- 2006/04/14 掲載
企業価値を向上させるM&A戦略(2/4)
リスク削減(Risk Reduction)
買収先の企業にビジネス・リスクを肩代わりさせることができれば、自社の抱えるリスクを軽減し、製品の多様化やコスト削減を図ることができる。03年3月、ダイムラークライスラーは三菱ふそうの株式を43%取得し、筆頭株主となった。世界最大のトラックメーカーであるダイムラークライスラーでさえ、日本を含むアジア市場で優位なプレゼンスを確保するには大きなリスクを覚悟しなければならない。このため、ダイムラークライスラーは、三菱ふそうとリスク削減型の戦略的アライアンスを結んだのである。ダイムラークライスラーは、三菱の販売ネットワークと小型商用車のノウハウを利用して、「アジア地域でのトップの座を確保し、海外販売台数を増やすための明確なロードマップを策定することができた」(ポート社長)のである。エコノミーオブスケール(Economies of Scale)
売上高数兆円超企業の買収さえ珍しくなくなったM&A時代には、企業は他社より数段大きな売上高や他社を圧倒する時価総額を持たなければ生き残ることはできない。企業のサイズが市場支配力、研究開発や事業戦略、そして営業戦略を左右するようになり、企業はあらゆる手を使ってスケール拡大に邁進している。GMはいすゞの大株主として、資本、研究開発、営業面における戦略的提携関係を構築している。04年11月、いすゞは三菱商事から大口出資を受けアジア・北米での事業を拡大する構えであり、全世界で850万台の自動車を販売するGMのスケールはさらに拡大するとみられる。見逃すことができないのは、GMが自動車の生産工程と部品・完成品の両分野でIT技術を統合し、全世界レベルでのスケール拡大を図っている点である。第1の例が、自動車業界のオープン電子部品調達市場(eコマース・エクスチェンジ)コビシント(Covisint)の活用だ。GMはオープンな電子部品調達市場を組成することにより、自動車のバリューチェーン全体が作り出す価値の最大化を狙ったが、コビシントは設立後3年でCompuware(Nasdaq上場)に買収されてしまった。自動車メーカーがリアルタイムでサプライチェーンを管理する、擬似垂直組織の個別電子取引所を好んだためである。コビシントの意図した自動車メーカーと部品サプライヤーを結ぶ「電子ハブ」構想はITバブルの崩壊で窮地に立ったが、GMのITサービスプラットフォームを利用したビジネスは、VRM(Vehicle Relationship Management)の一翼を担うOnstarで花開いている。
Onstarは自動車オーナー向けの情報及び保守サービスを提供するネットワークシステムで、オーナードライバーは24時間体制で道路情報、盗難車追跡、自動車事故への対応や車両の自動診断サービスを利用できる。現在Onstarの会員数は250万人を超え、潜在的なGM車の購入層を形成している「End of Detroit」 という本の題名が象徴するように、シェア低下が続く米国自動車業界だが、ITを利用したVRMというプラットフォームを利用して、巻き返しを図ることは間違いない。
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