• 2012/01/13 掲載

【中丸満氏インタビュー】経済人としても偉大な平清盛――源平の相克から見えてくるもの(2/2)

『源平興亡三百年』著者 中丸満氏インタビュー

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源平交替思想と武士政権

――今年の大河ドラマは平清盛が主役ですが、今この人物に注目するとしたらどのような点でしょうか?

 中丸氏■平清盛といえば、『平家物語』のイメージから横暴で残虐な独裁者を想像する方が多いと思います。後白河法皇を幽閉したり東大寺を焼き討ちしたりして暴れ回ったのは晩年のことで、若い頃は身分の低い家人にも優しい心遣いができる気配り屋でした。今回の大河ドラマでは若手俳優を起用して、海賊退治などの若い日の清盛にスポットを当てるということなので、かつての『新・平家物語』を超える清新な清盛像が打ち出されることを期待しています。

 また、貴族の多くが外国を「ケガレ」の対象と見ていた当時、貿易の利益に着目し、港を築いて宋との通商に情熱を燃やした先見性も、清盛を語るうえで欠かせない事績です。歴史上の人物として、実業界から一定の評価を得ていた清盛ですが、今回の大河以後は織田信長などと並んで、経済にも功績を残した偉人として多くの人々に記憶されることになるのではないでしょうか。

――現在、中丸さんが源平の群像で関心を持っている人がいたら、お教えいただけますか。

 中丸氏■私の興味関心はいつも平清盛にありました。清盛の偉業を伝えるために「平家礼賛」というWebサイトを作り始めたのは10年前で、このサイトのおかげでさまざまな人との出会いがありました。もっぱら清盛の顕彰に勤めてきましたが、平家一門には清盛のほかにも魅力的な人物はたくさんいます。

 中でも、清盛の五男で文武両道に秀でた平重衡は、私のお気に入りの人物の1人です。容貌も美しく、冗談が好きで、詩歌管弦にも通じた宮廷の人気者。それでいてひとたび戦場に出れば、ほとんど負け知らず。唯一敗北した一ノ谷では捕らわれの身となりますが、頼朝の面前でも臆することなくすぐに斬刑に処するよう求めたという肝の据わった人物でした。清盛の美質をもっともよく受け継いでいた公達だったと思います。

 また、あまり知られていませんが、平家一門からはけっこう「高僧」といわれる人物が輩出されています。平師盛(重盛の子)の子息で法然の高弟となり百万弁知恩寺を開創した源智、源頼朝をはじめ鎌倉武士の帰依を受けた平教盛の子忠快、平頼盛の子で禅林寺12世となって浄土教の普及に尽した静遍などはその代表です。今後は、こうした平家出身の文化人についてもスポットを当てていきたいと思っています。

――「源平交代思想」についても少しご教示いただけますか。このような話がしばしば囁かれるのはやはり源氏と平氏への関心の高さでもあるのでしょうね。

 中丸氏■源平交代思想は、源氏と平氏が交代で政権を担うという歴史認識です。具体的には平清盛(平氏)→源頼朝(源氏)→北条義時(平氏)→足利尊氏(源氏)→織田信長(平氏)→徳川家康(源氏)という流れで、歴代の武家政権はおおむね源平が交代で政権を担っていることがわかります。ただし、織田氏はもともと藤原氏でしたが、信長が源平交代思想を利用し、政権奪取の正当性とするために平氏に改姓したとも言われており、室町幕府樹立まで源平が交代して政権を担っていたという偶然が、戦国武将の政権構想にも大きな影響を与えたということができると思います。

 また、信長や家康のような大物に限らず、出自の怪しい戦国武将たちの中にも源平の末裔であると詐称する者は少なくありませんでした。源平が武士の源流であり、その末裔であることが家名に箔をつけるものであると認識されていたためでしょう。このように源平という「ブランド」が後世まで効力を持ち続けた背景には、天皇の後胤である源平の武将たちの血統、『平家物語』が語る英雄譚や華々しい合戦のイメージがあったのだと思います。まさに、300年におよぶ源平の興亡史は、幕末まで続く武士政権の源流だったといえるのではないでしょうか。

●中丸満(なかまる・みつる)
出版社、編集プロダクション勤務を経て著述業。源平時代を中心とした歴史もののムック、パートワークなどに携わる。
著書に『平清盛のすべてがわかる本』(NHK出版)がある。関わった主な書籍・雑誌に、『よくわかる平清盛の真実』(ベストセラーズ)、『源平ものがたり』(学研)、『実は平家が好き。』(メディアファクトリー)、『戦国1000人』『源平1000人』(いずれも世界文化社)、『戦乱の日本史』『歴史の道』(いずれも小学館)、『名将の決断』(朝日新聞出版)などがある。


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