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  • 2008/01/31 掲載

内部統制に向けた情報管理【第8回】情報戦略ガバナンス(2/2)

ボストン・コンサルティング グループ 井上潤吾氏

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情報管理のトレードオフ

  攻めの情報管理には、リーチとリッチネスのトレードオフがある。リーチとは取り扱う情報の範囲を指し、リッチネスとは取り扱う情報の深さを指す。たとえば、情報の受け手の数をできるだけ増やすことを、リーチを追求すると言い、受け手の数を犠牲にしてでも発信するメッセージの深さを求めることを、リッチネスを追求すると言う。リーチとリッチネスを同時に追求できればそれに越したことはないが、通常は時間やコストの制約があって、どちらかを優先せざるをえない。

 資生堂のVOC(Voice of Customer:顧客の声)を集め社内で共有する仕組みは、リーチに注目した仕組みである。顧客の声をカスタマーセンターで直接集めるだけではなく、メールや郵便、代理店経由で多元的に集め、その情報を経営陣、営業、マーケティング、商品開発、生産とさまざまな関連部署に発信している。

 また、セブンイレブンのFC(フィールド カウンセラ)会議はリッチネスに重きを置いた仕組みである。OFC(オペレーション フィールド カウンセラ)とは、加盟店主(オーナー)に店舗運営の指導を行う店舗経営に関する相談員であり、その数は全国で約1500 人といわれる。1974 年の創業以来、セブンイレブンでは、毎週火曜日に全OFC を集めるFC 会議を行い、OFC による店舗での改善事例報告や商品部からの新規商品の紹介などを行っている。毎週顔と顔を突き合わせて、コミュニケーションすることで、現場の深い情報を共有し、それをオペレーションに活用しているのである。

 攻めの場合は、上記のようにリーチとリッチネス、どちらかに重きをおいて、それを間断なく追求することがポイントである。

 守りの情報管理には、短期利益と長期利益のトレードオフがある。目前の利益を追求するだけなら、コンプライアンスやセキュリティに関する企業活動を極力抑えて、代わりに業績に直結する生産や営業を行った方が効率は高まる。一方、中長期の成長やリスク対策を考慮するなら、短期的な業務の非効率を許容しても、コンプライアンスやセキュリティにしっかり時間とお金をかけて基本を見直すべきである。残念なことに、このトレードオフにおいて許容範囲を超えた失敗例が続出している。短期利益を重視しすぎたために、顧客情報や自社の情報がインターネットを通じて外部に流出した例は枚挙に暇がない。

 一方、長期利益を追求しすぎて、短期利益の犠牲に配慮が不足している例も散見されるようになってきた。ある情報通信会社は、情報セキュリティに重きをおくあまりに決められた場所でしかPC を使えず、もちろん家に持って帰ることは許されない。仕事は山積みになり、オフィスに居る時間も残業規制により制限を受け、しかし期日までに納品する必要がある。社員から見れば八方塞がりであり、社員の労働意欲や顧客満足度の低下、短期利益の減少が懸念されている。

 ここで誤解していただきたくないことがある。どちらの例も、短期利益を追求するなとか、長期利益を追求するなとか言っているわけではない。守りの場合は、短期利益と長期利益のバランスをとりながら、最適点を探っていくしかないのである。


守りから攻めへ

 上記のような議論をすると、「それならできるだけ攻めの情報管理に社内リソース(人、モノ、金)を振り向けて、守りの情報管理には最低限のリソースだけ張っておこう」という考えが浮かぶかもしれない。しかしそれは違う。実は、この守りの情報管理は、攻めに転じることができるのである。コンプライアンス遵守や情報セキュリティを強化というと、後ろ向きの内部統制に聞こえるかもしれない。

 しかし、こうした内部統制の活動を行ううちに、これまで壊せなかった部門間の固い壁を越えて社内連携がうまくとれるようになったり、風通しの良い企業文化を再構築できるようになったりするのである。短期利益と長期利益のトレードオフを考えるときに、現行業務の効率性だけを対象に考えるのではなく、顧客視点でプロセスを見直したり、競合優位という視点で現行業務を直したりすることで、同時に満たせる課題とその解決策が見つかることもある。

 環境変化にうまく順応していける会社だけが、不確実性の高い将来の戦場で勝ち残っていける。こうした守りから攻めへの転換ができることこそ、競争優位の源泉なのである。

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