- 2021/11/04 掲載
情報BOX:FRBの緩和縮小、仕組みとBSへの影響
FOMCがこの措置を決めた理由と、将来のバランスシートに与える意味をまとめた。
◎資産購入プログラムとは
連邦準備制度理事会(FRB)は新型コロナウイルスのパンデミックが始まって以来、量的緩和(QE)という手法で計数兆ドルの米国債とモーゲージ担保証券(MBS)を購入してきた。長期金利を引き下げ、金融環境を緩和して需要を押し上げるのが狙い。2007―09年の金融危機および景気後退に際しても、同様の手法が用いられた。
現在の買い入れ額は米国債が月額800億ドル、MBSが月額400億ドル。このプログラム開始以来、FRBのバランスシートは4兆4000億ドルから8兆6000億ドルに膨らみ、うち米国債とMBSが8兆ドル分を占めている。
◎テーパリングを行う理由
米経済の成長率は今年、1980年代以来で最も高くなる見通しで、こうした異例の措置はもはや不要になった。維持すればむしろ有害になる恐れがある。例えば住宅ローン金利の低下は、住宅価格の高騰をあおった。現在経済を阻害しているのは主に供給の問題であり、債券購入が直接影響する需要の方は好調で、陰りが見られない。
マクロポリシー・パースペクティブのジュリア・コロナド社長はテーパリング開始の理由について「経済が非常に強いからだ。経済は自立できるようになっている」と述べた。
◎テーパリングの仕組み
FOMCは、11月と12月に米国債の購入額を月額100億ドル、MBSを同50億ドル、それぞれ減らすと発表した。その後も同様のペースを続ける見通し。つまり来年6月までに債券購入を完全に終わらせることになる。オックスフォード・エコノミクスの首席米エコノミスト、キャシー・ボスジャンチク氏は、FRBが買い入れを一度にやめないのは「金融市場を混乱させ、(市場)金利を本来の水準以上に押し上げるのを防ぐため」だと説明した。
FOMC幹部らは、必要ならば買い入れペースを上げたり下げたりする可能性もあると述べている。また、8カ月間というテーパリングのペースは前回よりも大幅に速い。これは、FRBが米経済の急回復に自信を持っていることの表れであると同時に、インフレ率が高止まりした場合に備え、来年から利上げを始められるようにしておく意向もありそうだ。
◎次のバランスシート政策は
来年6月までにFRBのバランスシートは9兆ドル強になり、うち約8兆4000億ドルは、10年以上前の金融危機から繰り返されてきたQEで購入した債券になる。問題は、その後どうするかだ。
FRBは前回、主要政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の引き上げ開始から2年後に、満期を迎えた債券を補充しない手法によってバランスシートを縮小し始めた。専門家によると、FRBは今回も忍耐強く、受動的な姿勢で臨みそうだ。
特に2018─19年にバランスシートを縮小し過ぎた経験があるだけに、今回は慎重を期すだろう。当時はFRBの流動性供給を銀行の準備需要が上回った結果、短期市場金利が波乱。FRBは市場機能を改善するため、バランスシートを再び拡大するというUターンを余儀なくされた。
◎とは言えバランスシートは縮小するのか
そうとも限らない。前回、FRBは未検証の政策手段であるバランスシートの拡大に居心地の悪さを感じていたため、その縮小に焦点を絞った。しかしマクロポリシー・パースペクティブのコロナド氏によると、金融危機後の大不況以降、2度にわたってバランスシートを主要な政策手段として用いた今、「高官らは、バランスシートが今後も政策手段の一つになり、次の景気後退でも動員するだろうと考えるようになった」
パウエルFRB議長も既に言及している1つの選択肢は、バランスシートを一定水準に維持し、景気拡大に伴って国内総生産(GDP)に占めるバランスシートの比率が縮小するのを待つ、というものだ。現在、名目GDPに対するバランスシートの比率は約36%で、パンデミック前からほぼ倍増している。
ただ、あまりに大きいバランスシートを恒久化すると、次の景気後退が訪れた時に効力が薄れ、FRBは再び縮小を迫られるかもしれない、との慎重論もある。ドイツ銀行の首席米国エコノミスト、マシュー・ルゼッティ氏は「どのような見方をしようと、この数字は大きい」とし、時間をかけて「正常化」を考える必要があると指摘。「次回、さらにQEを行う場合に大きな余裕ができるという意味で、一定の利点があると考える」と述べた。
◎FRB幹部の発言
今のところ、はっきりとした意見を表明している幹部はほとんどいない。ウォラーFRB理事は先月、前回と同じく満期を迎えた債券を補充しないことを通じて今後数年間にバランスシートを縮小すべきだと述べた。カンザスシティー地区連銀のジョージ総裁は9月、大きなバランスシートを持続することで長期金利を低位に維持する一方、それによる刺激効果をFF金利の引き上げで相殺する案を示した。しかしジョージ氏は、この方法では逆イールドを引き起こすリスクが生じるとも述べた。こちらはバランスシート縮小論であり、FRBが今後議論を深めていく上でのジレンマを見事に映し出している。
関連コンテンツ
PR
PR
PR