- 2022/03/16 掲載
アングル:マツダが米国生産に再挑戦、「失地回復」へトヨタと合弁
<従業員研修、コロナで計画変更>
今年1月、南部アラバマ州ハンツビルの新工場でマツダの米国生産再開1号車がラインを降りた。マツダは新型スポーツ多目的車(SUV)「CX─50」を北米専用車として開発。トヨタとノウハウを持ち寄った同工場で生産し、マツダの世界販売の約23%を占める米国市場へ送り出す。
米国でブランド力の強化に苦戦していたマツダは2012年、リーマン危機による販売不振が追い打ちをかけ現地生産から撤退した。輸出による販売は続けたが、自動車メーカーにとって米国は中国と並ぶ最重要市場。マツダは失地を挽回すべく16年から販売網を再構築し、ブランド改革を進めた。現地生産の再開を目指し、18年には前の年に資本提携したトヨタと合弁工場を建設することを決めた。
トヨタと組んだメリットは大きかった、と工場を統括するマツダ・トヨタ・マニュファクチャリングUSA社長の相原真志執行役員は語る。その1つが、一部の工場でトヨタが採用している部品搬入方法を取り入れたこと。費用や時間の無駄を減らすため、同じ敷地内でサプライヤーが生産した部品を台車に載せ、屋根や横壁のある通路を通ってマツダ側の生産ラインに搬入できるようにした。同社の他の工場ではトラックで部品を搬入している。
米国でどう人材を採用し、育成するかといった工場運営のノウハウもトヨタの経験に学ぶことがあったという。日本の両社の工場で実施する予定だった立ち上げ前の従業員研修は、新型コロナウイルスの世界的流行で途中から米国内で行うことを余儀なくされたが、トヨタが工場で使っている英語のマニュアルなども役立った。
「トヨタは北米で今までいくつも工場を手掛けている。その経験をわれわれも勉強できたのは大きい」と、相原氏は言う。「互いの工場のラインを見ることによって、コストだけでなく、品質、生産性についても学ぶことはいっぱいある」
<両社の良いとこ取り>
相原氏は、トヨタもマツダとの合弁を通して他社のやり方を学ぼうとしていたようだと推察する。合弁工場は折半出資だが、トップには規模のより大きいトヨタではなく、マツダの相原氏が就いた。「豊田(章男)社長はトヨタのやり方を変えようとしている。その試みの1つという面もあるのかもしれない。 学べるところがあるならマツダからでも学べということなのだろう」と、相原氏は話す。
実際、新工場には両社それぞれが最善と考える生産技術や方法を取り入れた。生産方式の違いは全体の10%ほどだったが、「どちら(の方法)がベストかを1つ1つ協議し、両方の技術を持ち寄り、ハイブリッドにした」と、相原氏は説明する。
マツダは同工場からCX─50を、トヨタはSUV「カローラ・クロス」を北米市場へ出荷する。鋼板から車体やドアなどを作るプレス工程、最後の検査工程はラインを共有している。電気自動車も生産可能という。
年間の生産能力はマツダとトヨタ各15万台の合計30万台。一般的には徐々に生産能力を増強するが、30万台という規模を一度で立ち上げたことは両社とも経験がない。マツダは同工場で作るCX─50を主軸に、米国販売を25年度に45万台と20年度から50%以上拡大することを目指す。
新工場の従業員数は現在約3100人。米国で人手不足が深刻化する中、年内には目標の4000人まで増やすことを計画している。半導体不足とコロナ禍で供給網が混乱しているほか、インフレ率の上昇やロシアによるウクライナ侵攻もマツダの再出発には逆風だ。
今のところ部品調達などに支障は出ていないが、足元の国際情勢は「センチメント(消費者心理)に影響がある」と、販売を統括する青山裕大専務執行役員は言う。それでも今年度の世界販売計画124万台達成に向け、「需要旺盛な北米が引っ張っていく」と語る。
(白木真紀、杉山聡 編集:久保信博)
PR
PR
PR