- 2022/01/12 掲載
東芝は株主と経営陣の利害不一致、分割「結論ありき」=企業年金連合会
企業年金連合会は12兆円超の運用資産を持つ国内有数の年金基金で、東芝の株主でもある。
北後氏は、東芝が会社分割を決めた過程を「結論ありきの印象」と問題視。同社の企業統治や経営陣の説明責任を巡る問題は、3社に分割しても解決しないと指摘した。その上で、プライベートエクイティ(PE)ファンドが主導する形の株式非公開化を望む株主はいるだろうと語った。
主なやり取りは以下の通り。
――現在の東芝のガバナンス(統治)体制をどう評価するか。
「コーポレートガバナンスは株主と経営者の利害の不一致を解決し、企業価値を最大化する仕組みだが、現在の東芝は利害の不一致が顕在化している。特に社外取締役は、株主の意見や提言を取締役会の意思決定に反映させるよう積極的に関与しているように見えない。企業価値の最大化に資する経営陣を選任しているようにも見えない」
「主要株主との対話を通じて選任されたとされる4人の外国籍の取締役についても、(2020年の株主総会で経産省と一体となって株主に不当な圧力をかけたとされる)圧力問題を防止することができなかった。総会が公正に運営されていたか調べるよう求めた株主提案などにも反対した」
――東芝が取るべき対応は。
「株主に代わって経営を監視し、経営者を規律づけることのできる取締役を選任することが、最も正攻法のガバナンス改善策だ。そして、株主の信頼を得た取締役会が、企業価値の最大化を図れる経営陣に刷新し、新たなCEO(最高経営責任者)を選任することが重要だ」
「会社が提案した取締役選任案の一部が否決され、創業家主導で一度解任された前CEOが復帰したLIXILや、株主の米運用会社バリューアクト・キャピタルの幹部を社外取締役として迎え、経営改革を進めたオリンパスとJSRが参考になる。いずれも企業価値が大幅に向上した」
――昨年11月、東芝は会社を3つに分割する計画を発表した。
「戦略委員会が分割案に決めた過程を説明しているが、結果ありきという印象を受ける。非公開化について真摯(しんし)な提案があれば検討すると言いつつ、PEファンドには経営陣とミーティングする機会すら提供せず、価格を含む正式な提案の機会を設けなかったと理解している」
「少額出資の提案についても既存株主に意見を聞くことなく、『既存株主の支持を得づらい』という理由で拒んでいる。ガバナンスの問題や、その結果生じる経営陣の説明責任の問題は、会社を分割したからといって解決されない。各事業の経営を誰に任せるのかが一番の問題だ」
――一部株主が、非上場化の提案を正式に募るよう東芝に要請している。
「日本の会社は株主と経営者の利害不一致によるコストが大きい。PEファンドによる非公開化を通じてこの不一致を解消し、抜本的に経営を改革して事業を改善する余地は十分にある。(米投資ファンドの)KKRが2014年に買収し、21年に上場したPHCホールディングス(旧パナソニックヘルスケア)は積極的な企業買収や事業ポートフォリオの転換など、上場会社では難しかった改革で企業価値を向上させた」
「東芝の企業価値向上のため、PEファンド主導の非公開化を求める株主はいると思う。株主の支持を得られるかどうかは株主総会で諮ってから決めるべきだ」
――日本企業全体に共通するガバナンスの課題はあるか。
「日本の上場企業は、政策保有の安定株主や大手金融機関傘下の機関投資家が経営陣の意向に反するような議決権行使をしてこなかったため、経営者を監督・けん制する機能がなかった。企業価値向上を求める株主の声が取締役会に反映され、経営者が監督を受けるという仕組みを、単なる形ではなく実質的に担保する株主のための独立取締役がきわめて大事になると考える」
(山崎牧子、取材協力:新田裕貴、編集:久保信博)
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