- 2022/02/16 掲載
東大とNIMS、スーパーコンピュータ「富岳」による大規模物性データの自動創出に成功
福島 鉄也(東京大学物性研究所 データ統合型材料物性研究部門 特任准教授/Beyond AI研究推進機構)
赤井 久純(東京大学物性研究所 附属計算物質科学研究センター 特任研究員)
知京 豊裕(物質・材料研究機構 (NIMS) 統合型材料開発・情報基盤部門(MaDIS) デバイス材料設計グループ 特命研究員)
木野 日織(物質・材料研究機構 (NIMS) 統合型材料開発・情報基盤部門(MaDIS) デバイス材料設計グループ 主任研究員)
2.発表のポイント:
◆スーパーコンピュータ「富岳」を利活用することにより、約15万個に及ぶ不規則系磁性材料(4元高エントロピー合金)の大規模物性データベースを構築しました。
◆「富岳」上で自動的に物性データを創出するソフトウェアを開発し、構築したデータベースに機械学習を適用することで、4元高エントロピー合金の電気抵抗法則を発見しました。
◆本研究によって創出された膨大なデータは磁性材料開発にとって利用価値が非常に高いものであり、機械学習を用いることで材料開発速度を飛躍的に短縮されることが期待されます。
3.発表概要:
東京大学物性研究所の福島鉄也特任准教授(兼 Beyond AI研究推進機構)、赤井久純特任研究員は、物質・材料研究機構の知京豊裕特命研究員、木野日織主任研究員と共同で、スーパーコンピュータ「富岳」(注1)上で膨大な数の不規則系(注2)磁性材料を自動網羅的に探索し、物性データを創出可能なソフトウェアの開発を行いました。「富岳」と本ソフトウェアを用いることで、約15万個という数の4元高エントロピー合金(注3)に対して全電子・電子状態計算(注4)を適用することにより、大規模物性データベースを構築することに成功しました。本研究で構築したデータベースは不規則性磁性材料における電子状態、磁気特性、伝導特性を含んでおり、世界で類を見ない非常に利用価値の高いものとなっています。さらに、機械学習を適用することにより、磁気特性を決定する支配因子や電気抵抗率の法則性の発見にも成功しています。
本研究では、「富岳」の計算能力を駆使することで、膨大な不規則性磁性材料の物性データを短時間で創出可能であることを実証しました。マテリアル・デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する上で、基盤となる研究であり、物性ビッグデータ実現の道筋を見いだしたとも言えます。
本成果は米国物理学会誌Physical Review Materialsの2月17日(現地時間)付でオンライン掲載される予定です。
(注1)スーパーコンピュータ「富岳」:スーパーコンピュータ「京」の後継機として理化学研究所に設置された計算機。令和 2 年 6月から令和3 年11月にかけてスパコンランキング 4部門で1位を 4期連続で獲得するな ど、世界トップの性能を持つ。令和 3 年 3 月 9 日に本格運用開始。
(注2)不規則系:理想結晶では原子が 3 次元方向に対して規則的に並んでおり、このような系を規則系と呼ぶ。逆に、欠陥を含む系や合金等は周期性が壊れており不規則系と呼ばれる。不規則系では並進対称性が存在しないため、ブロッホの定理が満たされない。その結果、一般的な電子状態計算手法で不規則系を取り扱う際には、スーパーセル法と呼ばれる近似的手法を用いることになり、計算コストが非常に高くなってしまう。
(注3)電子状態計算:経験的パラメーターを用いることなく、物質の電子状態や物理・化学特性を精査する手法である。汎用的であり、あらゆる物質に対して適用することができる。内核電子を直接取り扱わない擬ポテンシャル法と比較して、全電子計算手法は内核電子と価電子を計算対象とするため高精度に電子状態を計算することが可能である。
(注4)高エントロピー合金:従来の合金とは異なり、多種の金属元素が等モル比含まれている合金である。混合エントロピーが高く固溶体を形成が用意であり、構造材料分野で積極的に研究されている。組成元素のカクテル効果により磁性材料への期待も大きい。
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