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  • 2007/05/21 掲載

【見える化で経営課題を紐解く】 ナレッジの見える化が現場力を高める(2/2)

現場の情報・ナレッジ武装による現場の問題解決能力の向上

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「見える化」3つのパターン

 それでは具体的に何を「見える」ようにすれば、現場の問題解決力が高まるのか。「見える化」には「(1)情報の見える化」「(2)業務の見える化」「(3)人の見える化」の3つのパターンがある。それぞれのパターンについて、詳しく説明していきたい。

(1)情報の見える化

 現場力を高めるためには現場が必要な情報に瞬時にアクセスできる環境が欠かせない。しかし、今日の 企業現場では「情報が少ない」というよりは、メール、ファイルサーバ、イントラネット、共有データベースといった情報の洪水に溺れているのが現実だ。そこで、本当に必要な情報だけをムリ・ムラ・ムダなく現場に「見える」ようにできるかが重要となる。

 必要な情報だけを「見える」ようにするためには、まず「情報の整理・整頓」が必要である。ある大手金融機関では、営業スタッフが見なければいけない商品情報が社内の2000のデータベースに10万文書が散在していた。そこで、同社ではまず「捨てる」ことから始めた。蓄積されていた約10万件の情報の「棚卸し」を行い、残す価値のあるものを絞り込むと2万件に絞られた。さらに、利用頻度が高く頻繁に活用するものをあぶり出すと6000 件になった。この6000 件の情報を、情報の受け手の業務に合わせた形で分類した。

 例えば、「個人顧客向け」の業務関連の情報は、業務または商品による分類と業務プロセスによる分類の2 つを組み合わせた(図3)。
【見える化】
(図3)情報の整理・整頓

 業務プロセスが「提案」「事務」「事後処理」といった具合に、顧客に対する業務活動を念頭に置いて設定し、この分類の中に情報を当てはめていった。こうすることで、情報の利用者は、業務に即した形で適切な情報にアクセスすることができるようになった。それでも膨大な情報から本当に必要な情報を探し出すのは難しい。そこで、同社では「情報品質の見える化」にも取り組んだ。玉石混交の膨大な情報の中から、本当に価値のある情報を絞り込むために、どの情報がどの程度利用されたかの閲覧数を活用度として表示している。こうすることで、受け手は本当に使われている情報がどれなのかを把握することができる。また、閲覧数だけでなく、有用な情報にはフィードバックスコアを付けることで、その分野で最も よく利用されている情報、または他の人が業務で役に立ったといっている情報を優先的に活用することができる。こうした「情報品質の見える化」は、情報の出し手の業務の見直しにも効果があった。閲覧数やフィードバックスコアの低い情報については受け手のニーズがあまりないものと判断して、無駄な情報作成業務を見直したり、閲覧数やスコアの高い情報については受け手のニーズが強いと判断し、より充実した情報提供を心掛けることも可能である。こうして同社では現場が必要な情報だけを「見える」ようにすることで、現場の自律的な問題解決能力をサポートしたのである。

(2)業務の見える化

 2つ目は「業務の見える化」である。他の現場が行っている業務をお互い「見える」ようにすることで、現場が自律的に協調して動くことをサポートするのである。ある大手製薬会社の臨床開発部門では、新薬開発プロジェクトの業務連絡をメールによって行っていたが、メールでは宛先に含まれない人には状況が全く伝わらないし、業務の記録が蓄積されず過去の経緯や経験が垂れ流しとなっていた。その結果、プロジェクトメンバーに進捗や経緯・状況がきちんと伝わらず、情報が錯綜して手戻りやダブルワークが頻発していた。そこで、全てのやり取りを「プロジェクトワークスペース」と呼ばれるメールと連動した「場」の上で行い「コミュニケーションの見える化」を行った。プロジェクトメンバーがメール感覚でやり取りをしているとコミュニケーションの経緯が自然に蓄積される。チームメンバーは必要に応じて後からワークスペースを訪れてコミュニケーションの経緯を確認することで、各タスクがどんな状況にあ りどんな問題が起きているのか、過去どういう経緯で話が進んできたのかを共有することができ、手戻りやダブルワークの削減につながった。

 さらに、「アフター・アクション・レビュー(After Action Review、以後AAR)」という取り組みを行い、各プロジェクトの「経験の見える化」を行った。AAR とはとはいわば反省会である。プロジェクトが終わった後に何が成功/失敗の原因だったのか、どのような教訓や示唆を学んだのかを反省し、その知見を将来や他のプロジェクトで活用できるように「見える化」する(図4)。

【見える化】
(図4)After Action Review


 AARはプロジェクトの特定のイベントが終了した時点で関係者を招集して開催され、「どのような計画だったのか」「実際に何が起きたのか」「なぜそうなったのか」「教訓や示唆は何か、改善できることは何か」の4つのポイントをファシリテーターが中心となって議論・取りまとめた上で、データベースに蓄積していく。AAR によって、プロジェクトの成功/失敗の経験が「見える化」され、同じ失敗を犯さず成功を横展開することができるようになった。

(3)人の見える化

 最後が「人の見える化」である。他の現場にいる人やその人が持つスキルやノウハウを「見える化」することで、現場同士のコラボレーション・相互支援を触発する。「人の見える化」において重要なコンセプトが「KnowWho(ノウ・フー)」すなわち、誰がどんな知識・経験があるかを明らかにした「人名録DB」である。このDB を使って適切な専門家を探し出し、サポートを得るのである。具体例として、大手建設会社の「KnowWho」の仕組みを見てみよう。同社の全社員は自分のプロフィールを記載したウェブページを持っている。このプロフィールページには、名前、組織、役職、連絡先などの基本情報に加えて、自分の顔写真や自己紹介、技術面での専門性やこれまでのプロジェクト経験が登録されており、社内の誰もが閲覧することができる。こうした個人データは各自が自分で登録するだけではなく、その人が日々の活動の中で投稿した文書や行った質問・回答、担当したプロジェクトなどが自動的に登録・更新されるようになっており、社員が知的活動を行っていると自動的に「KnowWho」に組み込まれる仕組みを作り上げている。こうしたプロフィールページが全社員分あることで「KnowWho」が完成する。

 「KnowWho」の利用者は、適切な専門家を探し出し、問い合わせを行ったり、サポートを依頼したり、プロジェクトメンバーとして参画を依頼したりすることができる(図5)。

【見える化】
(図5)KnowWho


 同社では「KnowWho」に加えて、現場同士の相互助け合いを加速するために「ナレッジ・コミュニティ」 を構築した。ナレッジ・コミュニティは工法や対象物といった特定のテーマ毎に構築され、知識や技術・ノウハウを相互交流を通じて深め、助け合う場である。北海道のスタッフがトンネル建設での掘削方法で悩んでいる場合、日本中の掘削技術の専門家に支援の依頼を出すことができる。支援の依頼を受けて、各地にちらばった専門家はアドバイスをしたり、場合によっては現地に駆けつけてサポートをすることで、全国スタッフの英知を結集して問題解決に取り組むことができるようになった。人や人の持つスキルを「見える化」することで現場同士の助け合いを触発し、現場の問題解決力を格段に高めることができる。


見える化・権限委譲・意識改革の
三位一体改革

   以上、現場力を高めるための3つの「見える化」について説明してきたが、これだけでは現場は「ラン ドウォーリアー」にならない。冒頭の「21世紀の軍隊」では、末端の兵士の情報武装による「見える化」に加えて、兵士に対する大胆な「権限委譲」と、問題解決を自らしていくための「意識改革・スキルアップ」の三位一体の組織改革を行うことで、「21 世紀の軍隊」を実現したのである。真に現場の問題解決力を高めるためには、「見える」ことはもちろんのこと、現場が問題を解決するための「権限」や「意識の醸成」をいかに実現するかがポイントとなる。「見える化」をきっかけとした包括的な現場力強化の改革が求められているのである。  

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