• 2008/05/07 掲載

【インタビュー】 現場視点でのボトムアップ的アプローチにより、ノウハウやナレッジの再利用を促進

情報活用を促進するエンタープライズ2.0

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企業活動における情報の重要性が高まるなか、膨大な情報を体系的に管理し、ナレッジの共有を図ることが重要なポイントとなっている。そこで注目されているのが、現場視点でのボトムアップ的な情報活用を促進する「エンタープライズ2.0」というコンセプトである。本稿では5月23日のセミナー「情報の利活用で攻めに転じる日本企業」の基調講演に登壇していただく、みずほ情報総研の平古場 浩之氏にエンタープライズ2.0の有効性などを聞いた。

膨大な情報があふれかえる“情報洪水”が大きな課題に

【知財/知識活用】情報活用を促進するエンタープライズ2.0

みずほ情報総研
コンサルティング部 コンサルタント
平古場 浩之氏

――企業活動における情報活用の重要性が高まっています。その一方、情報をうまく使いこなせていないといった課題も指摘されています。情報の管理・活用にあたって、企業は今どのような状況にあるのでしょうか。

平古場氏■
すでに誰もが認識していることかと思いますが、10年ほど前に比べ、私たちのワークスタイルが大きく変わっています。たとえば、オフィス環境の分散や縦割り的な作業だけでなく企業内外の組織を横断して仕事を行うことが多くなっています。またテレワークの推進等の働く環境の大きな変化もあります。私たちは、物理的・時間的に分散された環境の中で、情報の伝達・共有、コミュニケーションの多くを情報システムに頼っています。

 モバイル環境も整備されてきており、自宅や外出先からでもオフィスにいるときと同じ作業環境を実現できるようになりました。またネットワーク環境が進展したことで、遠隔地の相手とも瞬時にコミュニケーションをとることができる環境が整ってきています。それに伴い、Webやメールの利用が急速に拡大し、同時にアプリケーションの多様化やデータの大容量化も加速したことで、企業が扱う情報が爆発的に増大しています。

 企業が扱う情報は、財務データや生産管理情報などの構造化された情報、ビジネス文書、Q&Aなどのように構造化されていない情報、またこれらの情報の伝達がトップダウンなのかあるいはボトムアップで行われるのかによって、大きく4つに分類されます。

【知財/知識活用】情報活用を促進するエンタープライズ2.0
図1:企業における目に見える情報の分類


 このうちメールやグループウェア上に登録されるビジネス文書、ディスカッションなどは構造化されていない情報であり、体系的な管理が難しい状況です。しかしながら、企業が利用する情報には一定期間保存が義務づけられる場合もあり、安易に捨てるわけにはいきません。結果としてグループウェアやファイルサーバに蓄積される情報量は肥大化する一方です。また、メールはビジネスに欠かせないアプリケーションとなっており、そこにさまざまな情報が添付されてきます。忙しい人だと1日に数百通以上のメールを受信する場合もあり、受け手が処理しきれない限界に達しているケースも少なくありません。その結果、大量に送信され蓄積される情報の中から必要な情報が見つからないといった“情報洪水”に陥っている企業が増えています。

――“情報洪水”の弊害として、どのような影響が懸念されますか。

平古場氏■
必要な情報が見つからない、あるいは整理したつもりで必要な情報を削除してしまっていたり、蓄積されているだけでうまく再利用されていなかったりという弊害が考えられます。つまり、問題なのは、業務を遂行するうえで必要な情報の共有が組織内でうまくできていないことです。このことは業務全体の効率や、業務のアウトプットの品質などに大きく影響します。


エンタープライズ2.0に基づいたナレッジマネジメントを提唱

――では“情報洪水”を改善するために、企業はどうしたらいいのでしょうか。

平古場氏■
ただやみくもに情報を蓄積するだけでは、情報はますます肥大化していき、適切な共有や活用が滞るといった悪循環に陥りかねません。これを回避するには、情報を体系的に整理し共有・活用できるあらたな仕組みづくりが必要でしょう。それを実現するためのキーワードとして「エンタープライズ2.0」が注目されています。

――エンタープライズ2.0とは、どういうものなのでしょうか。

平古場氏■
みずほ情報総研では、「エンタープライズ2.0」の定義を大きく2つ示しています。ひとつは先程までにお話した課題に対して、ブログ、SNS、Wikiなど、いわゆるWeb 2.0を代表するツールやソーシャル性といった思想を企業でも利用して、現場に埋もれている情報の有効活用を目指すことです。これまで、情報の体系的な整理・蓄積方法や使用するツールはトップダウンで決められていましたが、エンタープライズ2.0は、現場の社員によって自由に整理し、共有しあう仕組みや風土をつくっていこうとする動きなのです。SNS、やWikiなどはこうした現場視点からのアプローチに適したツールだといえるでしょう。

 また、これまでは、さまざまなツールを導入しても、それが既存の情報システムや実際の業務とは切り離されて提供されていることが多く、結果としてツールの目的や役割が見えにくい、使いにくいといった理由などから、企業における情報活用というレベルにまで至っていませんでした。情報の有効活用を促進するには、既存の情報システム等との有機的な連携が必要なのです。たとえば、社員が業務に必要な情報をひとつのプラットフォーム上に集約し、そこで業務の遂行や情報の共有、コミュニケーションができる環境を提供することが求められます。このようなプラットフォームを実現するためには、RSSやマッシュアップ等といったWeb 2.0技術を利用するだけではなく、既存の業務システムを含め、情報システム全体の再設計と実装を行う必要があるでしょう。これが2つ目のエンタープライズ 2.0の定義であり、より実装技術・アーキテクチャ視点からのアプローチであることから、具体的にはSOAの考え方に近いものだと思います。

【知財/知識活用】情報活用を促進するエンタープライズ2.0
図2:企業におけるWeb2.0とは


――エンタープライズ2.0を実現するには、ツールの利用が欠かせないのですね。

平古場氏■
もちろん、そうですが、Web 2.0ツールや実装技術の利用がすべてではありません。それをどのように組み合わせ、どう活用するかが大事なのです。そのためには情報を活用するプロセスを分類し、各プロセスにおける定義と役割、対応するツールなどをきちんと整理しておく必要があります。みずほ情報総研ではこのプロセスをナレッジマネジメント(KM)になぞらえて定義し、対応ツールを体系化し、その適用を提唱しています。(※1)

【知財/知識活用】情報活用を促進するエンタープライズ2.0
図3:ナレッジ・マネジメントモデルとツール群の対応


 たとえば、ナレッジマネジメントのあり方については、業務の遂行のために情報を集めて取捨選択する「収集」、作成・収集された知識を保管・蓄積していく「蓄積」、膨大な蓄積情報から目的の知識を素早く探し出す「検索」、膨大な蓄積情報をわかりやすく分類する「体系化」、各ユーザーの業務・役割・嗜好に合った情報を誘導する「誘導」、情報や人、モノをつなげて知識を生み出すきっかけを作る「連結」、知識や情報をユーザー自身の言葉や経験として血肉化する「内面化」、個人の頭の中に埋もれている情報や知識を表に出す「表出」という8つのプロセスを定義し、各プロセスに必要なツール群などを紹介しています。これらの各プロセスにおいて、従来のようなトップダウン的なアプローチだけではなく、現場視点でのボトムアップ的なアプローチで情報を体系化し、これらのツールによって継続的に運用していくことで、現場に埋もれていた情報やナレッジの利活用を促進することができます。


情報のボトルネックを把握することが先決

【知財/知識活用】情報活用を促進するエンタープライズ2.0
――提唱されているエンタープライズ2.0を実現するにあたり、最も気をつけるべきポイントは何でしょうか。

平古場氏■
プロセスの運用や対応したツール群を利用していく以前に、組織内における“情報洪水”の現状をきちんと把握しておくことが重要でしょう。どのような情報がどのプロセスで氾濫しているのかといったボトルネックを理解したうえで、誰にどのような情報が必要かを踏まえた仕組みを設計する必要があります。その視点がないと、どんなに優れたツールを導入しても、単なる情報の入れ物にしかなりません。情報はどう使うかが重要です。

――最後に、5月23日に開催されるセミナー「情報の利活用で攻めに転じる日本企業」でのご講演内容についてお聞かせください。

平古場氏■
冒頭でも申し上げたように、今、多くの企業ではIT化の進展による“情報洪水”に直面しています。情報量は今後も拡大していき、同時にビジネスにおける情報の重要性もますます高まっていくことが予想されます。そのなかでナレッジの活用を図るには、情報共有のあり方を見直していく必要があります。そのキーワードがエンタープライズ2.0なのです。

 当日の講演では、先ほど述べたナレッジマネジメントのプロセス手法などをより詳しく紹介するとともに、エンタープライズ2.0のコンセプトを活用しながら、情報を適切に管理していくためのステップも解説する予定です。当日はぜひご来場ください。

※1 KMの提唱者である野中郁次郎氏が発表したSECIモデルをもとに、ナレッジマネジメントの各プロセスにおける対応ツールを体系化している。

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