- 2022/03/08 掲載
情報BOX:ロシア、SWIFT代替手段に限界 決済コスト上昇不可避
ロシアは理屈の上ではSWIFTを別の手段に置き換えることができる。しかし専門家によると、いかなる代替手段であっても、ロシア企業にとってはコストとリスクが増大する。少なくとも短期的にはロシアは輸出入が落ち込み、打撃を被るという。
SWIFTは極めて安全性の高い、銀行間のメッセージ送受信システムで、国境を越えた迅速な決済を可能にする。
ロシアは2015年からSWIFTの理事会メンバー。300余りの銀行が国内外の銀行との主要な通信手段としてSWIFTを利用し、ユーザーとしては最上位に入る。
ロシアにとっての代替的決済手段と、その利用が容易ではない理由をまとめた。
<ロシアの「SPFS」>
ロシアの銀行は、ロシア中央銀行が開発した独自のメッセージングシステム「SPFS」に移行する可能性がある。昨年、国内銀行間のメッセージ送受信はSPFSに簡単に移ることができるとの見方を中銀が示したと報じられた。
ロシア中銀の広報担当者のコメントは得られていない。
しかし、ロシア中銀が「SWIFTとほぼ同等」と評するSPFSには幾つも制約がある。SWIFTが毎日、24時間稼働しているのに対し、SPFSは平日の営業時間内しか稼働していない。また、SPFSは送受信可能なメッセージのサイズに制限があり、複雑な取引に対応できない恐れがある。
SPFSはシステムの国際的な接続性も欠いている。
モルガン・スタンレーのアナリストチームは先ごろ、「SPFSは今のところ国際的に運用が可能な国がアルメニア、トルコ、ウズベキスタン、カザフスタンといった国々に限られている」と指摘した。
ロシアの銀行は理論上、SPFSのメッセージ機能を使って、同ネットワークに加盟している国の銀行に決済情報を送ることができる。ラフバラー大学のアリステア・ミルン教授(金融経済学)によると、「(SPFS経由でロシアの銀行からのメッセージを受け取った)銀行が、SWIFTを使って国際的な銀行システムへ送金することは可能だ」。
しかし、こうした経路を駆使する取引が突然、急増すれば、海外の規制当局の注意を引き、ロシアの「非友好国」の取引銀行はこうした活動の継続をためらうかもしれない。
SWIFTに関する著作がある、マンチェスター大学のマルコス・ザカリアディス教授は、規制当局が行動を起こさなくても、こうした銀行は、制裁を骨抜きにすると見られる活動に関与することに警戒心を強めている欧米の銀行から、すぐに排除されるだろうと述べた。
<中国の「CIPS」>
SWIFTが利用できなくなった場合のもう一つの対応策として、中国独自の国際銀行間決済システム「CIPS」に接続することも考えられる。しかしCIPSは人民元建て決済にしか利用できない。
モルガン・スタンレーの分析では、国際決済のうち人民元が占める比率はわずか1.9%と、米ドルの約40%に比べてずっと小さく、CIPSは国境を越えた貿易決済手段としての有用性が限られる。
また、CIPS自体がSWIFTのネットワークに依存しており、CIPSを使えばSWIFTを併用した形になることから、ロシアをSWIFTから排除した制裁措置に違反したとみなされる可能性もあるという。
<当事者同士のメッセージ交換>
ロシアの銀行にとってより適切な代替手段は、ロシア製品を輸入した業者から代金を受け取り、ロシアの輸出業者に支払いを行う海外の取引銀行との間で、電話やファックス、メッセージングアプリを使った特別の送受信システムを構築することだ。
この問題に詳しい元SWIFT幹部の話では、イランが核開発計画に絡む制裁でSWIFTから排除された際に、外国のある金融機関がこうしたシステムを作ったことがあるという。
このシステムは基本的に少人数で構成されたチームが1回の取引につき2枚のファックス送信と2回の電話を掛ける必要があった。
しかし、こうしたシステムは有効性があるとしても、エラーが起こりやすく、セキュリティー上の課題もある。SWIFTは銀行システムに直接接続されているが、ファックスやワッツアップでやり取りされるメッセージは手作業でデータが転送される可能性がある。
エラーが発生し、それを回避するために余分なチェックが必要になれば、コストが上昇し、規模の小さい取引は見合わなくなると専門家は見ている。
ザカリアディス氏は「SWIFTから排除された制裁措置の回避は簡単ではない」と述べた。
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