の実験的取り組みでVRコンテンツを制作、英語圏の視聴者向けに配信。YouTubeではVR動画単体で再生150万回以上を達成。最近購入したSony a7s3を活用した映像制作も実施中。
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Grokの利用者が「急増」、変わるAI勢力図
生成AI市場はChatGPT一強と思われがちだが、競合の躍進が加速しており、その勢力図は大きく変わりつつある。ベンチャーキャピタルのAndreessen Horowitz(a16z)が発表した最新レポート「Top 100 GenAI Consumer Apps」(2025年8月)によると、OpenAIのChatGPTが依然として圧倒的な首位を維持する一方、イーロン・マスク氏率いるxAIの「Grok」が急速に存在感を高めていることが明らかになった。
数字が物語る市場の実態は興味深い。ChatGPTは世界の生成AIトラフィックの48.36%を占め、年間470億回もの訪問数を記録した。
一方、グーグルのGeminiはWeb訪問数でChatGPTの約12%にとどまるものの、前年比156%という驚異的な成長率を達成。AIトラフィック全体の6.4%、年間16.6億回の訪問を獲得している。
特に注目されるのがGrokの急伸だ。2024年末にはモバイルアプリすら存在しなかった同サービスが、わずか半年余りで月間アクティブユーザー2000万人を突破。Webランキングで4位、モバイルで23位に躍進した。特に2025年7月9日のGrok 4リリース後は、モバイル利用者が前月比40%近く増加するという異例の成長を記録、生成AI市場における存在感を強めている。
その大きな要因となっているのが、精度の大幅な向上だ。Grok 4は、AI向け最難関テストの1つ「Humanity's Last Exam」において38.6%を獲得、また上位版のGrok 4 heavyは44.4%という高得点を達成した。これはグーグルGemini 2.5 Pro(Deep Research)の26.9%、OpenAIのo3の24.9%を大きく上回る成績となる。
サードパーティによるテストでも、Grok 4はかなり高評価を得ている。たとえば、AI評価企業ArtificialAnalysisによる総合指数ランキング(2025年9月18日)で、Grok 4は、GPT-5(High)に次ぐ2位につける。

DeepSeekの最新モデル(V3.1)だけでなく、Claude4.1 Opusを超えた点は特筆に値する。
Grokを支持しているのは、実は「ビジネスパーソン」
急成長の背景には、Grokならではの実用的な強みがある。最大の特徴は、X(旧Twitter)とWebからリアルタイムで情報を取得できる点だ。市場動向や業界トレンドを即座に分析する必要があるビジネスシーンで、この機能は圧倒的な価値を持つ。特に、複数の情報源を自動で収集・比較し、矛盾する内容があれば整合性を取りながら要約する仕組みが実用性を大きく高めている。たとえば、株価分析やマーケティングトレンドの把握において、このタイムリー性と洞察力は大きな武器となる。2025年8月時点で突然消えた「Deep Reseach」機能を踏襲する仕組みがデフォルトで組み込まれていることが示唆されている。
実際、日本語での検証でも、この仕組みが機能していることが確認できた。たとえば、「本日(2025年9月18日)の東証値上がり率ランキングを出してください」とタイムリーな質問をしたところ、Grokは、Kabutan、ヤフーファイナンス、日経新聞の情報を検索。その結果、Kabutanと日経新聞のデータが異なることを発見した。その後、松井証券のデータと照合し、最も信頼度が高いと思われるランキングを提示した。
回答スタイルのユニークさも人気の1つだ。ChatGPTが丁寧で中立的な応答を心がけるのに対し、Grokは「反抗的」で機知に富んだ回答を返すことで知られている。インターネットスラングやポップカルチャーへの理解も深く、Xとの連携により最新のミーム(ネット文化)まで把握している。この「自由奔放な」スタイルが、創造的な発想を求めるビジネスパーソンやクリエイターの支持を集める理由になっている。
ただし、プライバシー面では注意が必要だ。Grokの「Share」機能で共有した会話がグーグルやBingなどの検索エンジンにインデックスされることが報告されているためだ。実際、37万件以上のGrok会話が検索可能な状態で公開されており、中には医療情報やパスワードなどのセンシティブな内容も含まれていたという。ビジネス用途では、機密情報の管理に細心の注意を払う必要がある。
それでも、米国防総省がxAIと2億ドルの契約を結んだことは、Grokの実用性と信頼性を裏付けるもの。政府機関が採用するレベルの信頼性と性能を持つツールとして、今後さらなる企業導入が見込まれそうだ。 【次ページ】ChatGPTではできない、Grokの「すごすぎる」機能
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