- 2026/10/09 07:10 掲載
「生成AIでコンサル不要」に創業100年マッキンゼーの答え、自ら名乗る“ある肩書”(3/3)
なぜPFNと組む? マッキンゼーが協業相手に求める“条件”
冒頭に述べたように、マッキンゼーは2025年10月、マッキンゼー・デジタル日本統括責任者に工藤氏を任命し、「AIをバーチャルからリアルの世界に展開する」業界横断の取り組みに注力すると発表した。その後、フィジカルAIを取り巻く環境は急速に変化している。NVIDIAのIsaac GR00TやGoogle DeepMindのGemini Roboticsに代表されるVLA(Vision-Language-Action)モデルでは、言語や画像を理解するだけでなく、カメラから得た視覚情報や指示、ロボットの状態をもとに、実世界での行動(Action)まで生成するアプローチが進展。
ロボットが「見る・理解する」段階から、「考えて動く」段階へと移りつつあり、いわば「ロボットのChatGPT moment」が現実味を帯びてきた。
こうした中、日本でもフィジカルAIに向けた動きが本格化している。その1つが、プリファードネットワークス(PFN)も参画するNoetraの取り組みだ。
Noetraは、推論能力を持つ基盤モデルから、言語・画像・動画・音声を統合的に扱うオムニモーダル基盤モデル、さらに空間認識など物理世界の特性を理解する「実世界ネイティブAI」へと発展させるロードマップを掲げている。
これは、既存のLLM(大規模言語モデル)に画像エンコーダーを接続し、画像と言語を組み合わせて学習する従来型のLMM(Large Multimodal Model)から、さらに一歩先へ進む試みとも捉えられる。
たとえば医療分野では、LLMとCTやPETなどの画像エンコーダーを統合し、画像について質問に答えたり、所見文を生成したりするLMMの研究が進んできた。
一方、フィジカルAIでは、画像や言語を理解するだけでは十分ではない。ロボットの現在の状態や実世界の時間的変化を捉え、将来の動作や軌道を生成する能力が必要になる。
PFN代表取締役社長の岡野原大輔氏も、近年、実世界の観測情報やロボットの状態から将来のActionを予測するPhysical Foundation Modelや、大量の実世界データによるスケーリングに注目している。
こうした問題意識を踏まえると、PFNが持つ生成AI基盤モデルの技術だけでなく、ロボティクスや実世界制御の知見をどのように融合していくかが、今後の重要なテーマになる。
そこでマッキンゼーが強化しようとしているのが、こうした先端技術を持つテクノロジー企業との協業だ。これは、工藤氏が先に述べた「企業価値(インパクト)を高めるところまで支援する実装力」の強化とも呼応している。
最先端のAI技術とロボティクス、実世界制御技術を持つPFNとの協業も、その1つだ。では、生成AIがデジタル空間から実世界へと領域を広げる中、マッキンゼーはテクノロジー企業との協業で何を重視しているのか。工藤氏は次のように説明する。
「やはり、我々が提供できない先端技術の研究開発能力、設計能力、実装力などを持っているかどうかを重視します。たとえばPFNとの協業も、彼らの持つロボットの研究開発能力と我々のナレッジを組み合わせることで、新しい価値を生み出せると考えたからです」(工藤氏)
技術があっても価値が出ない…鍵は“リワイヤリング”
マッキンゼーがテクノロジー企業との協業を加速している背景にはテクノロジー企業側の事情もあると、アレックス氏は次のように説明する。「技術を活かすには、人とプロセスの“再構築(リワイヤリング)”が必要です。しかし、多くのテクノロジー企業はそこでつまずきます。技術があっても、その技術から価値を引き出す方法が分からないのです」(アレックス氏)
先端産業リーダー シニアパートナー(ボストン)
アレックス・パナス(Alex Panas)氏
そしてアレックス氏は、特に今年(2026年)に入ってから潮目が変わりつつあると指摘する。多くのテクノロジー企業が「際限のない投資は続けられない」という現実を認識しはじめ、顧客企業の人やプロセスを再構築(リワイヤリング)する支援を同社に求めるようになっているという。
1つの例として同氏は、あるテクノロジー企業、製薬会社、マッキンゼーの三者で取り組んでいる創薬のスピードを加速するプロジェクトを挙げる。
「製薬会社が新しい薬を開発する際には、その副作用を1つひとつ調査しなければならず、膨大な時間と労力がかかります。そこで我々がテクノロジー企業と製薬会社の間に入り、課題解決のご支援をしました。その結果、数万件もの反応をわずか2分でシミュレーションし、患者に起こりうる副作用の可能性を特定できるようになりました」(アレックス氏)
テクノロジーを自社のビジネスに活用したい企業、自社のテクノロジーを顧客企業に提供したい企業の2者だけではテクノロジーから価値を引き出すことは難しい。
そこに必要なのは、2者の間に入ってビジネスとテクノロジーを再構築(リワイヤリング)することだ。そのニーズは、今後、ますます高まる。つまり、リワイヤリングに長けたマッキンゼーの役割も、ますます大きくなるということだろう。
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