- 2022/03/04 掲載
アングル:70年型スタグフレーションの足音、金融街は戦略見直し
スタグフレーションは、インフレ率の上昇と景気減速が同時進行する現象だ。
主要なコモディティー輸出国であるロシアへの制裁により、北海ブレント価格は過去1年間に約80%上昇して1バレル=116ドル前後となった。エネルギーコストの上昇が消費者物価を押し上げ、世界の経済成長を圧迫するとの懸念が高まっている。
同時に、ウクライナ危機で市場が不安定化したことから、FRBの利上げ幅を巡る見通しが以前より不透明になった。わずか数週間前、市場はFRBが来年2月までに政策金利を0%から1.75%以上に引き上げると予想していたが、今では到達点が1.5%に変化した。
BoFAグローバル・リサーチの調査によると、1年以内にスタグフレーションが訪れると予想するファンドマネジャーの割合は30%と、先月の22%から増えている。
ナビーンの最高投資責任者(グローバル債券担当)、アンダーズ・パーソン氏は「1970年代型のスタグフレーションにはならない、という当社の基本シナリオは変わらないが、その地点に近づいてはいる」と語った。
スタグフレーションの脅威は、投資家にとってとりわけ悩ましい。幅広い資産クラスに悪影響を及ぼし、逃避場所がほとんどないからだ。MSCIのリスク・マネジメント・ソリューション調査チームが行ったストレステスト・モデルによると、石油価格の上昇がスタグフレーションを引き起こすと、世界の株式、債券、不動産に分散化したポートフォリオの価値は13%下落しかねない。
最後に経験した本格的なスタグフレーションが始まったのは1960年代終盤だった。当時、石油価格は急騰、失業率が上がり、金融緩和に後押しされてコア消費者物価指数(CPI)インフレ率は1980年に13.5%を記録。FRBはこの年、政策金利を20%近くに引き上げることになった。
ゴールドマン・サックスによると、過去60年間、スタグフレーションに見舞われた四半期には米S&P500種総合株価指数が中央値で2.1%下落している。それ以外の四半期の中央値は2.5%の上昇だ。
最近の市場変動によって債券価格が大幅下落したのを受け、パーソン氏は高利回り債をポジションに組み入れることを検討している。将来、スタグフレーションが原因で市場が下落する場合には良いヘッジになるかもしれないと考えているからだ。
エネルギーの輸入依存度が高い欧州の方がスタグフレーションの打撃は大きいとの懸念から、一部の投資家は欧州の資産を徐々に減らすかもしれないと、ウェルズ・ファーゴ・インベストメント・インスティトュートのグローバル市場戦略責任者、ポール・クリストファー氏は言う。米国株の割高感が増した昨年末には、米国資産から欧州資産に資金を移動させる取引が人気だった。
<コモディティーに追い風>
クリストファー氏は、欧州のスタグフレーションは米国が1970年代に経験したような、低成長と高インフレが長期間続く形になりそうだとみている。
「欧州では、エネルギー価格が過度に上昇すれば工場が閉鎖を余儀なくされるだろう」という。
ナビーンのパーソン氏は、北海ブレントが1バレル=120ドルを超えると欧州連合(EU)の成長率は2ポイント押し下げられると推計する。米国はエネルギーの自給率が高く、税率が低いことなどから、押し下げ幅が1ポイントにとどまりそうだという。
2月初め以来、米国に特化した株式ファンドには445億ドルが流入した一方、世界株式ファンドからは20億ドルが流出した。米国信託投資協会(ICI)のデータで明らかになった。
コモディティーに特化したファンドには年初から77億ドルが流入。1週間の流入額が2020年8月以来で最高となった週もあった。
この間、資源価格は急上昇し、オーストラリア、インドネシア、マレーシアなど資源輸出国に関連する資産に追い風が吹いた。
アドバイザー・アセット・マネジメントのクリフ・コルソ最高投資責任者は「長らく目にしなかった本格的なコモディティーの投資機会が押し寄せている」と語る。
米国は労働市場が堅調で、エネルギー自給率も高いため、インフレ率の上昇に直面しても他国に比べて株式が魅力を保つはずだと、アライの首席市場・債券ストラテジスト、リンゼー・ベル氏は語る。特に有配当企業の魅力は高いという。
ベル氏は「(米国の)消費者は依然として元気で、今のところ高インフレを吸収することができている」と述べた。
(David Randall記者)
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