• 2007/12/28 掲載

【長谷川裕氏インタビュー】他メディアと連携しながらラジオの存在感を示す(2/2)

「文化系トークラジオ Life」の仕掛け人に聞く多角的な展開

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ラジオを「見せる」ための書籍化

【コラム】【長谷川裕氏インタビュー】他メディアと連携しながらラジオの存在感を示す―「文化系トークラジオ Life」の仕掛け人に聞く多角的な展開
『文化系トークラジオ Life』
――ところで今回、番組の書籍化もされたわけですが、この企画はもともとどこから出てきたものなんでしょうか。

長谷川氏■
僕は本当は編集者になりたいと思っていたくらいに本が好きな人間なので、まずは単純に本をつくってみたかったんです。それに、このメンツだったら本になりそうだなっていうのは最初からすごく思っていて。だいたい、この番組に出てる人たちって、鈴木謙介さんにしても仲俣暁生さんや佐々木敦さんにしても、もともと活字で知った人ばかりですから。自分が本好きだから出したいっていうのが一つあったのと、それから、もうひとつはボリュームの違いですね。ラジオのボリュームにくらべたら、本のほうがよっぽどのベストセラーにでもならないかぎり小さいでしょう。それなのにラジオって、実際のボリュームにくらべると過小評価されているメディアだと思うんです。

 たとえば、僕がメインで担当している朝の番組は、まあだいたい聴取率を3パーセントくらい取っていますから、そうすると毎朝100万人ぐらいの人が聴いてくれているわけです。100万人っていったら、とんでもない数ですよね。それほど聴かれているのに、テレビでも雑誌や新聞でも、ほかのメディアでこの朝の番組が話題としてとりあげられるということは滅多にない。ラジオというメディアは、実体よりも過小評価されているんじゃないか。それとくらべたら、本というか活字というのはわりと過大評価されやすいメディアだと思うんですよね。

――どんな新聞でも書評欄は必ずありますしね。

長谷川氏■
そう、大新聞には定期的に書評が載りますし、そこではかなり少ない部数の本でも、でっかく取り上げられたりしますよね。これはラジオじゃ考えにくい。それに本は接する機会も多いじゃないですか。ラジオだと早朝や深夜にこの番組を聴いてくれって言っても聴ける人は限られるけど、本の場合、部数は少なくても書店で見かける機会は多いし手に取りやすい。やっぱり目に見える、実際の物体としてあるっていうのはでかいですよ。ラジオって結局は電波なので見えないし、物体として存在しないので、そこが過小評価される理由なのかもしれません。そう考えたとき、性質の違うメディアと組み合わせれば、その存在感を大きくできるんじゃないかと思ったわけです。

――ラジオというメディアの存在感を大きく見せるためにも、書籍化は必要だったと。

長谷川氏■
それから、ラジオの番組を偶然知るなんて機会はものすごく少ないですよね。たとえばいま、新聞のラジオ面を見る人ってほとんどいないじゃないですか。昔はテレビ面と同じ欄にあったのに、いまは真ん中のほうの誰も読まないようなところにあって、なおかつAMラジオはFMのさらにその下のちっちゃいところにあるから、もうタイトルぐらいしかわからない。その上、ラジオっていうのはザッピングも非常にしづらい。ようするにチャンネルをひねっても、しばらく聴いてないと誰が何の話をしているのかさっぱりわからないから、面白いかどうかなんてなかなかわからないですよね。そう考えると、書籍化することによって、書店でなり書評でなり、偶然知る機会を増やせるだろうと思ったんです。

メディア戦略と表裏一体の「ごっこ」感覚

――「Life」の本が出る前後には、番組と連動した形で書店にてブックフェアを行ったりもしていますね。

長谷川氏■
ブックフェアというのは、やっぱり目につきますから、さっき言ったラジオの弱点を補う効果があると思うんですよ。どういうテイストの番組なのかパッと見てわかるというのは大きい。本を並べるだけでなく、冊子やパネルを作って番組を視覚的にアピールすることを意識しています。で、実際にやってみたらフェアとしての売り上げも非常に良かったんですよ。紀伊國屋書店新宿本店でやったフェアでは、担当者が見たことがないと驚くぐらいの売り上げで、常設のLifeコーナーも作っていただけることになりました。

 で、そういうメディア戦略的なこととあわせて、僕の中では「ごっこ遊び」的な楽しさというか、そういうのが常に表裏一体になってるんですね。ほら、子供の頃ってたとえば、クリーニング屋さんごっこでアイロンをかけてみたりとか、いろんな職業の「ごっこ遊び」がすごく面白かったでしょう。本を作ったり、イベントをやったりするのもそういう楽しさがあるからなんです。専門外のことをやると新鮮で、打ち合わせしたりするのもすごく楽しい。そもそも考えてみると、この番組自体に「ごっこ」的な要素がありますね。たとえばネットラジオとかポッドキャストをやる人が世の中には大勢いますよね。あれ、ラジオごっこじゃないですか。別にお金をもらえるわけでもないのに、みんな自分で勝手にやってる。それはやっぱり番組をつくること自体が面白いからでしょう。で、立場上僕は一応ラジオのプロフェッショナルのはずですが、この番組に関してはかなり「ごっこ」的な、純粋に楽しむ気持ちがあるんです。だってラジオの常識ではちょっと考えられないようなメンツで、考えられないような内容の番組を、しかも本物のTBSの電波使って流しちゃうなんて、最高じゃないですか。

「生」だからこそ経験できるラジオの面白さ

【コラム】【長谷川裕氏インタビュー】他メディアと連携しながらラジオの存在感を示す―「文化系トークラジオ Life」の仕掛け人に聞く多角的な展開
長谷川 裕氏
――ここまでラジオと他メディアとの連動についての話を中心にうかがってきたわけですが、もちろんラジオにしかない面白さというものもありますよね。長谷川さんの立場から、そういう面白さで何か伝えていきたいことってありますか?

長谷川氏■
最初にポッドキャストの話が出ましたけど、それで聴いてくれる人がいるなら、もうラジオはやめて、ポッドキャストだけにしたっていいんじゃないの? っていう考え方もあると思うんですよ。だけどラジオ独特の、特に生放送の面白さっていうのはポッドキャストとは一味ちがうんですね。やっぱりリアルタイムで大勢の人が聴けるっていうことが大きいですね。もちろんハードルは上がりますけど、逆にそのハードルを越えてわざわざ特定の時間に、自分以外の人も聴いている状況で聴く楽しさも知ってほしいですね。実際、この番組をポッドキャストで聴きはじめて、その後ラジオを買って、最近は生で聴いています、っていう人もいるんですよ。ポッドキャストでは著作権の関係でカットされる音楽も聴けますしね。

 考えてみたら、インターネットのコミュニティでもオフ会とかするじゃないですか。ネットだったら離れて住んでいても、みんなの時間が揃わなくてもコミュニケーションできるにもかかわらず、わざわざ場所と時間を決めて集まるなんてことをみんな結構やっているのは、やっぱりそこに価値があるからでしょう。それと同じで、この番組も生放送でみんなが一度に集まって、ワーッとしゃべることがすごく楽しいわけです。そういう経験をリスナーにもしてもらいたいというか。特にネットからこの番組に入った人にはぜひそれを知ってもらいたい。やっぱりラジオの面白さって、時間を共有しているという興奮みたいなところにあると思うので。

――聴いている側としても、何かメッセージがあればダイレクトに出演者に伝えることができますもんね。

長谷川氏■
そうですね。それこそいまはメールがあるから、生放送での発言に対するツッコミとかがすぐ来て、それがすぐ読まれたりする。だから、ラジオの特性とかもともと持っている面白さがインターネットによって可視化されている部分はありますね。昔は、僕自身もそうだったけど、想像のなかで、ラジオの音楽番組でかかっている僕の好きなこの曲を、僕と同じように好きな人がどこかで同時にいま聴いているんだな……っていうふうに思っていたことが、いまではインターネットを見たら、mixiのコミュニティや2ちゃんねるの実況板の書き込みなどによって、実際に自分と同じようにこの時間に聴いているやつがいるっていうのがわかるじゃないですか。寝てしまいそうなときにリスナー同士が励ましあったりしてね(笑)。そのことでさらにラジオを一緒に聴けるという楽しさが増すと。

 だから、ラジオだけじゃ厳しいかもしれないけど、そこにインターネットだったり本だったり、あるいはイベントだったり、それぞれの特性を組み合わせることによって、いままでにない面白いことができたりとか、ラジオ単体では見えにくい面白さをわかりやすく伝えることができたりとか、そういう可能性は十分にある。何万人、何十万人が同時に生放送を聴くことができるラジオというメディアは、やり方次第でまだ相当使いでがあると思います。何しろ日本には2億台以上のラジオ受信機があると言われていますから、まだ面白いことができるなら使わないともったいないですよね。

(執筆・構成=近藤正高

●長谷川裕(はせがわ・ひろし)
1997年にTBS入社。営業セクションなどを経て、ラジオの番組制作を担当し、「森本毅郎スタンバイ!」などの番組を手がけている。また、注目を集める「文化系トークラジオ Life」の企画者にして“黒幕”としても活躍中。
サイト:「文化系トークラジオ Life」
参考:週刊ビジスタニュース[特別寄稿]「ラジオが届ける文化系“ライブ”」

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