• 2022/03/15 掲載

アングル:欧州の主要銀行、いまだに続く「男性優位」文化

ロイター

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[チューリヒ/フランクフルト 8日 ロイター] - 欧州の銀行で女性がトップに就任する例は、依然としてまれだ。資産規模ベースでの上位25行ではこの2年間で、最高経営責任者(CEO)及び会長ポストで22件の交代が見られた(発表済みの予定を含む)。

新たに就任する22人のうち、21人が男性だ。

CEOが女性なのは英ナットウェスト1行だけだ。一方、スペインのサンタンデールとオランダのラボバンクでは、女性が会長を務めている。

ロイターが3月8日の「国際女性デー」に行った調査は銀行業界の現状を切り取っただけにすぎないが、それでも、銀行が経営トップレベルにおけるジェンダー平等を達成する道のりがいかに遠いかを表している。

さらに、欧州が企業経営幹部の多様性という点で前進しつつある一方で、競争優位が得られそうな領域にもかかわらず米ウォール街に見劣りしていることが分かる。

変革を阻む最もやっかいな障害を支えているのは、長時間残業をいとわない部下を優遇する上司といった、長年にわたり男性に牛耳られてきた組織につきものの労働文化だ。経営幹部、取締役、投資家、研究者など20名以上の専門家へのインタビューを通じて判明した。

欧州の銀行では幹部チームとしてCEO配下に10―20人の上級管理者を配置するのが一般的だが、ここまで対象を広げれば、多様性の水準は向上している。

調査では、こうした幹部チームのうち、約25%を女性が占めることが分かった。とはいえ、JPモルガンやシティグループ などグローバルに事業を展開する米国の大手8行では、この比率は平均30%であり、ここでも欧州は後れをとっている。

欧州の銀行では、女性が就く幹部ポストとして最も一般的なのは、「最高人事責任者」だった。業界の専門家によれば、このポストでは、将来的なCEOや会長への就任につながるようなレベルの職務経験を得られないのが普通だという。

<急に静まりかえった会議室>

シティグループの欧州事業を率いるクリスティーヌ・ブラデン氏は、スタッフにジェンダー間の現実の力関係を理解させるためには研修が非常に重要だと考えている。

「欧州・中東・アフリカ部門に異動した時、私は経営幹部に任命された最初の女性だった。皆に会えるのを楽しみに最初の会議に向かった時のことを覚えている」と彼女は語った。

だが「会議室は、それまで楽しそうなおしゃべりに満たされていたのに、私が入ったら突然静まりかえった」という。

「人間関係をどう育んでいくか、男性と女性では違いがある。女性が別の女性と親しい関係を築きたいと思ったら、何らかの形で相手をほめるだろう」とブラデン氏は説明する。「男性の場合は、お互いに冷やかし合う。ジェンダーを超えて仕事の上での親密さを築くには、相互の信頼構築が必要だ」

シティのジェーン・フレイザーCEOは1年前、ウォール街の銀行で初の女性CEO誕生という歴史を作った。幼い子どもを育てていたキャリアの初めの頃にフレキシブルな働き方を身につけたことが、トップに登りつめる要因になったと考えている。

「仕事はパートタイムだったけれど、子どもが幼い頃に一緒に過ごすことができたのは、私にとってとても大切な時期だった」。シティの新CEOに任命された直後のカンファレンスで、コンサルタント会社マッキンゼーで働いた頃を振り返りつつ、フレイザー氏はそう語った。

<取締役会では追い風も>

銀行の取締役会では、男女の比率は平等に近づいている。1つには、経営を監督する役割を担うだけに、政治家や投資家によるガバナンス監視において最大の注目を浴びているからだ。欧州・米国いずれも、取締役会における女性の比率は約37%となっている。

インタビューに応じた業界関係者の中には、経営幹部レベルでの進捗が遅れている理由の1つとして、取締役会における多様性の方が優先されていることを指摘する声もある。

幹部人材の発掘を手掛けるスイスのコンサルタント会社エゴン・ゼンダーで金融サービス・法律部門を率いるシモーネ・ステブラー氏は「取締役会レベルにもっと多くの女性を求める圧力によって、女性にとってはチャンスが訪れたと思う」と語る。

「しかしそれは同時に、女性に管理職の職務を離れ、場合によっては経営幹部のポストを経験せずに取締役会に進むことを求められるという意味でもあった」

<企業文化のどこが問題か>

インタビューに応じた多くの人々の言葉によれば、政府側は銀行の企業文化を変革しようと後押ししているものの、欧州の銀行部門では依然として硬直した労働時間が業績評価の基盤となっており、多くの場合、これが男性を優位にしている。

また、同じ学校出身の男性が互いに昇進を助け合うネットワークは今もなお健在だとの指摘もある。

「毎年、多くの有能な女性が大学などを卒業して入社するが、10─20年後でも活躍している人はとても少ない」と語るのは、欧州中央銀行(ECB)の元常任理事で、現在は独コメルツバンクの監査役を務めるゲルトルード・トゥンペルグゲレル氏。

企業のDNAを全面的に見直すには長い期間を要すると指摘する声もある。幹部職の候補者リストに多様性をもたらすには何年もかかるかもしれない。将来の幹部となる経験豊富な中間管理職のレベルでの多様性が必要だからだ。

ロンドン拠点の資産運用会社ポーラーキャピタルのギャビン・ロチュセンCEOは、「取締役会のレベルでジェンダー多様性を達成するのは最も簡単だ。組織において上から2番目・3番目の階層になると、話はもっと厄介になる」と語る。

元BNPパリバ幹部のクレア・ゴッディング氏は、現在ベルギーで金融セクターの業界団体フェベルフィンに所属し多様性の実現に力を注いでいるが、経営幹部の中にはこの課題の大きさを理解していない者もいると言う。

「ほとんどの銀行では、組織内の『ガラスの天井』が1枚ではなく、2枚、3枚と重なっていることに気づいている」と同氏は言う。「つまり、中間管理職の真ん中あたりで女性の姿が消えてしまうのだ」

<「内部でも感じられる変化」>

伊大手ウニクレディトのアンドレア・オーセルCEOはロイターに対し、銀行はマインドセットを変える必要があると語った。

「私たちはこのコミットメントに真剣に取り組んでいる。意味のある進歩は、クオータ制ではなく、私たちのビジネス内部の文化において根本的な変革を実現することだと認識している」と同氏は言う。

ボッコーニ大学のエレナ・カルレッティ教授(金融論)は、2019年にウニクレディトの取締役に就任した。意欲さえあれば有意義な変革はすぐにでも可能だ、と同教授は語り、イタリア第2の規模の銀行であるウニクレディトにおいて、昨年就任したオーセルCEOとピエトロ・カルロ・パドゥアン会長のもとでの進捗を例として挙げる。

ロイターが調査した25行の中で、2019年以降、上級幹部レベルで最も大きな進捗が見られたのがウニクレディトであり、女性の比率は4%から40%へと伸びた。

カルレッティ教授によれば、CEO直属の幹部のうち、前任者の時代には女性が1人しかいなかったのに、現在はほぼ半数を占めているという。

「この変化は劇的で、銀行の中にいてもそれが感じられる」

(Brenna Hughes Neghaiwi記者、Tom Sims記者 翻訳:エァクレーレン)

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