- 2021/05/07 掲載
ツインバード工業、ワクチン運搬庫を積極供給=野水社長インタビュー
ツインバード工業は4月末までに、新型コロナウイルスワクチンを保管・運搬する超低温冷凍庫「ディープフリーザー」計1万台を完納した。国と武田薬品工業の注文に応じ、平時の10倍の生産体制を整えたという。7日までに時事通信のインタビューに応じた野水重明社長は、「全国の自治体からの追加需要に対応し、着実な接種に貢献していきたい」と語り、積極的に供給する意向を表明した。主なやりとりは次の通り。
―マイナス40度まで冷却できるディープフリーザー開発の経緯は。
20年以上前、先代社長が元シャープ(副社長)の佐々木正氏に技術指導を受け「家電事業もいいが、オンリーワンの技術に投資しないと、技術のないメーカーに未来はない」と冷凍機を紹介された。これに投資する英断を下し、ライセンスを米国のパートナーから買ったり、専用工場に投資したりして完成させた。
ただ、当初想定したコンシューマー向けとしてはなかなか受注できなかった。私が事業承継した年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)から宇宙冷蔵庫の依頼を受けるなど、国内外から引き合いがあり、1点1点対応したが、事業としては赤字の時期が長く続いた。
―1万台完納に当たっての思いは。
打診を受けたときは、できるわけがないと思ったが、すべての社員や地域の協力企業の皆さまに愚直なまでに取り組んでいただき、平時の10倍の生産量を確保して成し遂げた。歴史に残るぐらいすごいことだと改めて実感している。
―販売先拡大の見通しは。
4月16日に地元新潟県燕市が米ファイザー製ワクチンの高齢者向け接種で、解凍させずに病院まで運ぶ独自のコールドチェーンにこれを使うと発表した。花角英世知事も翌週の全国知事会で県が正式採用すると発言した。三条市などからも引き合いがあり、一つのピークを迎えている。
次のピークはモデルナ製ワクチンの認可だ。5月にも認可されるとの報道もあるが、(モデルナワクチンの輸入供給を担う)武田薬品工業の品質試験にパスした運搬冷凍庫は、ツインバードのディープフリーザーしかない。全国の自治体からの追加需要に対応し、着実な接種に貢献していきたい。
―家電は大手が苦戦する中、ツインバードのような中堅の奮闘が目立つ。
近年の外部環境は、少子高齢化、コロナ禍のデジタル化や働き方改革が進み、ライフスタイルが多様化している。これらの変化に対応できるメーカーのみがユーザー支持を得られると考える。超大手は、あらゆる技術を駆使してユーザーの苦悩を解決することでマス・マーケットを占有しているが、「機能別の○×方式」の表示は価格競争に陥るリスクもある。
一方、ツインバードはライフスタイルにこだわりを持つ単独少人数世帯をターゲットとし、「感動と快適」の体験価値や情緒価値を提供する。例えば、全自動コーヒーメーカー。豆の風味を損なわない低速臼式フラットミルには燕三条の職人の技術を集結させている。その機能は絶対、他社に負けちゃいけない。でも一個勝てればいい。そういう機能を高いデザインと融合させていく。
―4月の日米首脳会談で台湾問題が話題となるなど、米中対立が深刻化している。中国の子会社からの供給のリスクをどう受け止めるか。
燕三条地域のモノづくりの経営資源を生かして、こだわりの商品開発を推進していくためにも、この数年間で国内製造回帰を進めている。これを加速しながら中国の製造リスクをヘッジしていく。
―採用、人材育成についての考えは。
外部環境の変化の下、お客さまのニーズを捉えてビジネスを展開するには、人材育成が最重要だ。企業の経営資源は、従来の「人、モノ、金」から「人、人、人」の時代になっている。事業承継して以来、大学卒あるいは大学院修了の学生・院生を採用していたが、2期前から地元の高校生も採用している。働きがいのある職場を構築し社員幸福度を高めていきたい。
―野水社長にとっての会社とは。
人々を幸せにしていく限りは、いろんなことにチャレンジしていい。そういう意味で社長は目指したい会社をデザインできる特権がある。社長になりたての頃、先輩経営者から「一回限りの人生なんだから、経営者を心から楽しめ」と助言を頂いたのを覚えている。今でも「大変だなあ」と思うときは、「修行、修行」と自分に言い聞かせている。
〔写真説明〕時事通信のインタビューに答える野水重明ツインバード工業社長=4月27日、新潟県燕市 〔写真説明〕超低温冷凍庫「ディープフリーザー」について説明する野水重明ツインバード工業社長=4月27日、新潟県燕市
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